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いもうと無双は異世界転生と共に〜38才こどおじの異世界英雄譚〜  作者: 蒼い月
竜のねぐら

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言葉の戦い

「そこの荷馬車!!止まれ!!」


 数騎が荷馬車の前にまわり込み、行手を遮る。


「どうされましたか?」


 オレは努めて冷静を装う。

 38歳こどおじファミレス店長にだってスマートな会話ができる事を妹達に見せなければ!!


「猿芝居はやめて貰おうか。」


 典雅な口調のなかに酷薄さを秘めた声が、背後からオレを突き刺す。

 振り返るとそこには豪奢な白銀の胸当てをつけた若い男が、一際雄々しく美しい駿馬に跨りこちらを見下ろしている。

 陽を受け輝く金色の髪は怪しい光を放ち、剣の鞘には金銀宝石がちりばめられその富貴さを誇示している。


 間違いない、コイツが昨日ルーフェとかいう騎兵隊長が言っていた主人、この地方の領主だというグレンツァという貴族だ。


「猿芝居とはいったい何の話…」

「下らないやり取りは不要だと言っている。豚を差し出せ。ここまでその澱みきった腐臭が匂う。不愉快だ。」

「い、いきなり貴方達は何者ですか。人にものを尋ねる時はまず自分から…」

「構わん、その薄汚い荷馬車ごと焼き払え。焼けばこの鼻を突く悪臭も、少しは良い香りに変わるだろう。」

「あっ、やめ…」

「下がりなさい。」


 荷馬車に近づこうとする騎士をアツコが手で制する。


「兄様が話しています。」


 その声は穏やかだがいいしれぬ威厳に満ち、その凛とした姿は300騎の軍隊を前にしてもこゆるぎもしない。


「ほう、貴様がルーフェの言っていた…たしかに目を見張る美しさだな。これはなかなか楽しめそうだ。」


 グレンツァは品のないセリフを吐くと、下卑た笑みをうかべる。たった数回会話を交わしただけだが、心底不快な男だ。

 まあ会話自体成立してない気もするけど…っていうか無視されてる気がするけど…。


「なにか人違いをされているのではありませんか?我々は旅の冒険者。貴方のような高貴なお方の手を煩わせるような事はしていませんが。」


 オレは下手に出ながら様子を窺う。

 そうだ、相手を悪質クレーマーだと思えばいいんだ。


 店員の敬語が間違っているが気にくわない、この前はブロッコリーのトッピングがタダだったのに今回は金をとるのか、ドリンクバーにビールが入ってないという説明は受けていない…ありとあらゆるしょうもないクレームを全部乗り越えてきたオレじゃないか!!

 なんか自分の経験を思い起こすと余計に自信がなくなってきたが、ここはなんとかやり過ごすことを考えるしかない。


「旅の冒険者?なら何故荷馬車に食糧を積んで森に向かう。森の亜人共に用でもあるというのか?」

「こ、これは道中の食糧です。それに森を抜ければ他国に出られると思っただけで、他意はありません。」

「森を抜ければ通行許可証なしに国境を越えられると考えただと?自白のつもりか、それは。間抜けめ。」


 通行許可証!?

 たしかに中世ヨーロッパじゃ関所や川や橋を通行する毎に、領主から通行料を巻き上げられたと聞くけれど、異世界でも必要なのか…何か良い言い訳は…。


「た…旅の者ゆえこの国の制度を知らなかった事は詫びましょう。しかし、それを持ってあらぬ疑いをかけられるのは…。」

「下らぬ言い訳だな。許可なく国境を犯すことは死罪まであり得る大罪。そのことに国の違いなどあるものか。もう少しマシな嘘を期待していたが、どうやらお前の脳みそも豚共とたいした違いはないようだ。」

「こちらの手違いは…。」

「くだらん!!法を破るものは誰もが知らなかったと言いながら刑場で首を括られるのだ!!…しかし、私も誇り高きインゼル侯爵家当主として、異国の人間を捕え、その首に縄をかけるのはしのびない。」

「それでは…」

「一人当たり一万ゴールド、計六万ゴールド支払えば領内の通行の自由を保障しよう。」


 …どうする、この世界の通貨なんて持ってないぞ!!

 落ち着けオレ、知恵を振り絞れ!!

 何か物を渡すか?

 それとも待ち合わせがない事を素直に話して分割支払いとか?でもクレジットも電子マネーも使えないんだよな…どうする、どうすればいい!?


「ふんっ、どうやら金は持っていないようだな。想像の範疇ではあったが。それではこういうのはどうだ?一緒にいる女5人を一日一万ゴールドで貸し出すというのは。そうすればたったの6日で自由が手に入るぞ。おい、女共、私に抱かれる順番には気をつけた方がいい。我が寝所にいない時にはコイツらの相手をすることになるのだ。6日もあれば二度と嫁には行けない身体になるぞ。せいぜい俺にこうべを垂れ、寵愛を懇願するといい。6日もあれば自分から求めるようになり、二度と城から出たくないと涎を垂らすことになるがな。」


 クズの言葉に後ろに控えたクズどもが笑い声で賛同の意を表す。


 オレは怒りに叫び出しそうになる心を抑え、考える。


 いまオレが暴発すれば妹達やラグさんまで危険に晒すことになる。

 ここは冷静に交渉してなんとか時間稼ぎの糸口を見つけ出すんだ。

 こういう時は何が有効だ、妹達以外にこの男の欲しいものを問うのか?それとも今の愚劣な案を笑い飛ばし会話の主導権を…。

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