縮まる距離
静かだ。
オレはいま宿で一人ベッドに横たわり、ボーっと天井を見つめている。
妹達はガールズトーク的なものがあるらしく、別室で何やら話し合いをしているため、オレは一人むなしく天井を見つめているわけだが、それがなんとも心地よい。
思い返せばオレは元の世界では常に一人だったわけで、現実では目にした事すらないレベルの美人揃いの妹達との旅路で、無意識に緊張しっぱなしだったのだろう。こうして一人で無為に過ごす時間が妙に愛おしいのだ。
今日はこのまま眠りにつくのもいいな。
そんな事を考えているとコンコンッというノックの音が響いた。
オレは軽く身体を起こし、耳を澄ませる。
恐らく妹の誰かが部屋を訪ねてきたのだと思うが、ひょっとしたら野盗かもしれない…まあそういったゴロツキがご丁寧にノックをするとも思えないが、用心に越したことはない。
「兄様、夜遅くにすいません、入ってもよろしいですか?」
ドア越しにアツコの声が響く。
「ああ、すまない、ちょっと待ってくれ」
オレはだらけきった背筋をピンっと伸ばし、衣服を整えてからドアを開ける。
「いきなり申し訳ありません、お休み中でしたか?」
アツコのしおらしい声。
いつもの凛々しい雰囲気とは一変して、今日のアツコはどこか弱々しく柔らかな雰囲気だ。なにか悩み事でもあるのだろうか。
立ち話というのも変なので、オレはアツコを部屋のなかに招き入れる。
安宿ということもあって、狭い部屋にはベッドが一つだけあり、イスやテーブルなどはないため、オレとアツコは並んでベッドに腰かける。
なんかこれはヤバいな………とてつもなく緊張する!!
アツコにとってみればオレは兄であり、そういった対象としては見ていないから平然としているのだろうが、年齢=彼女いない歴であるバリバリの童貞………いや、その道を究めし『童帝』であるオレにとっては、深夜に美しい女性と同じ部屋にいるという事実だけで、心臓から血液が逆流しそうになるほどの高揚感と焦燥感が同時に襲ってきているのだ!!
どうしよう………とりあえず何か喋らなければ。
「皆との話し合いはもういいのか?」
オレはアツコとなるべく距離を取るべく、座る位置を調整するふりをしながらこっそりと平行移動しつつ、当たり障りのない話題を振る。
「はい、他愛もない話でしたので」
アツコはそう答えつつ、もじもじと体勢を変える。
ん?なんか距離縮まってないか??
少しずつと壁際に追い詰められているというか………アツコが近い!!
「そ、そうか。それで今日はどうしたんだ、こんな夜中に。悩み事でもあるのか?」
人は不安を感じると無意識にパーソナルスペースが狭くなっていくという。アツコもきっと悩み事があるからこんなに近いんだろう………っていうか、ホント近いな!!
もう肩とか色々なところが当たってるんですけど!!
「いえ、ただ兄様がお暇かなと思いまして」
「そうか…」
「………」
「………」
気まずい沈黙。ダメだ、会話を続けないと煩悩でアレがアレなことになり、アツコに軽蔑されてしまう!!
「あ、そういえば…」
「それにしても暑いですね!!」
オレの声をかき消すようなアツコの大声。
え、暑い?どちらかと言えば寒くないか?
というか、ミッドガルドの設定上では高位の竜は寒暖差を感じないスキルを持っているため、アツコには暑いという感覚はほぼないと思うんだが…。
「暑いです、暑すぎますね!!兄様、失礼します」
アツコはそう言い服を脱ぎだした。
………………脱ぎだした!!??
え、なに、いや、なに、どうしたんだ、どうなってるのコレ!?
脱いだとは言っても上着を脱いだだけではあるが、上半身は既に体のラインにピッタリと密着したキャミソールのようなものと、下着しかつけていないため、見えそうというか………なんというか童帝には刺激が強すぎることになっている!!
目の、目のやり場に困る。
オレはともすれば身体中の血液を吸収し巨大化しそうになる例の部分に、必死に冷静になるよう言い聞かせつつ、『確かにここは蒸すな』などと訳の分からない事をうわごとのように呟いた。




