三文芝居
「オークすら助けんとする貴公らの神の慈悲深さには敬服する。しかし、我らとしては人家を襲い、家畜を奪い、無辜の民の貴重な蓄えを奪う者を見過ごすわけにはいかない。このままであれば力を持って押し通る事となるが良いか。」
低く沈むような声色。
間違いなく本気だ…戦うしかないのか!?
「嘘よ!!私達は交易をしてただけで盗みを働いたり、ましてや人や家畜をおそったりなんてしてないわ!!」
「黙れ!!ならば交易をしたと言う村の名を言ってみろ、化け物め!!」
ルーフェの後ろに控える騎士が怒声をあげる。
「…言えないわ。私達を受け入れてくれた人達に迷惑をかけるわけにはいかないもの。でも本当よ、私達は誓って何もしてないの。」
「薄汚い豚の分際で偉そうな口を叩きやがって!!隊長、わけのわからない連中に構うことはありません。オーク共を引きずって侯爵の元に献上しましょう!!早くしないと機嫌がどうなるか分かったものではありません。」
騎士の何人かが剣を抜いた刹那、周囲を異常な殺気が覆い尽くす。
「もう一度だけ警告するわ。私達は神の名の下に助けると言ったのよ。もしそれでも押し通るの言うのであれば、手加減は出来ないけどいいかしら。」
凄まじい怒気。
もしアツコがオレのミッドガルド同様の強さをこの世界でも持っているのであれば、眼前の騎士達は不幸な結末を迎えることになるだろう…っていうか、どうするオレ!!
アツコを止めるのか、見守るのか、それとも一緒に戦うのか、なにが正解なんだ!?
「それは困った…女性相手には剣を抜かない主義なんだが…」
「それなら私達も女よ!!身体は男でも心は女!!女には手をあげないんでしょ!!」
オークの野太い声。
身体は男でも心は女!?
いや、いまそんな冗談言ってる場合じゃないだろ!!
「お前たちはメス…いや、女だったのか。ハハハハハハハッ!!そうか女か、それは失礼した。」
ルーフェはいきなり高らかに笑い、そして急に真顔になると弓に手をかけオレ達めがけ矢を放った。
ヤバイ!!
オレは反射的に目をつむる。
「キャインッ!!」
次の瞬間、オレ達の背後で犬のような鳴き声とドサリと何かが崩れ落ちる音がした。
恐る恐る目を開けゆっくりと振り返ると、そこには大型の狼が矢に撃たれ息絶えている光景が飛び込んでくる。
…いったい何が起こってるんだ??
オレは目まぐるしく変わる情勢に頭の整理が追いつかず、棒立ちのままアツコとルーフェを交互にみることしかできない。
「おいお前ら、今日はついてる。凶悪なオーク達を見失ってインゼル侯にどう言い訳したものかと悩んでいたら、美しい異国の女性達を狼の牙から救うことが出来たぞ。あの狼の毛皮でも剥いで土産話と共にインゼル侯に持って帰るとするか。」
「隊長!!いいんですか、インゼル侯の獲物をみすみす見逃して!?狩りが上手くいなかったらまた何を言い出すか…。」
ルーフェは焦る部下を手をあげ制し、こちらに向き直る。
「獲物?この通り狼は仕留めただろう?それにオレにはもう目の前の美しいお嬢さん方しか目に入らないが、お前達には何か別のものが見えてるのか?…お見苦しいところをお見せしたな。怪我なくて何よりだ。この森には獣だけでなく凶暴なモンスターも多い、道中気をつけるといい。」
「お心遣い感謝します。」
「お嬢さん、いつかまた会えるかな。」
「互いの神が許すのであれば。」
「なるほど、それでは今度久々に教会にでも行くとしよう。お前達、城へ戻るぞ。」
ルーフェの号令のもと騎兵隊が馬蹄の響きだけを残して去っていく。
残されたオレはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。




