空の王者(笑)
大司教の身で現場に出てくるだけあって奇傑皇はかなり高位の魔法詠唱者のようだ。神聖魔法以外も取得しているみたいだな。ミカヅキのような最高位の魔法詠唱者がいるパーティーであれば防ぐのは難しいことではないが、戦士職ばかりだったり、魔法職が未熟だったりすると苦戦は免れないだろう。
っていうか、グリフォンに跨って空から火の雨降らせてくるし。
ガチ過ぎない?戦法ガチ過ぎない?
飛んで距離取って見境なく攻撃するとか、もうほぼテロリストだよね。多彩な魔法を使って絵面をよくするとか、定期的に低空を飛んで反撃の機会与えるとか、そういう盛り上がりポイント皆無のガチ殲滅モードだよね。
空の王者なのか?空の王者(笑)〇オレウスさんなのか!?
これもう突破させる気ないやつだな、全員ここで葬り去るつもりのやつだ。
周りに目を向けると、旭日の師団はオレらと同じくマジックバリアを張り、早く終わらないかな~という感じで空を見上げている。マジックポイントが切れるのを待ってるのか。言動の割に妙に堅実なところがあるんだよな。
奇傑皇が攻撃をはじめ数分が経つと、目に見えて火の粉の量が減り始める。
改めて空に視線をうつすと、元気に飛び回るグリフォンと、その背でグッタリともたれかかる瀕死の老人の姿が!!
あれ、明らかに酔ってるよね!!魔力切れと乗り物酔いでダブルにキツイやつだよね!!
「兄さん、攻勢が弱まりました、そろそろ行きましょう」
オレがコクリと頷くと、ナナセが印を結ぶ。次の瞬間、地面からフリカムイが現れ、オレ達は戦車ごと空を舞う。
「なんじゃ~、そりゃあ!!」
奇傑皇が驚きのあまり息を詰まらせ、グリフォンは突然の来訪者をくちばしで迎撃しようと試みる。
「ごめんね、ちょっと大人しくしててねっと」
グリフォンの一撃はワカナに遮られ、逆にハルバードが隙だらけの後頭部をしたたかに打った。
「ミカヅキ、いまだ!!」
「いい加減大人しくしなさい『スリープ』」
ミカヅキがそう唱えると、グリフォンと奇傑皇の目がゆっくりと閉じ、力を失い宙に放り出される。
「フリカムイ、助けてあげて」
ナナセがフリカムイに語りかけると、フリカムイはその翼を更に広げ、一人と一頭を優しく包み込む。
地面に降りると、オレ達はいち早く奇傑皇の部下に眠りこけている上司を押しつける。部下の皆さんのホッとした表情を見る限り、普段は意外と良い上司なのかもしれないな。オレは絶対に部下になりたくないけど!!
「これで最終関門クリアってことでいいんでしょ?」
ミカヅキが確認すると、部下たちはお互いの顔を見合わせ、やがてゆっくりと頷いた。
「スリープをかけただけだから効果が切れれば起きる。目を覚ましたら伝えておいて、今度はちゃんとリハーサルをしなさいってね………あと、次は楽しみにしてるって」
なんかミカヅキがカッコ良く締めた!!それ、今からオレが言ったことにならないかな!?
「バカ兄、なにボサっとしてるの。さっさとゲートを突破する………って、はぁぁぁあああああああああ!!!???」
ミカヅキの叫び声にオレ達は視線をゲートにうつす。
「ゲート塞いでた扉、無理やりこじ開けられてるね」
オレは反射的に周囲を見回す。
「旭日の師団がいない!!先を越されたみたいだ!!」
「漁夫の利ってやつですね、鮮やかなお手並みです」
「あいつら、アホ面さげてマジックポイント切れを待ってるかと思ったら、最初からボケ老人の介護を私達に押しつけて、その隙に進む作戦だったの!?サイラス、早く追いかけて!!」
すぐさま馬に鞭が打たれ、猛スピードで追走する。
「不味いな、恐らくここからは大した障害物はないぜ。一度離されると追いつくのは至難の業だ」
「私達が降りて戦車を軽くするというのはどうでしょう」
「ダメだ、戦闘なんかで戦車から降りるのは認められてるが、ゴールの時点で登録してる護衛が欠けていたり、違う人間が乗ってればその時点で失格になる」
「じゃあ、いったん降りて、みっちゃんの魔法で移動して後から合流するのは?ワカナってば、相変わらず知性キレキレで自分でも怖いかも、怖いよいっちゃん!!」
「誰かに途中乗ってなかったこと指摘されたら即失格でしょ。私達はただでさえいつ難癖つけられてもおかしくないんだから。とにかく全力で飛ばして、勝つ手立ては進みながら考える!!」
ミカヅキの言葉は大地を打つ車輪の音にかき消され、大気に飲み込まれていった。




