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いもうと無双は異世界転生と共に〜38才こどおじの異世界英雄譚〜  作者: 蒼い月
竜のねぐら

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嵐の予感

「聞こえんな、ルーフェ。いまなんと言った。」

「申し訳ございません。旅の女性が獣に襲われそうになっていたため、それを助けに入ったところ追っていたオークを取り逃がしました。」


 バシン!!という乾いた音と共にルーフェの額から血がにじんだ。


「ルーフェ、もう一度言ってみろ。」


 再び金属と人の骨がぶつかる音がし、その度に額の血は鮮やかな色をもって応える。


「私はオークの腱を切り、皮をはぎ、目を潰し、耳をそぎ、ほどよく弱らせろと言ったのだ。それこそ赤子が這って後を追っても悠々と追いつく程度にな。それがなんだ。女にうつつを抜かし主命を軽んじたというのか!?」


 絶え間なく響く打擲音にルーフェの部下は思わず目を背ける。


「申し訳ございません。」

「ふんっ、父上の代から我がインゼル家の禄をはむ身でありながら使えない奴め…もういい、明日の狩りは取りやめだ。鹿や猪を追っても面白くもない。叫び、苦しみ、もがき、縋り、神王の祝福を受けぬ穢れた種に生まれた事を自ら呪うまでに追い詰められた亜人をなお追い回し、いたぶるからこそ狩りは面白いのだ。ルーフェもうよい、下がれ!!その薄汚い顔を二度と見せるな。」

「…隊長、大丈夫ですか?」


 大広間から出たルーフェに部下が恐る恐る声をかける。


「どうってことはない、いつもの事だ。どうせ1週間も経てばまたアレをやれ、コレをしろとこっちの都合も考えずに喚き立てるさ。それまではお前達も休暇だと思ってのんびりしていろ。」


 ルーフェの言葉に部下達は一礼し、その場を離れた。


「くそっ、忌々しいガキめ。」


 ルーフェは脳裏に浮かんだ言葉をそのまま掃き出した。

 その声は自分が考えているより遥かに大きかったが、かと言ってそれを後悔する気も起きなかった。

 先ほどの男は『グレンツァ・アウフシュテルン・インゼル侯爵』という。この地方を治める大領主であり、ルーフェの雇い主でもある。


 性格は残忍で酷薄で利己的。

 酒の余興に狩りと称して、自分の奴隷を馬で追い矢を射掛けるなどといった行為は日常茶飯事で、時には今回のように私兵を使い、国境警備を名目に周辺の亜人狩りを行なっている。

 もちろん私兵を動かすにはそれ相応の金銭が必要となるが、亜人の脅威から守ったという形で近隣の村々から追加の税を納めさせており、村々にとっては亜人や森深く潜むという大森林の邪竜以上の脅威となっているため、グランツァの城を『税のねぐら』などと言って揶揄する声もあるほどだ。


「先代への恩がなければとっくに真っ二つにしてるところだ…。」


 ルーフェは元は王国の騎士団に属していたが、同じ騎士団に所属する貴族の子息の恋人を奪ったとの疑いをかけられ、名誉を守るための決闘のすえ、相手を一刀のもとに切り伏せ出奔したという過去を持っている。

 正式な手続きを経たうえでの決闘による結果のため、本来であれば罪に問われることはないが、『平民による貴族殺しを看過することは出来ない』という貴族勢力の圧力により、裏から手を回され斬首刑となるところ、先代のインゼル侯爵に助けられ以後10数年にわたり侯爵の私兵を束ねる騎兵隊長として仕えているのだ。


(とはいえもう恩は十二分に返したはずだ。オレは今日限りであの男を見限るぞ。再び生きて会う事があ

ればこの手で叩き切ってやる…再び会うことがあればだがな。)


 ルーフェはグレンツァに伝えたのだ。

 この世のものと思えないほどの美しさを持つ異国の旅人が女5人に男1人という歪なパーティーを組んで彼の手の届く範囲にいることを。


 一方でルーフェは伝えなかった。


 その美しい旅人達が恐ろしいほどの殺気を孕はらんだ強者である事を。


「インゼル様、先見部隊より報告がありました。以前より捜索していたオークの里に繋がるであろう小路を発見したとのことです。村の発見も時間の問題かと。またそのオークの村に女連れの冒険者が滞在しているとの奇妙な噂もあわせて報告がありました。」


「くくくっ、ルーフェのヘマで運気が遠のいたかと思ったが、幸運とは不幸と対になって訪れるものだな。今すぐルーフェを除く騎兵隊を全員集めろ。俺が直接指揮をとる。目指すは愚劣な豚共の巣窟だ。巣穴ごと焼き払えば食欲をそそるさぞかし良い匂いがするだろうよ。」


 そして食欲を満たしたあとには…グレンツァは舌なめずりをしながらルーフェの語った5人の美女の痴態を想像した。

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