軍勢の影
「そうだ、思い出した。狼、狼のお肉ってちゃんと乗せた?早く食べたい〜。」
ワカナの言葉が少し重くなった場の空気を粉々に破壊する。
「ちゃんと積んであるわよ。でも本当に食べるの?激マズよ、ぶっちゃけ。」
「せっかくみっちゃんが狩ったんだし、食べてあげないと可哀想だよ。」
「食べるために倒したわけじゃないんだけど。」
ラグさん曰く狼の肉は臭みが強く、オークの村で番犬として買っている犬ですらどれだけ空腹になっても食べないほど不味いらしいのだが、不味いからと村人も受け取ろうとしないことがかえってワカナの好奇心に火をつけ、明らかに積載量オーバーの荷馬車に無理矢理のせたのだ。
「どれだけ不味くても13人もいればペロリだよ。」
「私は食べないからね。余ってもワカナが全部食べなさい。」
「知らない間に私たちも頭数に入ってるから、気合い入れて調理しないと酷い目に遭いそうね。そのまま焼いたらなんかした日には1週間は口の中の臭みが取れないから、ダグ特製のスパイスに漬け込んでしっかりと臭みを抜いてから食べましょう。比較のためにそのまま焼いたやつをちょっと添えてね。」
「なんかワクワクしますね。」
ナナセはそう言うが、どれだけ下処理しても絶対に不味い。
ファミレスに16年勤めているオレが言うのだから間違いない。勘だけど。
「ちょうどいいわ、明日狼の調理に使う香草を採りにいきまきょう。ちょうど香油のための材料も取りに行かなきゃいけないところだったし、ちょうど良いわ。自分で集めた食材を使うとちょっと位不味くても美味しく感じるものよ。」
「はーい、ワカナいく〜。乱獲、乱獲!!」
「私もお供させてください。」
不穏な単語を口走りながら張り切るワカナをナナセが慈愛に満ちた表情で見つめる。
年齢設定的には5歳しか離れていないのに、姉妹というより親子感すらある精神年齢の違いだ…キャラ設定すこし間違えたかな。
「バカ兄いいの、町で情報収集しなくて。こっちの知識が不足したまま、いつまでも遊んでるのは危ないけど。」
「うーん、ミカヅキの言う事も最もだな。よし明日は食材採取と情報収集で二手に分かれよう。ワカナとナナセはラグさんについて行くとして皆はどうする?」
「町。とにかく情報が欲しい。」
「ワカナが心配だからついてくね。摘んだ毒草をそっと捨ててあげる係も必要だと思うし。」
「私は兄様とご一緒ならどこへでも。」
「なら決まりだな。オレとアツコとミカヅキはエルベスとかいう町に向かおう。ナナセとサヤとワカナはラグさんを手伝ってくれ。」
オレ達はただでさえ目立ちやすいハーレムパーティー構成だし、いきなり6人フルメンバーで大きな町に行くのはすこし躊躇われる。特にワカナはなにするかわからないからなぁ。
ラグさんの力にもなりたいし、ちょうどいいだろう。
「追加で狼もゲットして毎日ウルフパーティだね!!」
「うーん、それは子ども達が泣くと思うからやめてあげてね。」
「ワカナだけ1日1匹ノルマだね。平面的な体に少しくらい凹凸がついてイイ感じになるかも?主にお腹だけど。」
そんな他愛もない会話をしていると、不意にナナセの耳がピクピクっと何かを察知したかのように動くのが見えた。
「どうしたの?」
ミカヅキもその様子に気づいたのか、厳しい表情で問いかける。
「またです…たくさんの馬蹄の音。それも昨日よりずっと多い…300近くいます。」
「300!?」
オレは思わず叫んだ。
300騎といえば最早立派な軍隊だ。すくなくとも昨日のような遊びのために気軽に駆り出すことができる人数ではない。
どこかで戦争でもあるのか!?
先日の亜人狩りの続きだとは思いたくないな…どちらにしろあまり巻き込まれたくない。
「ミカヅキ、いざとなったら荷物ごと転移できるか?」
「出来なくはないけど、もしこっちに向かって来てるなら、ここで相手したほうがいい。この道はオークの村に繋がってる。もし転移魔法で逃げるにしても、オークの村にいる時に襲われたらそこでまた転移魔法をつかうことになる。信頼できない相手の前であまり手の内を晒したくない。」
「兄様、私もミカヅキの意見に賛成です。話し合いで解決するにしても、戦うにしても、後がない状態よりは余裕がある場所で迎え討つほうが条件がよいです。」
「分かった、そうしよう。ラグさん、念のため荷物の中に隠れてもらえますか?」
「私が見つかると色々まずいケースも多そうだものね。」
パンパンに積まれた荷物を無理矢理こじ開けそこにラグさんを隠すと、オレ達は素知らぬ顔で荷馬車を走らせる。
「兄さん、来ます。」
地面を揺らすような馬蹄の響きと共に、完全武装の一団がやってくる。陽光のもと鎧に太陽の光を反射させながら馬を駆る勇壮な姿は想像を上回る威圧感があり、300どころか1000にも見える。




