勝利の凱歌
「兄さん、まだです」
ナナセがオレの肩に手を置く。
まだ?なんのことだ?
旭日の師団は最後の直線に入っている。もう追いつくことは出来ない。奇跡でも起きない限り。
100メートル、90メートル、80メートル………全力で駆け抜ける戦車の車輪が大地に轍を作り、それがゴールに向かって伸び、そして宙に浮く……………
「宙に浮く!!??」「なにあれ!!」
オレとミカヅキの声が交差する。
「ふふ、ワカナの策がハマったみたいだね」
「ワカナ、いったい何をやったんだ!?」
「あ、いえ、ワカナちゃん何もやってないです、私がやりました、兄さん。皆さんが矢の攻防に集中していたので、ハルバードを拝借して口寄せしたムキムキマッチョコダマにゴール前まで運んで貰ってたんです。それを戦車の下で跳ね上げたんですが、たまたま旭日の師団の走るコースと置いた場所が一致して良かったです」
「そういうことなのだよ」
「なんでワカナが偉そうにするの!!」
ムキムキマッチョコダマ!?
明らかにダダ滑りだった期間限定ガチャ外れ枠のネタ式神がこんなところで役に立つなんて!!
ゴールまで100メートル、90メートル、80メートル………オレ達の戦車が旭日の師団の横を通り過ぎる。
そして、今日一番の大歓声が競技場に響き、オレ達の戦車はゴールへと吸い込まれていった。
「オレ達の優勝だ!!!!!!!!!!」
オレは空に向かって拳を突き上げる。
それに呼応するように再び大波のような歓声が起こり、オレは思わず観客席に向かい頭を下げていた。
知らず知らずのうちに背負っていた優勝というプレッシャーから解放感。
勝者に向けられる惜しみのない喝采への感謝。
これまでの人生で一度も味わったことのない感動がオレの身体を包み込む。
「なんかワカナ達アイドルみたいだね、手ふっとこ~」
「それだけの事を成し遂げたってこと。私達はグランファレ商会を倒したんだから。大変なのはこれから。まったく厄介な奴らを敵に回すことになった」
ミカヅキがわざとらしくため息をつくが、その表情には喜びが隠せない。
「ナナセ、ありがとう。ナナセがいなかったら勝てなかった」
「いえ私達5人の勝利です。サイラスさんの技術がなければ旭日の師団に追いつくことすらできませんでした。ワカナちゃんがいなければきっと戦車は今頃ハリネズミみたいになってました。ミカヅキちゃんがいなかったら最後のトラップに気づかれて逆転は出来ませんでした。そして、兄さんがいなければ私達はここにいませんでした。全員で掴んだ勝利です」
ナナセの言葉に何故か涙がこぼれる。
「バカ兄、何泣いてるの!?」
「いっちゃん、お腹痛いの?大丈夫??」
「いや、嬉し涙ってやつさ」
そう、これまで誰かに心の底から認められるなんてことには、縁のない人生だった。
なんとなく生きて、いつだって中途半端で、同じ日常を繰り返す毎日だった。
それでいいと思っていた。
けれど、この世界でオレは誰かのために戦う力を得て、志を同じくする妹がいて、新しい仲間ができた。優勝できたからじゃない。きっとその事が嬉しいんだと思う。
オレは止めようとしても溢れてくる涙を拭いながら笑った。




