悲鳴?
「はぁ、高い、高すぎる…」
オレはため息とともに、もう数十回は口にしたであろう台詞を繰り返した。
「兄様、あまり気を落とさないでください」
慰めるかのようなアツコの優しい声が冷え切った心と寒い懐に染み渡る。そうオレがなんでこうまで落ち込んでいるかと言うと、物価が高いのだ!!
エルベスでは一人銀貨2枚、つまり2万円も出せば豪奢な大浴場がある高級ホテルに泊まることが出来たのだが、ここシュトライトヴァーゲンブルグでは同レベルの宿に泊まろうと思えば銀貨6枚、最高級の宿であれば一人当たり金貨1枚でも足りないのだ!!
インフレ、圧倒的インフレ!!
いくらここが大都会だからといっても、3倍はないだろう、3倍は!!
世知辛い、あまりに世知辛いぞ異世界!!
オレとしてはへそくりとして1枚だけ隠し持っていた金貨でサラッと良い宿を予約し、妹達に兄としての貫禄を見せつけようと思っていたのだが、このインフレ具合では金貨1枚出しても現代日本でいうビジネスホテルレベルの部屋を6名分確保することすら難しい。
あまりロクでもない宿だとかえって妹達を落胆させることになりそうだし、今日は…というかしばらくは都市の外にでて野宿をするしかなさそうだな。
せめてシュトライトヴァーゲンブルグでの依頼料が物価の高さに見合ったものであることを祈ろう。
心配そうにオレを見つめるアツコとともにトボトボと当てもなく歩いていると、路地裏からなにか囁くような声が耳に入る。
「…じゃ……準備………台本どおり…………いいわ……………」
「わかり………姉さ…………」
ん?この声はどこかで聞いたような??
「きゃ~~~~~~、だれか~、だれかたすけてください~~~~~~。お~そ~わ~れ~るぅ~~~~~~~」
絹を引き裂く女性の悲鳴!?
なにか悲鳴というには若干間延びしているというか、余裕味が溢れているような気もするが、とにかく助けなければ!!
オレは悲鳴のした路地裏を覗き込む。
「ああ、たすけにきてくれたんですね、こ~こ~で~す~、た~す~け~てぇ~~~~~」
目の前にはいたいけな少女を取り囲む二人の男。あれ、この構図、この人相、どこかで見覚えがあるような………。
「あっ、おまえはこのまえの」
気の抜けた声を発するのは………エルベスであった借金取り!!オレが偶然の事故で手をグシャグシャにしてしまった借金取りじゃないか!!
「あ、あの…その節は…お疲れさまでした。えっと、お怪我は大丈夫でしたか?」
オレは混乱しつつもずっと気になっていた事を問いかける。
なぜここにいるのかは分からないが、元気に女性を襲っているということは治ったんだよな?オレ、捕まらないよな??
「これはまいった、こんなつえぇやつがきたんじゃ、にげるしかねえ。ずらかるぞぉ~~~~。…………………姉さん、それではまた後で」
二人は問いかけに応えることなく、まるで予め用意されていたかのような台詞と共に逃げ去る。
なにか最後に言っていたような気がするが、あれはどういう意味なんだろう。




