カエルの王子様
音にビックリして振り向くと、そこには私と同じくらいの大きさの犬が何頭もヨダレを垂らしながら私の様子を窺っている。あれってヘルハウンドだっけ?店長が教えてくれたのを覚えている。たしかそんなに強くないモンスターだよね。
うー、残念。ヘルハウンド倒したんですよ、ではあまり自慢にならない。むしろ夢のなかでまで怖がりなんだね、と笑われてしまう。
チェンジで。ヘルハウンドさん、チェンジでお願いします。
私は目を瞑り、夢のなかで更に寝ないよう気を付けながら、一生懸命違うモンスターを思い浮かべる。
ドラゴンさん出てきてください、ドラゴンさん出てきてください、ドラゴンさん出てきてください。
よしっ、流石にこれだけお願いすればドラゴン出るでしょ、わざわざさん付けまでしたんだし。
私がパッと目を開けると、そこには間近に迫ったヘルハウンドがいて、そのうちの一頭が大きく口を開け噛みついてくる。とてもゆっくりで、とても不思議な感覚。
………逃げなきゃ。
なぜかそう感じる。夢の中なのだから噛まれても平気なはずなのに、本能が避けてと言っている。
私は反射的に身体をのけぞらせると、目の前を鋭く禍々しい牙が通り過ぎ、代わりに私の腕はヘルハウンドの爪に引っかかれた。
痛い。
腕からは血が幾筋も零れ落ち、地面に赤黒い染みを作る。
痛い………痛い!!
これは本当に夢なの?ならなんでこんなにも痛いの!?傷は熱を持ち、私の心臓は壊れそうになるほど激しく脈打つ。呼吸をするごとに痛みは増し、頭がくらくらする。
私を襲った一頭が体勢を立て直して、今度こそ私の首筋を噛み切ろうと唸り声をあげる。
逃げなきゃ。
でも身体が反応しない。
怖い。
怖い、怖い、怖い!!!!
相手の動きはスローモーションのように遅く、コマ送りのような速度で私の首筋に牙が近づいてくるけれど、私の身体は石にでもなったみたいにピクリとも動かない。
私が怖がりだから?夢の中って動けないのが普通なんだっけ?夢の中で死んじゃうとどうなるの?色んなハテナと共に、様々な記憶が脳内を駆け巡る。
お父さん、お母さん、友達、大学の皆、バイト仲間に、店長。みんなの顔が次々に思い浮かんでは消えていく。
ひょっとしてこれって走馬燈なのかな、私って死んじゃうのかな。
私の首筋に牙が触れるちょうどその瞬間、背中の方からブワッという風が来て、気づいたら私にかみつこうとしていた一頭は首と胴体が離れ離れになっていた。
「自殺の邪魔をしたのならすまんな。そうでなかったら感謝しろ」
低く太く優しい包み込むような声。
何が起こったの?
一瞬でバラバラになった仲間の姿に驚いたのか、残りの子達は一目散に逃げて行った………助かったんだよね。
いきなり現れ私を助けてくれた、その声の持ち主にお礼を言おうと振り返り、私は言葉を失った。
なぜなら、そこにいたのは『カエルの王子様』だったのだから。




