誇れる自分であるために
「おぉおぉ、とうとう商会長のお出ましか。そりゃあ女子供まで殺させるわけにはいかねえよな、頑張れ会長、地獄が待ってるぜ!!」
一層大きな笑い声がこだまする。
女子供!?
目を凝らすと、即席の舞台の脇で互いを抱きしめ合いながら小さくなっている女性達の姿が目に入る。その両手にはまだ幼い子ども達がしっかりと抱えられ、なにが起きているのかもわからず、母であろう女性をジッと見つめている。
グランファレ商会の会長だった男はゴブリンに弄ばれ、断末魔の叫び声をあげながら血だまりに突っ伏し、ついには二度と動かなくなった。
「だらしねえな、商会長様よ。んじゃ、最後だ、最後。女子供が殺されるのはちょっと寝つきが悪いが、せめて賭けの対象にしてその清らかな魂を地獄に送ってやろうぜ。俺は子どもが最後まで残るのに賭けるぜ」
「女が逃げて子どもが先に殺されるんじゃねえか?俺は女の薄情さに賭けるね」
男達の呑気なやり取りが脳を覆い、思考が停止する。
どうする、どうすればいい!?助けるか?
助けるのは簡単だ、ゴブリンは相手にならない。ミカヅキのようにゲートやテレポーテーションは使えないが、ディメンション・ドアを活用すればそこまで顔が割れるまえに脱出できるかもしれない。
しかし、助けたあとはどうする。
処刑されそうになった女性と子どもを抱えて旅をするのか?追手が来たならどう振り切る?奉納レースの護衛登録を見れば、オレの正体がバレるのも時間の問題だ。
妹達を余計な争いに巻き込んでしまうかもしれない。妹達に人を殺させることになってしまうかもしれない。
違う国に逃げれば大丈夫か?
信頼できる人間を探し、そこで女性と子どもを解放すれば………ダメだ思考がまとまらない。
なぜオレの身体は動かない。オレはこの世界に転生して、誰よりも強い力を得たんだ。誰に従うでもなく、自分の信念で、自分の選んだ道を進むことが出来る力を。
今こそ、その力を使うべき時だ。
暴力に、理不尽に、どうしようもない不正義に抗うため、この力はあるんじゃないのか!?
踏みだせ、オレが求めていた強さはそこにある。
妹達に誇れる自分であるために、自分を愛せる自分であるために、戦え!!救え!!
腹は決まった、鐘が打ち鳴らされる刹那、場内が狂気じみた熱狂に覆われる一瞬、ディメンション・ドアで飛び込み、女性と子どもと共に場外に逃げる。そこから一度ギルドに逃げ、妹達と合流しラグさん達の村に行こう。
悲劇を喜劇のように騙る人間の皮を被った魔物のもとではなく、真の強さを持った頼れる仲間のもとに。




