万物無用
「次はミカヅキが行きなさい」
「嫌なんだけど、気持ち悪いし」
「でもせっかくの食事だし、食べないと体に毒だよ」
「自分がモテないのバレたくないんだ~」
「はぁ~?モテますけど~?サヤよりかは人気ですけど~?」
ミカヅキはサヤの見え見えの挑発にのると、嫌悪感たっぷりの面持ちでスープを流し込む。
「あんまり反応ないわね」
「うるさいし色気ないから男の子だと思われてるとか~?」
「赤くなってるでしょ、ほら見なさい、ちょっと赤い!!」
「あ~、やっぱりワカナが一番カワイイって証明されちゃったんだね、こんなとこでマウント取る気なかったのに、ワカナーズエンジェルスマイルイズクライムなんだから~」
「もう少しこう、可愛い感じで食べてみるとかどうかな?怒ってるとランスオブラウンズも怖いかもだし」
「可愛い感じってどうやればいいの」
「とりあえず、スプーンをペロペロ舐めてみれば良いと思うよ、ほら、赤ちゃんとか純真無垢な感じで」
「まったく、なんで私がそんなバカっぽいことを………こう?」
ミカヅキはサヤに促され、スプーンの先をチロチロと丁寧に舐める。
舌先だけでスプーンをくすぐるように弄ぶその姿はまるで………いや、落ち着けオレ、そこから先は考えてはいけない。
ちなみにランスオブラウンズはミカヅキの舌の動きに合わせて、人間が頬を蒸気させながらビクビクと身体をのけぞらすように色を変えている。なんなら形も少し変わっている。
うん、間違いない、この始祖遺物、健全な変態だ。健全。
「赤くなってる~、よかったね、ミカちゃんのプロのテクニックが通用して~」
サヤはそう言いながら地面をバンバンと叩き笑っている。アツコもミカヅキに悟られないよう後ろを向きながら噴き出している。
ダメだ、完全にオモチャにされている、助け舟を出そう。
「タイプ的に幼い感じが好きなみたいだ、アツコは大人っぽいから反応が薄いかもな」
「そうですね、では一口」
「反応ないね~」
「無」
「兄さんの言う通り幼いほうがタイプなのかもですね」
「アツコお姉ちゃんも色気が足らないとか?舐めてみたら、ミカちゃんみたいに」
「嫌よ、次はサヤがやりなさい。」
「は~い。私の魅力の虜になって色が戻らなくなっちゃうかも」
サヤが小首を傾げつつ、これ以上にないくらいわざとフーフーと息を吹きかけながら、パクっと口に入れ、ネットリと舐めまわしながら抜き取る。
プロ、一連の動きが完璧にプロのそれなんだけども!!どこで覚えたのか聞くと確実に事案扱いになるから聞けないが、リリムには色々と大きな声で言えないスキルが設定されていたから、その影響なのかもしれない。
侮れないな、ミッドガルド、ここまで見越してスキル設定したのか、侮れない!!
そしてランスオブラウンズの反応は………
「なんか無反応だね~」
「青くなってない?」
「ちょっと嫌がってるような…」
「青いわ。青いわよ、サヤ」
意外!!予想とは裏腹に青く弱々しくなっていくランスオブラウンズ。
「あれ、おっかしいな~、こっちの方が好きなのかな?」
サヤはそう言うと舌を這わせながら、口内深くまでスプーンを咥えこむ。
そう、こうすると、より効率よくスープを味わえるからな、決してそれ以外の意味はないな。健全だ。
しかし、次の瞬間、ランスオブラウンズがクタッと曲がり力を失う。
「なるほど………このエロ遺物は素人好きなのね」
「あっちゃん、素人ってどういう意味?食べるのにプロとか素人とかあるの?ワカナ食べるのはかなりプロな自信あるんだけど。プロフェッショナル天使の流儀」
「私達の食べ方のほうがキレイってことでしょ?ねえ、ナナセ」
「えっと、うーん、そういう事でいいかな」
「煮え切らない回答。バカ兄もなにさっきからニヤニヤしてるの、サヤの何処がプロなの?」
「あっ、ああ………ちょっと分からないな、ハハハハハッ」
月明かりに照らされ三者三様の輝きを帯びるランスオブラウンズ。
その中でサヤは「おかしいな~、ちょっと待っててね」などと言いながら、何かに憑りつかれたかのようにスプーンをしゃぶっていた。




