裏切りと決意と
「ねえ、もし神様がいるなら、私達は好かれてるね。」
竜のねぐらの遥か上空、雲の切れ目に二つの人影が浮かぶ。
二人とも顔は仮面で覆われているが、喋りかけている側は身体つきや声色から女性………いや、少女と呼ばれる年齢であることは間違いないだろう。
「そうね…。」
少女の問いかけは感情に欠けた抑揚のない返答で断ち切られた。答えた側は落ち着いた雰囲気を持っており、体躯からも女性といって差し支えない年頃だろう。
「嬉しくないの?私は嬉しいよ。だって、ずっと待ってたんだもん、にぃにが来るの。」
少女の弾むような声は女性に拾われることなく、虚空へと吸い込まれいった。
「なに、無視?つまんないの〜、もっと人生エンジョイしないと!!人生は楽しく、家族は仲良くって、にぃにも言ってたよ。」
どこまでも明るい少女の口調とは対照的に、女性は蝋人形のようにコクリと頷く。少女はその反応に不満があるのか、わざとらしく頬を膨らませた。
「にぃにも絶対私を待ってるんだから。本当ならすぐにでも会いたいけど、せっかくの感動の再会だもん、派手に飾り付けたいな。にぃにがビックリして、声も出せなくなるみたいなプレゼントと一緒にサプライズで登場するの!!きっと喜ぶだろうな、にぃに。もちろん協力してくれるよね?ずっとずっと前からの約束だもん。」
どこか虚な女性の手を取り、少女は仮面の下から微笑みかける。
「…分かってる。でも、約束して。兄様は決して傷つけないって。」
「もちろんだよ、だって本当の家族なんだから!!」
繋がれていた両手がパッと離され、陽気に空中で踊り出す少女。足もつかない大空を舞台に優雅にステップを踏むその姿は、どこか嬉しげで、滑稽で、陰鬱だった。
「ならいいわ。」
女性の返答はどこか諦めを思わせる醒めた口ぶりだったが、少女は満足したのかステップをやめた。
「ありがとう。サプライズパーティの日が今から楽しみね!!じゃあ、にぃにの顔も見れたし帰ろうか私達の本当の家に。」
女性は今度はハッキリとした意志を持って頷いた。
「頼りにしてるよ、アツコお姉ちゃん。」
虚空に少女の声だけが響いていた。




