心の赴くままに
「サイラス、聞かせて、ガイエ商会の目的はなに」
「………ウチの大将が言ったあんた等に通りだ。グランファレ商会が独占する権益を取り返し、平等に分け与える、それが目的だ」
「なんのために」
「不当に利益を独占されることのない市場を作り出し、暮らしを良くするためだ」
「誰のために」
「………シュトライトヴァーゲンブルグの市民のため、そして、ケルキヤ王国民のためだ」
「最後にもう一つだけ聞かせて。あのウマの着ぐるみをきたバカみたいな貴方達の商会長は、こんな時どうする。可能性が低いからって見て見ぬふりをする?それとも、人が止めるのも聞かず、バカみたいに突っ込む?」
「……………例え襲われてるのがグランファレ商会の戦車でも、何も考えず助けに行くだろうな。ありがとよ、このままゴールに向かってたら、優勝しても二度とガイエ商会の戦車に乗せて貰えないところだったぜ」
「行こう。勘違いならそれでいい、そこから大逆転を狙うだけだ」
車輪の向きが変わり、オレ達はゴールを目指す一団から離脱する。
これで良かったかは分からない、でも異世界に来てまで利益や常識に縛られて、自分の感情を押し殺すのはゴメンだ。心の赴くままに正しいと思う事をやりたい。それがオレの、いやオレ達の願いだ。
「なぜ道を外れる、ゴールを目指さないのか」
後ろから響く轟音。
まるで獣の咆哮かのような声に、オレは思わず後ろを見る。
「お前達の戦いぶりを見ていた。見事だ。強い、我らが今まで見てきた誰よりも。しかし、理解できない。なぜ勝利から遠ざかる。この都市の支配者と密約でもあるのか。ならば興覚めだ」
「貴方達には関係ない」
「関係ないか、その通りだ。ならば、これならばどうだ!!」
ケンタウロス率いる戦車は言うや否や急加速しピタリと横につけると、激しく車体をぶつける。ぐわんと車体が揺れ、車輪が軋みをあげ、戦馬がいななく。
「お前達がくだらぬ理由で勝利を手放すというならば、我らと戦ってもらおう。どうせ勝つ気がないのであれば、我らと戦ったとしても問題はないはずだ。しかし、なにか目的があるというのであれば、理由如何では見逃そう」
「調子に………」
「ミカヅキ、大丈夫だ。オレ達は勝利を諦めたわけでも、敵前逃亡するわけでもない。もし目的が気になるのならばついて来ればいい、ついてくる勇気があるのならな」
「ほう、言うな、人間。ならば我らも共に行こう。つまらない理由であれば、戦ってもらう」
「それで構わない」
オレの言葉に納得したのか、ケンタウロス達は速度を緩め、後ろにつく。
「おいおい、いいのか大将」
「いいんです、下手に本当のことを言ったら、興味を失ってゴールに向かうかもしれないじゃないですか。それにどんな敵か分からない以上、味方は多い方が心強いです」
「お~、なんかいっちゃんが賢そうなこと言ってる~。ご褒美にワカナが撫でてあげるね」
「まっ、バカ兄の足りない頭で考えだした作戦にしては上出来」
「余計な争いが起きず嬉しいです、ありがとうございます、兄さん」
オレはワカナに頭を抱えられ髪の毛をワシワシと触られながら、不思議な高揚感に包まれていた。
二台の戦車が車体を並べ、未知の敵へと走る。刻まれた轍がどこに向かうのか、その時のオレ達は知る由もなかった。
 




