役立たずなオレ
どうも、蚊帳の外なオレです。
勝手に異世界転生恒例のチュートリアルイベントだと勘違いし、妹達に良い所を見せちゃおっかななどと愚考し、大見得をきって助けに入ったものの、一言も喋れずただただ突っ立ってただけのオレです。
なんならあの場で一番NPCっぽかったオレです。
………いや、お姫様が攫われそうになってるとか、そういう定型イベントならオレだってもう少しいけたよ!?
なんかカッコいいセリフも考えてたし。
『その薄汚い手を離さないなら、命をもって愚かさの代償を支払うことになるがいいか?』的なやつをね。言うつもりだったのよ、ベストなタイミングで。
盗賊とか敵の貴族とか…悪の組織的な奴らに。
それでお姫様がキャー、大好き!!みたいな妄想してたわけですよ。
誰でもするでしょ、そういう妄想。
っていうか明らかにそういう流れだったし!!
でも、そもそもいたのがオークでしょ。
それもオカマオーク。
もうその時点で全プラン消滅、頭は真っ白。
相手も無理矢理襲ってくるとかならカッコよく立ち回れてたと思うけど、まさかの紳士的話し合いスタートときたもんだ。
しかも何か堂々と名乗ってくるし、やたらイケオジだし…多分実年齢はオレのほうが上だけどね、まあそれは置いておくとして。
そのイケオジ…ルーフェだっけか。
ルーフェがなんかそれっぽいこと言ってきたから、何とかその場を誤魔化そうと思ってたらアツコもアツコでなんかカッコいい感じで返して円満解決。
神ね、神関係にすれば余計なこと言わなくていいのね。勉強になります。
確かに『信仰だ!!』って言われたらそれ以上ツッコめないもんね、宗教ってそういうものだから。本当に賢い自慢の妹です。
でもさ、狼を弓で倒してオレ達を救ったことにするって、よくよく考えたらどういう事よ!!
勢いとスタイリッシュさに騙されたけど、全然理屈通ってないからね!?
あれだ、ご時世的には動物虐待とか言われてもおかしくないから!!SDGsに反してるから!!
…まあSDGsってなんなのかは、あんまり知らないけども。
っていうか、矢を外してたらどうしてたのよ!?
その場の空気凍ったどころじゃないでしょ。
拾いに行くの?矢を。
『すいません、ちょっと脇通ってもいいですか?』とか言いながらトコトコ拾いに行くの?
それで、そのまま何食わぬ顔でリテイクとかするわけ?
そもそも狼なんでいたの?仕込み?仕込みなの??
…などと色々愚痴ったものの、結局は38歳こどおじの力ではその場を収められなかったという事実だけが残るわけで…酒が進むわけで…。
あっ、言い忘れてたけど、いま助けたオークさんの家にいます。
二匹…二頭…二人のオークはラグとダグと言うそうで、夫婦だそうです。
まぁ夫婦とは言ってもラグさんは身体は男性、心は女性という事で、いわゆる男女の女性カップル的なやつみたいで…なんか頭がこんがらがってきたかも。
とにかくラグさんとダクさんのお家に招かれたので、悲しみを癒すため呑んだくれてます。
「オーク料理ってもっと生肉ドーン、干し肉ドーン、謎肉ドドーンって感じたと思ってたけど、なんか色々あるんだね!!」
ワカナの声。
なんか凄いよく分かる。
正直に言うとオークの村で食事を振る舞ってもらえると聞いた時、何よりもまず『臭そう』『不味そう』『ヤバそう』『出来れば穏便に断りたい』という単語が脳裏をよぎったけれども、実際ラグさんの家にはいってみると香草から抽出したアロマの良い香りが家中に満ちていて、食事も必ずしも美味しいとは言い難いものの十分に食べられるレベルなことに驚いたわけで。
お酒は…なんか凄い酸っぱいので味についての言及は控えるけれども、たっぷりのハチミツとプラムのような果実から絞った果汁を入れることでなんとも言えない滋味深いに仕上がっていて、飲めない事はなかったり。
というか、そろそろアルコールが前頭葉にまで回ってきたのか、味がよく分からなくなってきたので細かいことはどうでもいい気がする。
それにしても酒で血が上っている頭にワカナの元気な声はよく響く………うっぷ、なんか気持ち悪くなってきた。
「ワカナちゃん、オーク料理っていうとオークさんを食べてるみたいな意味に聞こえるような…。」
ナナセ突っ込みナイス。
「知らなかったのナナセお姉ちゃん、天使は雑食でオークでも人間でもウェアキャットでもエルフでも、なんでも美味しく食べちゃうんだよ。私達も気をつけないとワカナに食べられちゃうかも。」
すかさずサヤがからかう。
っていうか、天使って雑食なの?
それに食べる必要あるんだ??
なんか日光浴すればそれでOK的なエコなボディーなんだと思ってた。
サヤ、ナイストリビア。
「ふふ、まあウチ以外はそんな感じかもね。今日は命の恩人のために腕によりをかけて張り切って作ったから、心ゆくまで召し上がれ。」
ラグさんが胸を張る。
ラグさんを見てるとオーク料理が美味しそうに見えてくる…二重の意味で。
「でもラグ、もう食糧の備蓄が…。」
ダグさんの言葉。
「いいのよ、落ち着いたらまた村に行って交換してもらえば、いくらでも手に入るんだから。」
笑顔で応えるラグさん。どこかの役立たずと違って頼もしい限りです。
ガタンッ!!
不意にドアが開く音がしたので目をやると、そこにはオークの子供達とウェアウルフの子供がおずおずとこちらを見つめている…ウェアウルフ?
なんでオークの村にウェアウルフが!?
「こら、お客さんが食事してるんだから入ってきちゃダメでしょ、寝てなさい。」
優しい声。
すると、どこからともなくグーッという音がなる。子ども達のお腹が鳴った音だ。お腹を空かせているのだろうか。
「私達の事はお構いなく、ダグさん。食事は人数が多い方が楽しいですから。ねぇ、このままじゃ余っちゃうし、一緒に食べてくれる?」
ナナセがそう言うと、子ども達は目を輝かせ、我先にとテーブルを覆いつくす料理に手をつけていく。
そうか、食糧事情が悪いなかオレ達を歓待するために無理をしてくれたんだな…呑んだくれてる場合じゃないぞ、オレ!!
…もう一杯飲んでシャッキリしたら身体を起こすぞ、もう一杯だけ飲んだら。
「オークの小さい子可愛い〜、ウェアウルフちゃんもモフモフ〜。」
ワカナが抱きしめては撫で、抱きしめては撫でという感じで、プニプニモフモフと触りまくる。
…今だけ子ども達とボディーチェンジ出来ないかな。
しばらくすると騒がしい食事が終わり、子ども達もお腹が満たされたのか自分達の寝床に戻り、部屋には再び静寂が帰ってきた。




