轍の行き先
「キャハッ、もう勝ったも同然だね、つまらないなぁ、ボク、もっと骨のある相手だと思ってたのに」
「ユダン タイテキ カッテ カブトノ オヲシメロ」
「はんっ、そういうお前が、勝った気になってるんだから、救えない」
「すべては神の御意思、我々に勝利の恩寵が与えられたのであれば、それに従うまでです」
「勝利は与えられるものではなく、勝ち取るもの。恩寵とは足掻く者にこそ与えられん」
「アタイとしては貰おうが勝ち取ろうが、最後に勝利が手元にあればどっちでも構いやしないけどね」
先頭を行くグランファレ商会の大将機の周りには既に他の機影はなく、ただ轍が作る断続的な音の反響だけが広大な草原に響いている。
「………おかしい」
「ドールゾール ドウシタ モンスターガ キタノカ」
「いや、こちらには、向かっていない。だが、妙な気配がする。それも、とびっきりヤバイやつだ」
風に乗り微かに何かが聞こえる。注意して耳を澄ませていなければ、気にも留めないほど弱々しいその叫び声は、たしかに旭日の師団のもとに届いていた。
「ちっ、もう少しで、億万長者だってのに、ついてない」
「キャハッ、ゼライアス、どうする?」
「考えるまでもない。結論は既に決まっているのだから」
「ヒダリ マガル ハヤク シロ」
「どうしてだ、ルートを外れる気か?モタモタしていると追いつかれる、遠回りをしている余裕はないぞ?」
旭日の師団の言葉に御者が驚きの表情を見せる。
「多くの人の命が今まさに奪われようとしています。神が命じているのです、無辜の命を救えと」
「あんたら雇われの冒険者だろ!?雇い主に、グランファレ商会に逆らったらどうなるか知ってるはずだ、俺はごめんだぜ」
「我々はグランファレ商会がシュトライトヴァーゲンブルグの平和と安定を守るため戦っていると聞かされ、協力を申し出た。その言葉が真実でないのならば、契約は不成立だ」
「キャハッ、ゼライアスはこう言ってるけどさ、パッと行ってパッと戻れば1位のままでしょ。キミはさ、ご主人様にボクたちに脅されたって報告すればいいよ、それともこの場で放り出されるのがイイかな?魔物だらけに草原にね。早く決めてよ、ボクは気が長くないからさ」
御者はなにかを言おうとし、そして諦めたかのように戦車の向かう先を変えた。
「この判断、凶と出るか、吉と出るか」
「どちらでも構わない、我々が進む先こそ、答えなのだから」
ゼライアスの言葉に一同は頬を緩め、次の瞬間、戦う者の表情に戻っていた。




