悪人かく笑えり
「次期国王お抱えのグランファレ商会が無様にも賜杯を逃すとはな。俺をここまで驚かせるとはむしろ感心したぞ、なあルペトよ」
ネロはどこかおどけるような口調で語りかける。ネロの面前には処刑台を目の前にした罪人かのように恐怖に身体を震わせる小太りの男が立っている。
「弁明はあるか?好きなだけ囀るがいい。人生で最後の言葉になるかもしれないからな。知っての通り俺は慈悲深い人間だ、聞くに堪えない惨めな懇願でも、ドブに放り込みたくなるような哀れな言い訳でも、なんでも聞いてやろう、ほらっ、どうした、早くなにか言え、ほらっ、ほらっ、ほらっ」
ネロの嘲笑にルペトと呼ばれる男はパクパクと金魚のように虚しく口を上下させ、やがてなにかを諦めたのか首をうなだれた。
「フハハハハハッ!!!!冗談だ、冗談、この俺が、ケルキヤ王国次期国王たるこのネロが、この程度の失態で命を奪うと思ったのか?たかだか一都市の商権を失ったところで俺の地盤は揺るがん。あと数年もしないうちに、この国の全てを手に入れるのだからな。それにお前はこれまで俺のためによく働いた。信賞必罰は王たる者の務めだ」
「お、お許し頂けるのでございますか。あ、ありがとうございます。今回の失態は必ずや償わせて…」
「………ただ、なんの罰もないというのは示しがつかんな」
ネロがようやく口を開いたルペトに向かい、獰猛な肉食獣にも似た笑みを浮かべる。
「………なんなりと」
「どのような罰でも異存はないと言うのか?」
「はい、仰せのままに」
「殊勝な心掛けだ、気に入った。ルペト、俺はお前を許す。お前には一切の罪を問わん。グランファレ商会も引き続きお前が取り仕切れ、そして働きを持って償え」
「なんたる、なんたる有難きお言葉!!不肖ルペト、我が生涯をかけてクアンドロス公の慈悲に報います!!」
「フハハハハハッ、そうだろう、そうだろう。王という者の器とは下賤の輩とはこれだけ違うのだと心に刻んでおくのだな。では、もうよい、下がれ」
ルペトが部屋を去り、入れ替わるように一人の男が部屋に入る。
「国王陛下、御前に」
口が耳まで裂けんばかりの硬直した笑顔を持った男が、ネロの前に跪く。
「国王か、良い響きだな。俺にこそ相応しい。しかし、現実はどうだ。グランファレ商会は惨めに破れ、どこの馬の骨とも知れん者どもに商権を奪われた。しかも愚かな市民共はその馬の骨に喝采まで浴びせる始末だ。リーゼも叔父上も薄ら笑いを浮かべているだろう」
「我がグランファレ商会の失態、伏してお詫び申し上げます」
「我が、か。気が早いな、グラファイス」
「それはお互い様でございましょう」
互いが顔を見合わせ、抑揚のない笑い声が室内にこだまする。
「では、余興は任せたぞ」
「かしこまりました。必ずや国王陛下にご満足いただけるような見世物をご用意いたします」




