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いもうと無双は異世界転生と共に〜38才こどおじの異世界英雄譚〜  作者: 蒼い月
王女と人狼

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人喰い鬼

「お前達、下がって結構。例の戦士を出しなさい」

「アレをですか!?しかし、グラファイス様、王女殿下がまだいらっしゃる中でアレを出すのは…」

「誰が意見しろと言ったのです。それとも貴方はアレの餌になりたいというのですか」

「いえ、差し出がましいことを申しました!!お前達、すぐに例の戦士を連れて来い!!」


 男はすっかり戦意を失った衛士達を下げると、舞台脇の備え付けられている昇降機が音を立て、ギリギリという滑車の響きと共に、一体の巨大な人型のモンスターが姿を現した。


「オーガだ、人喰い鬼だ!!」


 観衆が悲鳴にも似た声をあげる。

 それもそうだろう、オーガと言えばその名の通り人の肉を喰らう正真正銘のモンスターだ。その醜悪な容姿にトロールと同レベルの巨体、プレートメイルを着こんだ人間ですら容易に引きちぎるが出来る膂力を持ち、上位種ともなれば歴戦の冒険者のパーティーであっても全滅させられる可能性がある強敵だ。


 知性もあり人間社会に溶け込むことの出来る人狼よりも、よほど恐ろしい存在だと言えるだろう。

 たかだか余興のためにそんな化け物を用意していたというのか?いや、このような不測の事態に備え、いつでも使える手駒として温存していたと見るべきか。


 グランファレ商会、そしてそれを裏で操るネロという貴族。どう考えてもまともな連中ではなさそうだな。


「最後にもう一度だけ問います。退く気は?」


 その問いかけにオレはゆっくりと首を横に振る。


「殺しなさい」


 男の合図を待つ事もなく、オーガは人の背丈ほどもある大剣を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて振り下ろした。

 不味い、この一撃を避けると周りを巻き込む!!


「ふんっ!!」


 オレは咄嗟に手を交差させ、その一撃を受けとめる。


 ゴウッ、という衝撃音とともに足の裏が沈み込む感覚を覚える。

 普通の冒険者であったならば、防御した腕もろとも身体が四散していただろう………しかし、オレの肉体にはなんの変化もない。

 腕には確かな衝撃と僅かな痛みがあったが、不思議と恐怖心はなく、周りに被害が及ばなかったことに対する安堵感が心を満たす。


「馬鹿な、オーガの一刀を受け止めただと!?」


 グラファイスと呼ばれていた男が狼狽した声をあげ、オレはニヤリと口角をあげた。


「これで終わりか?なら反撃といこうか」


 オレは近くに落ちていた槍の石突をオーガの膝に突き入れる。


 ごぁあっ!!というくぐもった悲鳴が一帯に轟き、オーガがよろめく。


 続けざまに体勢が低くなったオーガの喉元目掛け槍を跳ね上げ、薙ぐように喉仏のあたりを激しく打ち付ける。オーガはその場で昏倒し、地面に倒れ込む。

 その光景に周囲は水を打ったかのように静まり返った。


「クロ…ネ、クロ………ネ?どう…したの、酷…い…傷」


 背後から吐息のような微かな声が聞こえる。振り返ると、血まみれになった王女が人の姿に戻った人狼の少女に寄り添い、互いが互いを支え合うように抱きしめあっている。

 王女は人狼のことを知っているのか?いや、明らかにそれ以上の関係だ。


 それならば、何とかなるかもしれない。

 オレは貴賓席に向け、スッと腕を伸ばし親指を立てる。


「クアンドロス公、王女殿下を襲おうとしていたオーガはこの通り戦意を失っている。ここにいるのは傷ついた少女二人。これ以上の戦いは無益だ。ゴブリン達に勝利した王女殿下の誇り、王女殿下を救った一人の少女の勇気に敬意を表し、生き残った女性や子供達の身の安全を保証いただきたい!!」


 観衆は息を飲み、声の出し方を忘れたかのように、事の推移を見守る。


 我ながら滅茶苦茶なストーリーを並べ立てている自覚はある。しかし、王女が女性や子どものために戦い、それを人狼の少女が救い、更に偶然迫ってきたオーガという脅威を旅の冒険者が退けたという物語は、この混沌とした余興の落としどころとしては都合が良いはずだ。


 王女を助けた少女も既に人狼の姿ではなく、市民の狂乱も収まっている。

 あとはグランファレ商会の後ろ盾だというクアンドロス公ネロがこの場を収める気さえあれば、この嘆願は成立するはずだ。


 オレはもう一度貴賓席に向かい、腕を伸ばし、ピンと親指を立てる。


 ローマ帝国では剣闘試合において敗者となり観客から死を求められた剣闘士の命を救うため、勝者は親指を立て皇帝に助命を願い出たという。

 偶然にもグランファレ商会を牛耳っている貴族の名はローマ皇帝ネロと同じだ。オレの行動の意味はきっと伝わっている、オレにはそれが分かった。

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