無法地帯
「な~んで野宿な~の~。夢がな~い~、パフェもな~い~、あるのはみっちゃんの小言だ~け~。どうして~、野宿を~、して~いるの~~~」
「お金がないからに決まってるでしょ!!」
ワカナがミュージカル風に不平不満を歌にするやいなや、ミカヅキが一喝する。そう、オレ達はいまコースの下見を兼ね、野営を行っている。
まあ、野宿と言ってしまうと貧乏が身に染み切なくなるため野営とカッコつけているわけだが、要するに金がないから宿に泊まれないわけで………パーティーのリーダーとして、兄として責任を感じるわけで………。
「でも、こんなとこまでコースに入ってるって変だよね~。走ってるの全然見えないし、面白いのかな?」
オレの思考を遮るようにワカナが声をあげる。ワカナの疑問ももっともだ。
奉納レースはシュトライトヴァーゲンブルグの城壁内にある競技場をスタート地点とし、城門の外にある三箇所のチェックポイントを通過した上で、再びスタート地点である競技場に戻ってくるというコースになっている。
スタートとゴールが一緒なのは一般的なマラソンコースと同じだからいいのだが、途中のチェックポイントが三箇所すべて城壁の外というのは若干盛り上がりに欠けるんじゃないかという点は、オレも感じたところだ。
奉納レースなどと『如何にも神に捧げるための宗教的儀式です』といった雰囲気を出してはいるが、実際には堂々と賭け事の対象になっているらしく、ゴール地点では歓喜と怒号、そして悲鳴が飛び交っているというのだから、素人的には途中経過もわかるように都市内を走るコースにすれば良いのにと思ってしまう。
「でもチェックポイントの通過順で順位が分かるように花火を打ち上げるみたいですし、直接見えないからこそアレコレ妄想で補えて楽しいところもあると思います!!」
ナナセが興奮気味に言う。
ギャンブル好き的にはこういった演出もまた一興といった所なのだろうか。
「コース上には観戦場所も設けられてるって聞いた。障害物代わりに魔物が配置されてるって話だし、まるで闘技場。人間の醜さでも神に奉納するのかっていうくらい悪趣味」
花火に、戦闘に、賭け事、そして遠巻きに見物する観衆か………まさにローマ帝国、パンとサーカスの世界だな。参加者の安全は完全無視で観客の欲望だけを全力で満たしにくるスタイルは、むしろ清々しいとさえ言えるな。
「それに、見えないからいいのよ。人目につかなければ色々と工夫できるでしょ?」
ワカナとオレの疑問にアツコは笑みを浮かべながら答える。
やっぱりそういう事だよな。
奉納レースは既定の武器を使った直接攻撃あり、魔法や自前の武器を使った間接的妨害ありの、言ってみればルールありの戦争のようなものだ。しかも、賞金は金貨5000枚、副賞として王国有数の大都市の一等地での商業権という莫大な利権が付いてくるとなれば、どんな手を使ってでも勝とうとする輩が出るのは当然の流れと言える。
ルールで禁止されている魔法や自前の武器での直接攻撃やコース上への罠の設置、最悪野盗に見せかけて私兵に他のチームを襲わせるといった犯罪的手法に至るまで、ありとあらゆる妨害を考慮に入れておく必要があるだろう。
「城壁を出れば無法地帯か。頭が痛いな」
「ルールを無視していいなら、私達のほうが有利って考え方もあるよね。相手がグランファレ商会お抱えの冒険者だって言っても、レベル的にはルーフェさん位だろうし」
サヤがよからぬ企み思いついたのか、満面の笑みを浮かべる。
たしかに純粋な戦闘になれば数では劣るもののオレ達に利があるだろう。ルーフェが元はミスリル級冒険者であったことを考えると、噂の竜燐の騎士でもない限り、敵の護衛も実力的にルーフェを大きく上回るレベルではないだろうしな。
「ダメ、なるべく専守防衛で勝つ。支給武器での攻撃位ならいいけど、ただでさえ完璧にアウェーなんだから、こっちから手を出したら例え正当なものであっても反則にされるのがオチ」
「ひたすら耐え忍ぶ展開か………神経を使うレースになりそうだな」
敵は多勢、味方はいない。頼れる者は仲間とサイラスの腕だけか。




