世界一の冒険者
「キャハッ、ちょっと遅いんじゃないかなぁ、ボクたちの獲物を横取りする気?」
アールキングの攻撃を交わしつつ、後方に回り込むと、逆方向から回ってきた旭日の師団の戦車が視界にはいる。
サイラスは巧みな手綱捌きで大きく弧を描き進行方向を合わせると、ケンタウロス達もそれに合わせ、3台の戦車が並走する形となる。
「横取りって貴方達もこいつを倒しに来たの?」
「この化け物はアタイ達の獲物だよ、素人は怪我をする前にサッサと帰るんだね」
「オマエ タチデハ カテナイ ムボウ」
「化け物に新しい餌を与えて、更に肥えさせる気がないなら、すぐに離脱するんじゃな」
ミカヅキの問いに怒涛の勢いで即レスする旭日の師団。
あれだな、煽るような内容だと全員キャラ通りに上手く返せるんだな。
「なんか余裕っぽいね。こう言ってるし、ここは任せてワカナ達はレースに戻っていいんじゃないかな~」
「わ~、待ってくださいよぅ。皆はこう言ってますけどぉ、さっきから硬直状態で手が出せないんですぅ。だから、囮になってチューチュー生気を吸われてくれる生贄さんを募集中なんですよぉ、一生のお願いですから協力してくださいぃ、もう一生会うこともないかもですけどぉ」
なんかサラッと凄いこと言い出した!!
可愛い顔して言うことエグイな…。
「お願いする側の態度じゃない!!っていうか、自分から言い出すならそっちが囮になりなさい!!」
「鉄には鉄の、土には土の役割こそあらん。柔き刃は木を穿てず、固き土壌は木を育まず」
「銅等級は大人しく囮でもやっとけ、って言ってますぅ。多分ですけど」
「そっちこそオリハルコン級の余裕見せなさい!!」
「ミカヅキ、今は言い争ってる場合じゃない。なんで囮が必要なんですか、この人数なら一斉に攻めれば人質を助けつつ、敵を倒すことも出来るんじゃないですか?」
「キャハッ、優しいボクが、無知な銅等級に教えてあげるよ、樹木タイプのモンスターは中途半端に攻撃を当てると、本体を地中に移して逃げるんだよ」
「叩くときは一気呵成に、戦いの鉄則だよ、覚えときな」
「ドウトウキュウ ムチ ムチムチ」
「でもぉ、人質を助けながら無数にくる枝の攻撃をかいくぐって、更に致命傷与えるとか無理じゃないですかぁ。だから、さっきから誰かちょうどいい囮が来ないかなぁって思ってたんですよぉ。これって運命ですよねぇ」
なるほど、言い方はともかく結局は手数が足りず、逃げ回るだけで精いっぱいだったわけか。
しかし、この人数であれば人質救出とトドメを同時に出来るはずだ!!
問題はどっちが囮になるかだけど………。
「囮は我らが引き受けよう」
口を閉ざしていたケンタウロスの頭目が発言する。
「はんっ、ケンタウロス風情が、出しゃばるんじゃない。他国の祭りで死んだとなれば、物笑いの種じゃ。大人しく、国へ帰るんじゃな、お主達にも家族がおるだろう」
「戦車1台ではあの木偶の坊の攻撃すべてを引き付けることはできない。しかし、お前達が自らの足で大地を駆けたところで、そのノロマな足ではわざわざ掴まりに行くようなものだ。我ら4人がバラバラに走り注意をひく。その隙に倒すがいい。それとも、なにか、あの化け物と戦うのが怖いのであれば、我らだけでやってもいいぞ」
「勇者は語らず、その切っ先のみが言となる。勇敢なる大地のもと、我らが鉄となろう。我が名はゼライアス、旭日に名を刻む者。貴公らの名は」
「我はアベスト族族長の息子イクイシオン。やがて草原に連なる全ての国々に轟く名だ、覚えておけ」
二人が名乗り合い、やがて視線がオレに向く。
………オレに?なんで??
「なにボーっとしてんの、私達のリーダーはバカ兄なんだから、バカ兄が名乗らないと締まらないでしょ!!」
「あっ、えっと………オレはイツキ……………この世界一の冒険者になる男だっ!!」
「はぁ?世界で一番の冒険者!?」
「いっちゃん、そうなの!?」
「兄さんの目標、初めて聞きました」
「え、あっ、いや、その………」
しまった、なんか名前の後にそれっぽいこと言わなきゃと思ったら、余計なことを口走ってしまった!!
「世界一か、大きく出たな」
「無謀は無知から生まれる。されど勇者は無知からしか生まれない。転がり始めた石を止める術などない。無謀が希望に変じるまで、己を忘れぬことだ」
「あ、ああ、もちろ………」
「では、行くぞ!!」
オレの返事を聞くまでもなく、イクイシオンは戦車を牽引する結束具を外し、単騎で身の丈十倍はあろうかというアールキングの前に躍り出る。
他のケンタウロスも後に続き、空となった戦車はあっという間にアールキングに押しつぶされた。




