断絶する地平と奇異なる聖痕の輪舞曲(ランドスケープグローリア・フロム・エターナルワルツ)
ミカヅキによる言葉の一斉掃射が止み、この場を静寂が支配する。チラリと妹達に視線を向けると、助けを求めるような視線が交錯し、互いに視線を逸らす。
答えは沈黙。
頭では理解していても、現実はそれを許さない。既にミカヅキがオレ達の態度を不審がっている。ミカヅキは反応を求め、妹達は口火を切る勇者を求めている。
いくか、狂える森に。
飛び込むか、幻想夢に。
「深い異名だな。アツコはどう思う?」
オレの言葉にアツコがビクリと身体を震わせ、妹達は火中の栗を拾うオレの姿勢に憧憬の眼差しを向ける。若干その視線に非難の色があるような気がするが、恐らくはきのせいだろう。オレは自分に出来る事をした、問題ない。
「………そ、そうですね、良く練られた幻想的な異名だと思います。ただ難点をあげるとすれば、知性が迸りすぎて愚者には意味が伝わらないという懸念がありそうね。私達はもちろん全て理解しているけれど、ミカヅキの意図が誤ったメッセージとして広まる可能性もあるんじゃないかしら。そう思わない?ナナセ」
「えっ、あっ………私も凄く良いと思うけど『狂える』とか『ナイトメア』って単語が不吉だって文句を言う冒険者の人が居たらやだなって。ほ、ほら、冒険者の人って験を担ぐでしょ?ねぇ、サヤちゃん」
「う、うん………私は大好きだけど、少し長いのを気にする人もいそうだよね。クエストボードに書くのが大変だとか、無理解な人は言うかもな~って。ワカナもそう思う派?」
「ワカナの番!?うーん………カッコいいかな、カッコいい!!キラキラしてる、キラキラネームって感じ!!!でも、ワカナのエンジェルをあんまりアピールしすぎると、皆に悪いかな。ほらっ、ワカナ可愛いから見た目だけで目立ってるし、異名まで目立つとバランスが悪いかな~って」
「ふふっ、皆心配性すぎるでしょ。大丈夫、最初はそういうやっかみもあるかもしれないけど、すぐにこの異名の素晴らしさが広まって、意味も伝わるから。良いものは良い、そうドンと構えていればいいの」
うん、たしかに広まるだろうな、色んな意味で。
「そうだ、兄様、兄様の案をまだ聞いてませんでした。兄様のアイデアを無視して私達だけで決めるなんて良くないです、是非聞かせてください」
アツコが助けを求めるような表情でオレを見つめる。そんな目で見ないでくれ、照れるぜ。
しかし、この空気を打開するにはオレのスペシャリティー溢れる異名を発表するしかないだろう。
「ふっ、ではオレの案を発表させてもらうか」
妹達がゴクリと唾をのむ。
「オレが考えた異名……………それは『断絶する地平と奇異なる聖痕の輪舞曲(ランドスケープグローリア・フロム・エターナルワルツ)』略してLGFEWだ。ははっ、少し捻ってきたなと思ったか?確かに一見奇を衒ったワードセンスに思えるが、その実極めてシンプルな創意に基づいていて、オレ達の根本的なアイデンティティーの発露である………あれ、皆、なんで席たつんだ、おーい、いまから説明が………おーい、どしたー」
それから色々あって、結局異名は『疾風』になった。
うん、やっぱりシンプルが一番だなって思った。




