妖樹の王アールキング
「どこまで行く。まだか」
道を変え10分ほど経ったところで、ケンタウロス達が焦れるように問いかける。
うぅ、さっきは勢いでカッコいいこと言ったけれど、冷静になると気が短く気分屋な所のある爆発物のようなケンタウロスを煽って同行させるとか、大それたことをしてしまった。
なんかさっきからちょっとキレ気味だし………っていうか、こういう時は黙って目的地までついてくるものでしょ、あんまりグチグチ言われると怖いから止めて欲しいんだけども!!
「兄さん、近いです」
そんなオレの気持ちを察したのか、ナナセが短く呟き、一同に緊張が走る。
「あれが、お前達が探していたものか」
ケンタウロスのリーダー格の男が低い声で呟く。
「ああ、ここまでの大物とは思ってなかったがな」
オレは動揺を悟られないよう一呼吸で言い切ると、大地が揺れる。
「いっちゃん、何あれ、木のお化け?」
「いや、オレの記憶が確かであれば、あれはアールキング。最高位の妖樹………木の邪霊だ」
オレは目の前に忽然と現れた小さな山のような不気味な生命体に息を飲む。
しきりに蠢く大木の樹皮にはいくつもの人間の顔が浮かび上がり、その枝は触手のように伸縮し、突然の訪問者を自らの養分にしようと狙いをつける。木々は心臓の鼓動と同じ速度で膨張していき、一瞬のうちに先ほど見た姿よりも一回り大きくなったように感じられる。
「この叫び声は………あの木偶の坊から聞こえる。まさか人が取り込まれてるの?」
時折悲鳴のような金切り声が辺りに響き、その度に大木は何かを吸い上げるように大きく膨らんでいく。
「兄さん、ミカちゃんの言う通りです。今度は偽物じゃありません、表面に浮き出ている顔はすべて生きている人間のものです」
「あれが全部人だったいうのか………」
目視できるだけでも十を超える苦悶の表情が、その黒くゴツゴツとした樹皮に張り付き、こちらを睨んでいる。
助けを求めているのか、それとも人の姿のまま自由に動いている我々に憎しみをいだいているのか、にわかには判断がつかないが彼らが感情を持った人であることはナナセに言われるまでもなく、感覚で理解することが出来る。
「木なら火で簡単に燃やせるけど、そしたら人質ごと死んじゃうってこと?」
「ああ、なんとか先に彼らを救い出すことから考えないと」
しかし、どうやって救い出す。
幸い、まだ取り込まれてから時間が経っていないためか、顔が浮かんでいるのは枝の先端に近いものがほとんどだ。一カ所ずつ切り落としていけばなんとかなるか?
「バカ兄、本体を先に倒したらどうなる?」
「わからない………だが、ミッドガルドでは先に敵が力尽きた時、体内に取り込まれた者は等しく死亡判定だったな」
「肉体の損傷が大きかったり、レベルが低いと復活魔法も効きません。難しいとは思いますが、全員助け出したうえで倒すしかないです。サイラスさん、とりあえず相手の枝での攻撃が届かない位置をキープしながら周囲を回ってください。相手の隙をみて仕掛けます」
ナナセの言葉を受け、サイラスはアールキングから数十メートルの距離を取りながら戦車を走らせる。前方からは槍のような木の枝が絶えずこちらをめがけ襲ってくるが、ナナセとワカナがそれを器用に薙ぎ払い、距離を保つ。




