敗北
ワァァァァアアアアアアという地鳴りのような大歓声が耳をつんざく。観客が地面を踏み鳴らす振動で戦車が揺れ、戦馬はその熱気にあてられたかのように更に加速する。
「いっちゃん、もう追いつくよ。抜くとき変顔したほうがいいかな?」
「どういう発想なの!!最後に何か仕掛けてくるはず、気を抜かない!!」
あと少し………いまだ追いつける!!
「ちっ、しつこい奴らだね!!」
「キャハッ、こうなったら、最後の手段、いっちゃう?」
「機は偶により満ち、竜となり天に昇る」
「なんかよくわかんないけど、やっちゃえやっちゃえ、って言ってると思いますぅ!!」
「ふんっ、こういう間抜けな役はやりたくなかったが、こうなってしまっては致し方無い、いくぞ、カーコ=イ=シーザ」
「オレタチ フタリハ カッテニ ツイテキタダケ マチガイ ナイ」
旭日の師団の戦車から何やら不穏な気配を感じる。いったい何をする気だ………ってえええええええええええええ!!!!!!????????
ジェットスキーのように戦車の後ろに掴まっていた二人が切り離されて……………なんかゴロンと寝転んだ!!!!!!!!!!!!
いや、それ思いっきり戦車に轢かれるけど!!??捨て身にもほどがあるだろ!!!!!!!!!!!
「あぶねぇ!!」
サイラスが咄嗟に手綱を引き絞り大きく迂回し、進路上にグルグル転がりながら迫りくる二人を避ける。
「反則でしょ、こんなの!!」
「オレタチ ゴエイトウロク ナマエナイ タマタマ センシャニ ヒッカカテタダケ」
「はんっ、例えるのなら、戦車に挟まっていた小石が、落ちただけじゃ、それを反則とは、片腹痛い」
二人が高速で転がりながらカッコつけてなんか言ってたけど、全然頭に入らない!!
しかし、このアホな作戦で距離を離されたのも事実だ。
「キャハッ、優勝はボクたちが頂くね」
クソッ、このままじゃ追いつけない!!こんなのが通用するとは思えないけど、なんでもやってみるしかない!!
「バカ兄、何するの?」
「ヘビーボウガンだ!!」
ミカヅキに応えると同時にオレは引き絞ったボウガンから矢を放つ。
「アタイにそんな子供だまし通用するわけないねぇ!!」
旭日の戦車の車輪を狙って放った矢は、交差するもう一本の矢に軽々と弾かれ、宙に舞う。
「無駄な抵抗ですよぉ、人生諦めが肝心って言うじゃないですかぁ、準優勝おめでとうございますぅ」
優勝は決したと確信したのか、笑顔でヒラヒラと手を振る。
「誰が準優勝なの!?」
「ミカヅキ、気持ちはわかるが、もう打つ手が………」
「支給武器なら相手戦車への妨害はいいんでしょ?なら矢がどんな軌道を描こうがそれは偶然ってこと、あいつ等が戦車に引っかかった小石を落としたみたいにね!!これでどう、タイニィサイクロン!!」
ミカヅキが唱えると弾かれた矢が小さな風の渦に飲まれ、再び方向を変え凄まじい速度で車輪めがけ射出される!!
「なっ!!間に合わなっ………」
よしっ、いけるっ!!!
「見事、されど願いは叶わぬからこそ儚く美しい」
オレ達の最後の希望は陽光をうけ光り輝く一本の槍によって無慈悲にくだかれた。ゼライアスが折れた矢が地面に落ちるのを確認し、槍をおろす。
終わった。オレ達の負けだ。
しかし、全力で戦った、悔いはない。




