満点の星々
「流石に乗り込むのは………もう少し穏便に事を進めるのがいいような………」
「行く」
オレが話の流れを変えようと口を開くと、それを遮るようにミカヅキが言葉を発する。
「行くってまさか………クアンドロス公のところに乗り込む気か!?ワカナも皆も冗談半分に言ってるだけで、本気で言ってるわけじゃ………」
「違う」
「よかった、考え直してくれたか。そうだよな、いくら何でも追手をさし向けてる相手の所に乗り込むのは無謀だよな」
「バカ兄の言う通り。ネロとか言う性悪に謝りに行くなんて絶対に嫌、願い下げ」
ん、んん?
なんかちょっと理由が違うような………まあ、迎えうつとか乗り込むとか、そういう物騒な展開にならなければいいか。とりあえず一刻も早く、ここを出なければいけないな。
行き先は………
「乗り込むなら、王都」
そうそう、やっぱり行くなら王都だよな。
………ん?王都?乗り込む??
「国王に直訴に行く。そこで自分の息子の蛮行を突きつけて、謝罪させる」
謝罪させる!?
こっちが謝るんじゃなくて、相手に謝らせるの!?しかも王様に!!??
「国王に直訴って、ミカヅキあなた本気で言ってるの?」
「本気。バカ兄は王女を助けたのに、訳の分からない言いがかりをつけられて犯罪者扱い。国王には自分の娘を助けてもらった感謝と自分の息子の不始末への謝罪、その両方をバカ兄にする義務がある。こっちからわざわざ出向いてあげるのはサービスみたいなもの。追い返されるなら、まかり通るまで」
「うわぁ、みっちゃんってたまにスイッチ入るよね。でも王都って楽しそ~。王様から王女様たすけたお礼もいっぱい貰えるかもだし、そうなったら今度こそ9つ星ホテルでデザートビュッフェだね!!」
「敵対している相手に直接弁明するよりも、事情を知らない王様相手に経緯を説明するほうが、いくぶん成功確率は高そうですね。それに王都ならここより一層ジーガジース参号様への功徳を積めそうですし!!」
「王都に殴り込みとか揉める要素しかないよね、なんか凄いことになりそうだけど、お兄ちゃんとミカヅキちゃんがそうしたいなら私は賛成かな~。面白そうだし」
「そういう事なら分かったわ。国王ならば相手にとって不足はありませんね、兄様」
妹達は口々に自らの考えを口にし、一斉にオレに視線を向ける。
国王に直談判………途方もないことになってきたが、全てはオレが原因だ。妹達がオレのために怒り、考え、より良い方法を見出してくれたのならば、オレはそれに応えるまでだ。
「よしっ、行こう、王都に!!」
正直に言えば、王様に会える気もしなければ、会ったとしても緊張して上手く説明できるイメージも沸かない。もし説明できたとしても、身内の不祥事を揉み消すためその場で処刑されるかもしれない。それでも、分かりあう努力をせずに逃げ回るより、ずっと良い。
オレ達はサイラスさんに礼を述べ、夜陰に紛れシュトライトヴァーゲンブルグを出発する。
金もなければ、伝手もない。
冒険者としての名声もなければ、依頼も失敗に終わった。
この都市に来た時から増えたのは、オレの罪状と兄妹の絆だけ、か。
ただオレの心は晴れやかだ。
自らの力を始めて正しく使えた、そしてそれを妹達が認めてくれた、そんな気がするからだ。
「王都ではどんな冒険が待ち受けてるかな」
オレが誰に言うでもなく呟く。
「なに?バカ兄なにか言った?」
ミカヅキの言葉にオレは「なんでもない」と答え、歩を進める。
空には満点の星々が輝き、オレはそれを掴み取るように手を伸ばした。




