悪夢再び
「大丈夫でしたか??」
オレはうずくまる少女に声をかける。
「ありがとうございます、暴漢に襲われていた私を助けて下さった貴方は、まさに命の恩人です………あっ、誰かと思えばイツキさん、このまえ私を助けてくれたイツキ・キーファーライスフェルトさんじゃないですか!!私です、ヤダ・ヨーサです!!あっ、どちらに行かれるんですか??」
踵を返し立ち去ろうとするオレの腕をヨーサさんはギュッと掴む。
腕には彼女の爪が深々と喰いこみ、まるで『絶対に逃がさん、お前だけは!!』とでも言うようなラスボスめいた怨念を感じる。
「あ、あぁ、お久しぶりです、すいません、気づきませんでした。あの、さっきのは店で暴れていた借金取りですよね。なにかちょっと前とは雰囲気が違うというか、ヨーサさんと事前にやり取りされていたような………」
「そうなんです、エルベスでイツキさんに助けて頂き平穏な暮らしが戻ったのも束の間、傷を癒した彼らが再び私の店を………そんなこんなで命からがらココに逃げてきたんですが、この通りまた襲われてしまって。でも、信じられないです。イツキさんがまた助けてくれるなんて!!やっぱりこれって『運命』なんでしょうか??」
ヨーサさんは肝心なところには一切触れず、自分の言いたい事だけを返す。
いつの間にか腕はガッツリとホールドされ、色々な部分がこれでもかと押し当てられている………ダメだ、イツキ、素数を数えて冷静になるんだ。
1、2、3、4、5………あれ、素数ってこんな感じだったっけ?
「兄様、その売女…そちらの女性はどなたですか?」
オレが懸命に血液を脳に逆流させようとしていると、アツコが冷ややかな声を発する。サラッと『売女』とかいう不穏なワードが聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「あぁ、こちらはヨーサさん、ほらっ、アツコが今つけてるピンクのカチューシャを作った人だ。それだけの関係だ。もう、本当にそれだけ」
そう、それだけの関係であって欲しい。
「はい、その際に暴漢に襲われそうになった私を助けて下さって。とてもカッコ良かったんです、イツキさん。それ以来すっかり私達は強い絆で結ばれているみたいで。今日もこうして会えたのは奇跡なんかではなく必然なんでしょうね」
「へぇ」
アツコが素っ気ない態度で呟く。
あれだ、あんまり人前で露骨に不機嫌な様子を見せるのは良くないぞ、うん、気持ちは凄くわかるんだが。
「貴方がアツコさんなんですね、イツキさんが世界一可愛い妹さんだって何回も自慢してただけあって、とてもお綺麗です!カチューシャも私の想像なんか遥かに超えちゃうレベルで似合ってます!!イツキさんがアツコさんのためだけに選んだだけありますね」
なんかわかりやすすぎるヨイショし始めた!!
流石商売人だな。アツコのことを美人なタイプとは言った気がするが、世界一可愛いとか言った覚えは全くないんだが。でも、こういう事を臆面もなく言えるタイプが出世するんだよなぁ。




