異世界転生初戦!!
「でも貴方達すごい強いのね。惚れ直しちゃった。」
オレの回想をぶった斬るようにラグさんが語りかける。
「狼もみっちゃんが一撃で倒しちゃったもんね〜。」
御者台からワカナが笑い声をあげる。
「別にいいでしょ、相手がどれだけ強いか分からないんだから、慎重に戦うのは当然。」
「あの石がビュンって何個も飛んでくやつ、凄かったわね!!」
ラグさんが興奮気味に言う。
「ストーンブラストですね。第二位階の土属性の攻撃魔法です。本来ならそこまで強い魔法ではないんですが、ミカヅキちゃんの魔力が高いからなんか凄いことになってましたね。」
ナナセの声。
そう、記念すべきオレ達の異世界転生初戦は実に呆気ない幕切れとなった。
20頭を超える狼の群れに行く手を遮られたオレ達は、ラグさんを守るようにミッドガルドと同じ役割で陣形を組んだ。
オレ達のパーティーはアタッカーとしてアツコ、アタッカー兼タンクとしてワカナ、何でも屋としてナナセ、そして後衛として魔法使いであるミカヅキとオレという構成になっている。サヤは…そうだ、ビーストテイマーとして火力や手数を補う役を務めているが、こちらの世界ではまだ使役しているモンスターがいないため、サポートに回るという形だ。
大事な大事な異世界転生初戦。
オレ達の力はどこまで通用するのか!!
ミッドガルドの魔法やスキル、武具はこれまで通り使えるのか!?
様々な思いが交錯するなか、ミカヅキが牽制として唱えたストーンブラストが初戦の緊張感を狼の群れごと吹っ飛ばしたのだ!!
凄まじい勢いで射出される無数の石飛礫に多くの狼は一撃で絶命し、奇跡的に無傷だった何頭かは一目散に逃げていった。
圧勝ではあるものの、得るものが少なく、なんとなく消化不良で終わった異世界デビュー戦だったのだ…。
「ワカナだったらもっとじっくりと戦って、色々試したんだけどな〜、みっちゃん考えなしに魔法使っちゃうんだもん、困っちゃう。」
「考えなしはワカナの代名詞なのにね。」
サヤにサラッと煽られていることにも気づかず、ワカナは『そーだそーだ』などと同意の声をあげている。
「あんな火力が出るとは思わなかったんだから仕方ないでしょ…ミッドガルドより威力も上がってるし、絶対に。」
ミカヅキがぶつぶつと文句を言うが、確かに低位の魔法であるストーンブラストにあれだけの威力があるのは予想外だった。
ミッドガルドでは高位の魔法であるほど演出がド派手になっていくため、詠唱者のレベルが上がっても射出される石つぶてが増える程度で極めて地味なストーンブラストはダメージこそある程度通るもののスルーされがちな低位魔法であったが、こちらの世界ではしっかりと威力相応の見た目になるらしい。
しかし、第二位階のストーンブラストでこれなら、位階魔法の最上位である第七位階魔法や、位階魔法を超える『極位魔法』『神位魔法』、そしてミッドガルドのダメージリソースとして最高峰となる『始祖の魔法』はどれだけ広範囲を巻き込むことになるのか想像も出来ないな…危なすぎて間違っても街中では使わない方がいいだろう。
高位の攻撃魔法に関しては、いつか人目につかないところで一通り試してみる必要があるな。
「貴方達が狼を倒してくれたおかげで手土産は増えたし、村の人達にも感謝されて交渉もスムーズに進んだし、家に泊めるくらいじゃお礼が追いつかないくらいよ。」
「村の人達が喜んでくれて私達も嬉しいです。」
ナナセが嬉しそうな笑顔を見せる。村の人達のためというわけではなく、あくまで自分達の身を守るための行動だったわけだが、狼を倒したオレ達は村で想像以上の歓待を受けた。
というのも、狼の群れが居ついたせいで近頃は村の外に出ることすら苦労していたらしく、その一団を倒したことは戦利品の毛皮を遥かに超える利益を村にもたらしたのだ。
元からオークの持つ珍しい動物の毛皮やキノコ、森の奥だけで採取出来るという希少な薬草、そしてラグさん特製の香油などに興味を持っていた村人達は、こぞってラグさんに声をかけ今後も継続した交易を約束してくれた。
また狼を倒した事の謝礼として、老いてはいるものの馬と馬車までもらうことが出来た。
まあ、これは突如現れ自分達が対処に苦慮していた狼の群れを一瞬で倒した謎の冒険者達に、次々と謝礼を要求されないよう先手を打ったというところも多分にあると思うが、ラグさんにとって大量の荷を捌ける馬車の入手は大きいだろうということで、有り難く受け取ることにしたのだ。




