ジッちゃんの名に賭けて
「いや、奉納レースでは今回みたいな八百長は出来ない。奉納レースは神の名の下に開催されるってことになってるからな。実態はともかく、表向きは教皇庁がその権威を補完するために『誓約』や『看破』の魔法を使える神官を派遣して、レースで不正が起こらないよう見張らせてるんだ。まあ抜け道はあるが、今日ほど直接的な結果の改ざんは出来ないはずだぜ」
「だからライバルチームの妨害をする方向にシフトしたってところかしら。勝つためには一番手っ取り早くて、現実的な手段ね」
「そういう事だ。俺のチームはアイツらの鼻をあかすため、冒険者ギルドで気骨のある人間を探してたんだが…」
「ダメだったわけね」
アツコの言葉にサイラスは首を縦に振る。
「うーん、都市を仕切る権力者相手に刃向かうのは、まともな神経してたら無理だよね。冒険者にだって生活があるし、敵に回して得することもないから。武具とか消耗品とか冒険に必要な物の調達とか嫌がらせされそうだもん」
「ホテルのシャワーのお湯を水にされるとかもイヤかも〜。ビュッフェに行ったらほとんど種類残ってないとか」
ワカナの考える嫌がらせがせこい!!
しかし、確かにありとあらゆる場面で妨害されることを想定すると、ちょっとした嫌がらせであっても辛いな。
「ウチのチームの後援者になってくれてるガイエ商会もこれで終わりだな。俺もここにはいられなくなる…戦車競走ともあと3日でおさらばだ」
「あの、冒険者ってどんな条件で探してるんですか?」
「ああ、まず奉納レースの戦車は特別製で御者一人に護衛四人の五人乗りだから、必要な冒険者は4人だな。戦車競走とは言っても奉納レースは妨害行為もある。それなりの戦闘経験も必要だ。直接相手の戦車を攻撃する方法は支給される武器に限定されているから、武器全般の扱いに長けている事も重要だな。当然魔法詠唱者も必要だ。理想を言えば魔法詠唱者二人、戦士一人、状況判断が早い斥候が一人の計4人がベストだ。ただ残念ながらアンタらは無理だぜ。ガイエ商会の大将が流れの冒険者に苦い思い出があるみたいでな。流れ者の場合、最低でも金等級でなければ認めないとよ」
金等級…オレらはまだ銅等級、登録したばかりのナナセに至っては白磁級の駆け出しだ。
身元も不確か、等級も低い。信頼してくれと主張するには無理筋というものだろう。面白そうな話ではあるが、今回はスルーだな。
「ウケたぜ、その仕事」
え?受けた??
ナナセさん?聞いてましたか、いまハッキリオレ達じゃダメだって…。
「グランファレ商会だかなんだか知らねえが、ウチのジッちゃんを舐められたままでたまるかよ。キッチリ落とし前つけさせてやんよ、ジッちゃんの名にかけて!!」
アレですか、ジッちゃんってのはジーガジース参号さんのことですかね?勝手に自分が奉ずる神様の名前略しちゃって大丈夫ですかね、教義的に。
「おいおい、勝手に話を進めないでくれ………と言いたいところだが、切羽詰まってるのは俺らの方だからな。アンタらが受けてくれるっていうなら、ウチの大将に話を繋ぐぜ。ただ報酬にはあまり期待しないでくれよ。なにせガイエ商会は貧乏が売りなんでな」
「タダだってかまいやしねえよ、兄者いいよな!!」
「あ、はい、仰せのままに」
どのみちハイかイエスしか返事が許されなさそうだし、ここは腹を決めるしかないな。それに憧れの戦車競走に参加できるのは、この機会をおいて他にない!!
しかも、敵が手段を選ばない強欲な権力者であるというならば、尚更燃える展開だ。
「そうと決まれば、この都市をグランファレ商会の魔の手から取り戻すぞ!!」




