大歓声
「いよいよだな」
俺は誰に話しかけるわけでもなく呟く。
「サイラスさんから祝福の時間は終わったとの連絡がありました。あと数十分でスタートですね」
祝福の時間は終わった、などと言われると超厨二病なワードに聞こえるが、戦車に神官による祝福を受けたということだろう。話によるとこの世界の『祝福』にはプロテクションのような効果があり、そのおかげで戦車の破損や御者・馬の負傷により、レース続行が不可能になる事態は滅多にないらしい。
また別に神官により各チームの御者および所属している商会に対し、レースでの一切の不正を行わないよう『誓約』を求める儀式もあるとのことだ。
ミッドガルドでは虚偽の発言や裏切り行為をした者に対し、一定のペナルティーを与える魔法やスキルが存在していたが、恐らくそういった効果があるんだろうな。
ミッドガルドではそういった魔法やスキルは、あくまでロールプレイのための味付けのような物で、ゲームの進行上なくても一切問題がないため、オレもそこまで効果について詳しくはないが、異世界転生をするのであれば魔法やスキルについてもっと勉強しておけばよかったな………まあ、異世界転生するかもしれないからと事前に勉強しだすような精神状態は間違いなく真っ当なものではないけども!!
「準備は出来たぜ、乗ってくれ」
サイラスの言葉に従い、ナナセ、ミカヅキ、ワカナと共に戦車に乗り込む。
「なにこれ、すっごい歓声!!」
戦車に揺られながら地下道を通り、コース上に出ると地響きのような大歓声がオレ達を迎える。
声が振動となり肌を震わせ、隣のナナセの声が聞こえないほどだ。人の声が波となり、そのリズムに合わせ心臓が激しく脈打つ。プロのスポーツ選手は毎試合こんな気分を味わっているのだろうか、とんでもないプレッシャーだ。
「兄さん、あれは」
ナナセの視線の先にはこちらに向かってくるグランファレ商会の大将機の姿がある。
「あのバカ軍団、ジェスチャーしながら、なにか言ってない?」
ミカヅキが仕方なさそうに身を乗り出し耳を突き出す。
「運命のダイ…」
「逃げずに…」
「…だから…アタイは…」
「キャハ…」
「…所詮…最後は…」
「…ナイ」
旭日の師団の面々がすれ違いざま何やらアピールしているが全く聞こえない!!ただまあ、言わんとしていることの想像はつくな。
「勝てるもんなら勝ってみろ、そう言っていた」
「いっちゃん聞こえたの?」
「まあな。ナナセ、ミカヅキ、ワカナ、このレース必ず勝つぞ!!」
オレの言葉に3人は静かに頷いた。




