探し物は神の手に
「あっ、お疲れ。あの、まあ、色々あったけど、良い奉納式だったんじゃない?よく分からないけど目標も達成できたし。だから………その、あんまり気を落とす必要はないと思うけど。2位だって立派な成績なんだから」
戻ってきたオレに向かい、ミカヅキが目線を逸らしながら声をかける。
うん、あれだな、励ましてくれてるのは分かるんだけども、ミカヅキさんさっき表彰式の時に他人のフリしてませんでした?
いや、いいんだけどね、全然いいんだけどさ、ちょっと悲しかったな。
「………ゴメンなさい、悪かった。2位って言われてパニックになっちゃったの、許してよ」
知らず知らずのうちにオレが恨みがましい目で見ていたのか、ミカヅキがそっぽを向きながら小さくぺこりと頭を下げる。あまりと言えばあまりにテンプレートな行動に、オレは思わず吹き出す。
「なに、文句あるの?」
「いや、ありがとう。ちょっと落ち込んでたけど、ミカヅキがいつも通りで少し元気が出た」
「………そう、なんかモやっとするけど、落ち込んでるよりかはいい」
「ところでナナセとワカナはどこに行ったんだ?」
「ナナセは緊急の用事があるとかで表彰式が終わったらすぐ何処かに行った。ワカナはアツコとサヤに連絡とるとか言ってたけど、どうせ出店でも見にいったんでしょ。『お金なくても、ジッと眺めてれば優しい人が奢ってくれるかも。エンジェル式節約術完璧だよね』とかわけのわかんない事いってたし」
なんだかワカナが可哀想な子になってる!!
奉納レースの高揚感で都合が悪い記憶には蓋をしていたが、いざ現実に目を向けると問題が山積だな。
結局2位ということでガイエ商会からの報酬はゼロだし、あれだけ目立ってしまった以上、当然グランファレ商会からの恨みも買っているだろう。これから先シュトライトヴァーゲンブルグのようなグランファレ商会の息がかかっている都市で冒険者をやっていくのは難しいだろう。
宿に泊まる金もないし、当面は野宿で凌いで他に稼げそうな都市を探すしかなさそうだ。
「なに難しい顔してるの」
「いや、皆には苦労ばかりかけるなと思って」
オレは思わず深いため息をつく。
この世界に来てから妹達には迷惑をかけどおしで、何も兄らしいことを出来ていない。リーダーとして、年長者として、兄として、猛省しなければ。
「そんなこと気にしてたの?確かにお金がない、頼りがいがない、甲斐性もない。無いない尽くしで三拍子揃ってるけど、バカ兄なりに頑張った結果でしょ。大体元から期待してないから安心して。あんまり落ち込んでると、こっちまで気が滅入るから、虚勢でもいいから胸張ってなさい。それにお金なら少しくらいは………」
「どうした?」
ミカヅキがローブのポケットを何度もまさぐる。その表情は『いや、別に特に問題はないんだけどね』という虚勢が見え隠れする。
あ、これ、あれだな。
落としたな、へそくり。
何気なくポケットの中にあるはずの自転車の鍵とか触ろうとしたら見つからなくて、少しづつ本気で焦るタイプのリアクションだ。
なんか不憫だな………ここは兄として優しく………
「お嬢ちゃん、探し物はコレか?」
不意に一枚の金貨が宙を舞い、ミカヅキのポケットにスポッと収まる。
「………ナナセ!?どこ行ってたの!!」
金貨が飛んできた方向に視線を向けると、柱にもたれかかり帽子を目深に被ったナナセが、良く分からない長細い枝を咥えながら立っている。
え、なに、その帽子?あとその枝どういう意味!?西部劇のガンマンが咥えてる謎の細長い棒的な演出なの!?




