炎の螺旋
自らの肉体を切り取られたアールキングは俄かにこちらに攻撃を集中させるが、すぐさま攻勢は弱まり、明らかに混乱している様子だ。オレ達に合わせて旭日の師団も仕掛けたんだろう。
これは千載一遇のチャンス!!
「バカ兄、敵の様子がおかしい、本体を潜らせるつもり!!」
ミカヅキの言葉の通り、敵は突如動きを止め、その表皮は胎動するように激しくうねっている。人質をすべて失い、逃げるつもりだ。
ふふっ、いまこそオレの出番だ!!
地中に相手を逃がさない究極の魔法と言えばコレしかない!!
「いでよ『グローリアスタワー』!!」
オレの呼びかけに応え、地面が浮き上がり、異形の尖塔がアールキングの根っこごと天高く持ち上げていく。
ん?根っこ??
「うぉっ、揺れる、地面が崩れる!!」
アールキングの本体を中心に、地中に伸びていた根が地面を浮き上がり、大地を割りながら持ち上げられていく。
「ちょっとバカ兄、何やってんの!!あんなバカでかい木を持ち上げたらこうなることくらい、バカでも分かるでしょ!!」
「みっちゃんバカバカ言い過ぎだよ、アトラクションみたいで楽しいじゃ~ん」
「こっちは何も楽しくないぜ!!大将、ド派手なことするなら先に言っといてくれ、心臓がいくつあっても足りやしねぇ」
皆が口々に文句を言う。
いや、仰る通りちょっと情報共有が不足してたけどさ、目的は達成出来たんだから悪くはないんじゃないかな、うん。
「兄さん、敵は無防備、止めを刺すなら今です!!」
「よしっ、オレに任せてくれ!!」
敵は地上数十メートル。
上に向けて放つのであれば、どんな高火力の魔法でも問題ないはずだ。オレの見せ場が来たぞ!!
うーん、見栄え的にはトールハンマーがカッコいいな。やっぱり神位魔法はインスタ映えする。インスタないけど。弱点を突くという意味ではプロミネンス・インフェルノも悪くない。属性を考慮しながら戦ってる感が出るし、大樹が燃え尽きるという絵面の迫力は相当な物のはずだ。ただこの二つは初登場じゃないだよなぁ。
二番煎じは映えないし、いっそのこと『始祖の魔法』でド派手に決めるとかどうだ!!
でも、始祖を使ったことがバレたら、その時点でオレ達が転生者ですと宣伝して回っているようなものなのがネックだ。旭日の師団やケンタウロス達のレベル帯であれば、始祖の魔法はもちろん、神位魔法や極位魔法も目にしたことはないだろうから、なにか凄い魔法で倒した程度の理解になるとは思うが、敵は目の前だけにいるとは限らない。アバドンの使役者がその情報網をここまで伸ばしていたとしたら、映え狙いのためだけに始祖を使うのは危険すぎる………でも使いたいんだよなぁ、こちらの世界での始祖の魔法の威力を確認する意味でも。
よし、決めた、ここはまだ見ぬ敵を牽制するためにも、始祖の魔法で跡形もなくアールキングを掻き消して………
「バカ兄、なにモタモタしてるの!!使う魔法が決まらないようなら、私がファイアーボールでちゃちゃっと焼くけど!?」
「あ、いや、いまちょうど決まったところだ。よし、ナナセ、ミカヅキ、ワカナ、サイラスさん、見ててくれ。これがオレの本気………って、あれ!?」
オレが始祖の魔法の詠唱を始めるべく両手を広げると、それを合図にするかのように天高くそびえるアールキングを炎の螺旋が飲み込んでいく。




