ロリコン遺物
「なにそれ、別に私のは赤くなってないけど」
アツコが自らの器を見つめながら不思議そうに言う。確かにアツコの器はランスオブラウンズ本来の色である金色の輝きを帯びている。
「私のも普通かな。ナナセお姉ちゃんのも赤くて、ミカヅキちゃんのもちょっと赤い気がする………あれ、お兄ちゃんの凄い青くない?」
サヤに言われ、オレは手元に視線を落とす。
言われてみれば青い、ビックリするくらい青い。サムライブルーくらい青い。
「これはもしかすると………ワカナ、ちょっとスープを一口食べて貰って良いか?」
「いいよ~」
ワカナがスプーンを口に運ぶ瞬間、ランスオブラウンズは一層輝きを増し、その色は深紅に染まった。
「うわっ、きもっ」
ミカヅキがボソッと呟く。
「なに、ランスオブラウンズって意思あるの!?え、じゃあ、私が食べてる時もずっと反応してたの、これ!!」
ミカヅキが手を伸ばし自らが持つ器とスプーンを遠ざける。
あっ、また赤くなった、ひょっとして罵倒されて喜んでる??そういう趣味なのか、そうなのか、ランスオブラウンズ!?
「まさか、そんなわけないよ。兄さんも一口食べて貰えますか?」
ナナセの言葉にオレは恐る恐るスプーンを口につける。
「冷たっ!!」
キンキンに冷やされた無機質な金属感が唇を刺激する。
「青いですね、兄さんの、青いです、凄く!!」
「しかも冷たいって、完全に嫌がらせじゃない!!」
「兄様への不敬ですね、私がわからせましょう」
「ランスオブラウンズって男の子なんだね、反応的に」
「なんかコロコロ色変わって面白いね~。ういやつめ、このこのぉ」
妹達がめいめいに感想を述べ、ワカナは指でツンツンと器を小突く。
その度にワカナの食具は赤くなり、オレの食具は更に青ざめていく。
いや、わかるよ、ごめんね、ランスオブラウンズさん。これだけの美少女に囲まれながら、自分だけオッサン引くとか、オレだって絶望する、誰だってそうなる。キミも小突かれたいよね、ツンツンって、わかる、わかるよ。
だけど物理的に冷たくするのはどうかな、そういう気持ちはあくまで胸の内に秘めておいて、仕事はキッチリこなすのが社会人としての務めだと思うぞ。気を付けよう、そういうとこ。
「ワカナみたいな可愛い女の子が良いのはわかるんだけど、なんであっちゃんとかさっちゃんには反応しないんだろうね?」
「うーん、好みがあるのかな?性格とか?」
「兄様を拒絶した挙句、私達を格付けしようとするとか生意気ね」
「誰に一番反応するか試してみようよ」
「なに、このセクハラ遺物、持ってるのも嫌なんだけど」
おっ、また赤くなった。良い趣味してるな、ランスオブラウンズ。
「じゃあ、まずワカナから食べるね~」
ワカナの唇が触れると熟したトマトのように真っ赤になる。
「ロリコン遺物」
「黒髪フェチなんじゃない?」
「明るい子が好きとか」
「脳みそ軽めなのが好みなんだよ、女の子はちょっとバカなくらいのほうが可愛いって言うオジサンとか多いし」
「バカが好きなら、バカ兄のときもっと反応してるでしょ」
サラッとディスられたのはさておき、ワカナは主人なだけあってランスオブラウンズのハートをガッシリと鷲掴みにしているようだ。
「次はナナセ食べなさい」
「わかった………こうでいい?」
ウェアキャットなだけあって猫舌なナナセは、スプーンに満ちたスープにフーフーと何度も息を吹きかける。その僅かに艶めかしさを覚える行為に器も仄かに光を発する…コイツ、やるな。
ナナセが意を決してスプーンを口に入れると、ワカナの時ほどではないが確かな赤みが現れる。
「性格に反応してるわけではないわね、ワカナとナナセじゃ正反対だし。見た目で反応してるんじゃない?」
「黒髪フェチ説が濃厚になってきたかも」
「ワカナのほうが反応が良いのはロリコンだから。黒髪ロリコン遺物とか最悪」
「シンプルにワカナが一番可愛いからだと思うけどな~」




