ナナセを追え!!
「遅い!!」
ミカヅキが何度目かの怒声を発する。日は既に頭上を遥かに過ぎ、やや夕暮れに向かい傾き出している。
「たかだか冒険者登録するのにどれだけ時間がかかってるのよ、ナナセは!!」
ミカヅキの怒りの矛先はナナセだ。
ナナセが一人で冒険者登録に向かってから、既に体感で3時間以上が経っている。時計がないため正確な時間はわからないが、エルベスでの冒険者登録が一瞬だったことを考えると遅いことに間違いはない。
「これだけ大きい都市だと冒険者登録の手続きも大変なんじゃないか?規模が大きければ大きいほど杓子定規にお役所仕事的な感じになっていくからなぁ」
オレは自らの経験に照らし合わせフォローする。
外食産業でも駅から離れた小規模店舗だと自由に出来てたことが、駅前の基幹店舗になると規則規則でがんじがらめになったりするからな………組織というものは肥大化するにつれ、硬直化するのが世の常なのかもしれない。
「それにしても遅いよ〜、ワカナもうお腹ペコペコなんだけど〜」
「きっとナナセちゃんも冒険者ギルドでジレながら登録手続きが終わるのを待ってると思うよ。ワカナとは別の理由だと思うけど」
「別の理由?」
「ほら、お兄ちゃん聞こえない?この歓声」
歓声?なんのことだ??
「バカ兄には聞こえないでしょ、私でもギリギリ聞こえるかどうかだし。歓声よ、多分闘技場とか競馬場の。たくさん聞こえてくるの。私には歓声というより、むしろ怒号に聞こえるけど」
「大都市なだけあってナナセちゃんが楽しめそうなとこ、幾つもあるみたいだね。ちょっと歩いただけで、闘技場で今月分の生活費すったとか、カジノで身包み剥がされたとか、競馬場で人生最後の一勝負とか、面白そうな話たくさん聞いたよ」
「ギャンブル狂のナナセがこれを聞いたら、真っ先に駆け出すわね」
「ずっと楽しみにしてたもんね、なっちゃん。勝ったら私もアイスおごってもらお〜っと」
ああ、探知スキルの差でオレだけ聞こえないのか………ミッドガルドだけでなく、こっちの世界でも探知スキルの重要性は高いな。もっと積極的にスキルを取っておくべきだったか。
「しかし、ナナセは偉いな」
「なにが偉いの」
「いや、皆でも聞こえるならナナセは城門をくぐるもっと前から歓声が聞こえてるはずだろ?普段ならすぐに『なんのギャンブルがあるのか』とか『ジーガジース様への信仰心を見せる時だ』って反応しただろうに、じっと我慢というか、自制してなにも言わなかったじゃないか。手持ちもないし、ギャンブルの話をするのを遠慮してたんだろうな」
「確かにこれだけの大歓声なら数十キロ前から聞こえてたでしょうね。例えば………」
ミカヅキが急に立ち止まる。
「どうした、ミカヅキ?」
「持ってる?バカ兄、お金!!」
「金?さっきお互い一文無しだって確認したばっかだろ?まあ、いざという時のために少しだけへそくりはあるけど………何か急に欲しい物でも思い出したなら、後でこっそり貸すぞ」
「違う、バカ!!アツコがナナセに渡した革袋!!バカ兄が預かってないか聞いてるの!!」
「え、ナナセが持ったままだぞ?それがどうした?」
「………みんな、手分けしてナナセを探す!!」
ん、なんでナナセを?
「なにボケっとしてるのバカ兄、早くナナセを捕まえないと、せっかくの金貨があっという間に消える!!」
ミカヅキはどうしてこんなに焦って………あっ!!
「ギャンブルか!!」
「いっちゃん気づくの遅っ」
「すぐに捕まえないと貴重なヘソクリが全部溶ける。集合場所に戻って来ないって事は、賭け続けてるって事だから、今ならまだお金が残ってるはず!!早く身柄を確保して、有金ぜんぶ回収しないと」
「ミカヅキ、あのお金は使わないじゃなかったの?」
「い、いまはいいでしょ、その話!!アツコは闘技場、ワカナはカジノ、サヤは小さな賭場を片っ端から、バカ兄は競馬場に向かって!!私は冒険者ギルドで聞き込みしてくる」
「お金が無くなるのが先か、なっちゃんが見つかるのが先か、だね。なんかクエストみたいで、たっのし〜」
「一番先に見つけた人が一割貰えるってことでいいよね。なに買おっかな」
「兄様、お気をつけください」
「よしっ、手分けしてナナセ捜索だ!!」
そう言うと、オレ達は散り散りに目的地へと駆け出した。




