神に捧げるは善意か
「う~ん、優勝賞金なにに使おっかな~、やっぱり始めは超一流ホテルだよね、9つ星くらいの、そのあとはデザートビュッフェ食べて~、新しいお洋服も欲しいな~」
「ワカナ、現実を見なさい、あとついでにバカ兄の事も。負けたの、私達は、全然知らなかったけど!!というかここの客はなんで2位争いにあそこまで熱狂できるの!!全員ナナセ並みのギャンブル中毒なの!?」
「落ち着いてミカヅキちゃん、トップが独走状態の場合は2位争いに妙味があるのがギャンブルの常識だよ?今回のレースは1位が大穴だし、2位が大本命か大穴かで、オッズに天と地ほどの差があるの」
「いや、そんなこと聞いてるんじゃないだけど!!ってうか、なんでナナセはそんなに落ち着いてるの!?負けたの、私達は!!これでグランファレ商会の独裁がまた続くの!!それでいいの!?」
「違うな、優勝チームはグランファレ商会の傘下じゃない。というより、オクスタ商業組合なんて聞いたこともねぇ」
「どういうこと?グランファレの手先じゃないの?」
「恐らくな。奉納式の最後には、勝ったチームの商会長なんかが神への奉納品って形で、住民に大盤振る舞いを宣言をするのが決まりになってるんだ。例えば前回なんかは都市の居住者全員にパン一切れが振る舞われたんだが、これがまあセコイのなんのってグランファレ商会の評判を落としてる要因にもなったもんだぜ。場内騒然、大ブーイングだったからな。話を戻すが、もしオクスタ商業組合ってのが俺も知らないグランファレ商会の傘下の商人なら、最後の宣言でグランファレ商会に触れるはずだ。今後の都市の統治体制にも関わる大事だからな。あいつらがグランファレなのか、そうじゃないのか、この競技場に集まっている市民だけでなく、シュトライトヴァーゲンブルグの住民全員が注目してるはずだ。大人しく聞いてみようぜ」
サイラスの言葉にミカヅキは首を縦に振る。
表彰が滞りある状況でなんとか終了すると、いよいよ奉納式を締めくくる、優勝者チームによる奉納品の宣言が始まった。
「皆さま、こんにちは。この度の奉納レースにおいて、神王への感謝を捧げる大役を仰せつかりましたヤダ・ヨーサと申します。本来であればオクスタ商業組合の組合長が務めるべきところですが、優勝すると思っていなかったみたいで、会場に来てないんです。私の笑顔に免じて許してあげてくださいね」
ヨーサさんの砕けた挨拶に会場から笑いが起こる。小柄の少女の声が競技場全体に響いているのは、なんらかの魔法の効果なのだろう。
笑いが収まると奉納式を取り仕切る神官から『神に何を捧げるのか』という問いがヨーサに投げかけられる。会場が一斉に静まり返り、今回のおこぼれがどんな物になるのか固唾をのんで見守る。
「我がオクスタ商業組合が神王に捧げるのは『奉納レースの優勝にまつわる権利全て』です」
ヨーサの宣言に観客から一瞬声があがり、すぐにまた静まり返る。
「『権利全て』ってどういうこと?」
ミカヅキが誰に言うでもなく呟く。
観客も同じ気持ちなのだろう。ヨーサの言葉の意味が飲み込めず、更なる言葉を待っている状況だ。
「全てとはどういった意味ですか」
神官がこの場にいる全員の思いを代弁してヨーサに問いかける。
「全てです。賞金も、権利も、その全てをシュトライトヴァーゲンブルグの全住民に等しく分けます。賞金は一人当たり銅貨2枚、商業権はすべての商会や組合、商人に公正なる抽選により分配します。それがオクスタ商業組合の偉大なる神王への奉納品です」
ヨーサが語る内容に観客が顔を見合わせる。
賞金も、商権も、その全てを放棄するという宣言。
その意図が分からず、その考えを理解できず、言葉が見つからない観客達。
ふと音を失った競技場にパチパチという小さな拍手が鳴り響く。
微かな振動の発信源はミカヅキだった。その拍手の音色は、ミカヅキを中心に少しづつ波紋のように広がり、やがて大きなうねりとなって競技場を包み込む。
「ありがとうございます、オクスタ商業組合は今ここにシュトライトヴァーゲンブルグの新たな船出を宣言します。独占と独裁による悲惨で陰鬱な過去に別れを告げ、平等と公正により希望に満ちた未来を取り戻します。どうか力を合わせて共に歩んでください」
ヨーサさんの力強い宣言に競技場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。熱狂を超え狂騒とも言えるその光景は、得体の知れない悪魔に魅了された崇拝者の群れに酷似していた。




