お人好しな挑戦者
「兄さん、城壁が見えてきました」
ナナセの言葉に目を凝らすと遥か彼方に朧気に壁らしきものが見えてくる。
「我々の出番はここまでのようだな。お人好しな挑戦者よ、勝利を掴んだならば我らの幕舎にたんまりと酒を届けてくれ。城壁の内と外で互いに祝杯をあげよう」
「ああ、勝ったらな」
「期待している。戦神アースガルドの加護があらんことを」
風除けを務めていたイクイシオン達が左右に分かれ、サイラスが馬に気合をいれる。
ここからは旭日の師団との差しの勝負だ!!
「サイラス、追いつけるか?」
「距離はだいぶ縮まってる、ゴールまでには追い付いてみせるさ」
「頼んだぞ………それじゃあ、オレ達は最後の障害物を片付けるか!!」
城壁の側にはモンスターが群れをなし、余力を失った戦車を襲おうと待ち構えている。ゴブリン、ホブゴブリン、スケルトン、ヘルハウンド、暇してる奴らを全員集めたって感じのいい加減な編成だな。
城壁のうえでは昼間から酒をかっくらいすっかり出来上がっている観衆が、命賭けの闘争を酒のつまみに盛り上がっている。
まったく、どこが神聖な奉納レースなんだか………しかし、見られている以上、無様な姿は晒せないな。
「ナナセ、せっかく観客がいるんだ。派手なのを頼む」
「わかりました」
オレの願いに応え、ナナセが印を結ぶ。
「火遁・滅火鵬来!!」
ナナセが唱えると空中に巨大な火の鳥が浮かび上がり、無数の炎弾をまき散らしながらモンスターの群れめがけ突っ込んでいく。
ごうっという音が鼓膜を揺さぶり、地面が焼けこげる臭いが鼻腔を刺激する。砕け散った炎の熱気が戦車にも届き、城壁からは大歓声があがった。
モンスター達はあまりの威力に恐れをなし道をあけ、城門までの道のりには障害となるものは何もない。
「後は進むだけだ!!」
城門をくぐると歓声が一層大きくなり、左右の家々からは花びらが投げ込まれる。凄いな、まるで凱旋式だ、最後の最後でようやく奉納レースらしくなってきた。
オレ達は陽光をうけキラキラと煌く花びらのなか、競技場に向かい余力を振り絞る。
「いっちゃん、あれあれ、旭日の師団だよ!!」
ワカナの指し示す先に深紅の飾り付けが見える。遂に捉えたぞ!!
「兄さん、魔法です、道を塞がれます!!」
ナナセが短く叫ぶと、突如前方に氷壁が現れる。
「任せて!!ファイアアロー!!」
ミカヅキが指をかざすと炎の矢が生まれ、分厚い氷壁を一瞬にして霧散させる。
「次は矢が来ます!!」
「ここはワカナの出番だね」
ナナセの指示にワカナがパッと身を乗り出し、ハルバードで飛来する矢を次々と叩き落とす。
「うぅ~、数が多いよ~」
「上空から矢よりもっと大きい物が飛んできます!!上は私に任せて、ワカナちゃんは前に集中して」
ナナセが言い終わるよりも先に、空から何かが降ってくる。
大剣にポールウェポン、その他諸々!?あいつら支給武器をぶん投げてきたなっ!!
「口寄せ・竜頭蛇尾!!」
ナナセの叫びに応じるように地面から竜の頭部が現れ飛翔し、投擲物を咥え後方へと消えていく。ミッドガルドでは絵面がシュールなこと以外使い道のないネタ口寄せだったが、高火力のスキルが使えない市街戦ではナナセの多彩な口寄せが頼もしい。
「旭日の師団の攻勢もネタ切れみたいだな。あとは追い抜くだけだ」
目抜き通りを曲がり、いよいよ競技場が近づいてきた。旭日の師団との距離は100メートルもなくなっている。競技場に入り、コースを一周する間に十分に追いつけるはずだ。




