神の福音
「さっきから聞いてりゃ、金がないだの、夢がないだの、景気の悪い話ばっかでやんなるぜ」
「ナナセ、まさか私のへそくり盗んで賭け事してきたわけじゃないでしょうね!!いくらお金がないからって流石にそれはダメでしょ!!」
「盗んだ?おいおい嬢ちゃん、人聞きが悪いな、これは借りたって言うんだぜ。それに金がないってのも大間違いだな………何故ならこの天才ギャンブラーナナセ様が、恵まれない貧乏兄妹のためにたんまり稼いできてやったからなぁ!!!!!!」
ナナセはそう言うと、上空に向かい革袋を中身をばら撒いた。
空高く放り投げられた金貨は傾きかけた陽の光を受けその煌きを誇示し、床に落ちた金貨の音は十分な質量を聞く者に感じさせる。
「いや、投げる意味!!」
ガハハハッと高笑いするナナセを尻目に、オレとミカヅキは必死に床に転がった金貨を拾い上げる。
幸いナナセの姿を見て多くの良識人、特に頭部が寂し気な男性は一定の距離を取っていたため、盗まれることなく拾い上げることが出来たが、二人がかりでも集めるのに苦労する量の金貨がどこから生まれたのかという疑問が頭をよぎった。
「兄貴、なんでお前が金持ってんだって顔してるな。そんなの決まってんじゃねえか、勝ったんだよ、ギャンブルに!大勝負に!!奉納レースで大穴あけてやったんだよ!!!」
え、奉納レース?賭けたの奉納レースに?
……………ええええええっ!?
なに、自分が出場してるレースに賭けてたの!?っていうか、それルール的にOKなの!?現代日本だったら即業界追放になる一番ヤバいやつでしょ、それ!!
異世界ギャンブル、いくらなんでもガバガバガバナンス過ぎるだろぉ!!
「っていうか、なんで私達の優勝に賭けてないの!!」
「わかってないねぇ、お嬢ちゃん。ギャンブルってのは偶然を楽しむもんだぜ。レースでは努力することで必勝を目指し、ギャンブルでは気まぐれなジーガジースちゃんによる偶然に一喜一憂する。必然と偶然が重なり最強に見えるだろ?」
「いや、全然理屈通ってないからね、適当なこと言ってるだけでしょ!!………ところで、一応戦果を聞いといてあげるけど、どれくらい勝ったの」
ミカヅキが拾い上げた金貨の重さを確かめながら言う。心なしか嬉しそうだな、メチャクチャにやにやしてるし。
「聞いて驚くなよ、金貨500枚、3連単でガッポガッポだぜ!!」
金貨500枚!!
日本円換算で5000万円!?
ブルジョワ、圧倒的ブルジョワじゃないか!!
「金貨500枚………なるほどね、ナナセの信仰も無駄ではなかったわけね。まっ、私の金貨100枚を使いこんだ罪はこれで帳消しにしてあげる」
サラッとアツコが拾った金貨100枚がミカヅキの物になってるのは気になる所だが、これでオレ達のパーティーの財政状況が劇的に改善したことも事実だ。
金貨100枚は一番金銭感覚がシビアなミカヅキに管理を任せるとして、残りの400枚をどうするかだが、やはりギャンブルとはいえ実際に勝ち取ったナナセに全額任せるのが正しいんだろうな。流石に一度全部取り上げて公平に再分配というのは、冷静な状態のナナセなら笑顔で了承してくれるだろうが、横暴すぎる気がする。
ミッドガルドなら金もアイテムもグループ共有だったから、こういった問題はなかったんだけどな………金銭面での貸し借りは遺恨を生みやすいし、オレ達のパーティーは依頼で得た報酬はキッチリ山分け、それ以外は個人管理というシステムを徹底しよう。
「盛り上がってるとこわりいが、これは一度回収させてもらうぜ。この賭場は胴元が細分化されてて、いまいち胡散臭えんだ。一度金貨を簡易鑑定に出して、もし偽金掴まされてんなら胴元の親父を締め上げねえといけねえからな」
ナナセはそう言うと、名残惜しそうな面持ちのミカヅキから金貨をひょいと取り上げる。
「ナナセが鑑定してもらっている間にオレとミカヅキで皆と連絡を取るか」
ミカヅキが露骨に肩を落としながら首を縦に振る。常にミカヅキにお金の心配ばかりさせてるな、本当に情けない限りだ。
シュトライトヴァーゲンブルグを出たら体制を立て直して、今度こそは冒険者として依頼をこなしまくり、正当な報酬によりミカヅキが安心できるくらいの金貨を積み上げよう。
オレは一人そう決意した。




