白昼夢
しかし、ここまで明らかなおべっかなんて、アツコなら一瞬で看破してむしろ不機嫌になるような…
「フヘヘ、似合ってます?世界一なんて………恥ずかしいです兄様!!」
なんかメチャクチャ刺さってる~~~~~~~~~~!!!!!!!!
え、嘘、いまのお世辞にそこまで刺さるポイントあった!?いつものクールビューティーなアツコはどこに!!??
ヤバいぞ、ヤバイ、またヨーサさんのペースに乗せられてる気がする。どうにかしてこちらが会話の主導権を握らないと………。
「そ、そういえば、ヨーサさんエルベスにいた時と少し雰囲気が変わられましたね。前よりも華やかになったというか、ドレッシーというか………」
よくよく見ると服装からメイクまで僅か数週間でガラッと変わっている。最初に会った時は内気で愛らしい世間知らずの少女という感じだったが、今は田舎から東京へ出てきて大学デビューをした女子のような浮ついたオーラをまとっている。
「あ、わかります?イツキさんは私のことなら何でもお見通しなんですね、恥ずかしいです。都会のバイブスに合わせて感性をリファインしたら、新しい自分にミートしちゃって」
あからさまに都会に悪い影響受けてる!!言語がルー語になってるし!!!
「見てください、ベビちゃん達もこの町の空気を吸って『もっと自分のビートを解放したい』っていうからドレスアップしちゃったんです!鬼キャワじゃないですか?」
この前まで子ども達って言ってたのにベビちゃんとか言い出した!!!!!
ダメだ、完璧に都会にあてられて残念な感じになってる!!!!!
あとなんか言葉のチョイスが古いぞ!!!!!
「ふふ、そういえばイツキさん、私ここで新しくお店を開くことになったんです!!ベビちゃん達をお披露目するのが楽しみです。また是非いらして下さいね」
「シュトライトヴァーゲンブルグでお店を!?前のお店はどうなったんですか?小さな兄妹もいるって。それに借金だって。ここは物価も高いですし、移り住んできたからって簡単にお店を出せるような場所じゃ………」
困惑するオレの唇にヨーサさんはピタッと人差し指を添える。
「女性のこと色々詮索しちゃダメですよ、でも、知りたい気持ちはわかります。今度二人っきりの時に全部教えてあげますから、6番街第2地区にある私のお店に来てください。全部お見せします、イツキさんが見たい私のすべてを」
鼓膜をくすぐるようなヨーサさんの囁き。油断するとその心地よい音階と、ほのかに漂う香水の香りに引き込まれそうになる
「イツキさん、アツコさん、またお会いしましょう。それでは今日は失礼します」
ヨーサさんはそう言うと、軽くスカートをつまみ頭を下げ、何事もなかったかのように人ごみに消えていった。
いったい何だったんだ!?
白昼夢のような一瞬の出来事にオレはただただ呆然とするしかなかった。




