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お誕生日パーティーへ

 

 お城の事情などさっぱり入ってこないから、王子様が二人いたのも知らなかった。

 第一王子殿下が体が弱いのも、第二王子殿下が女神の祝福を与えられた方というのも。

 女神様からの祝福、ねぇ……。


 ——この世界、『フローローズ・クォーツ』には五つの女神石が世界核となり、女神花の塔に安置されている。

 女神たちはその塔の最上階に住まい、試練を超えた者の子へ祝福を与えるという。

 試練を超えた者ではなく、その子へ。

 というのも、人が短命であり、女神たちが『愛ゆえに努力する人間の姿』をこよなく愛するためだ。

 お父様は、女神に縋っても当時婚約者だったお母様を助けられないとして、魔女に秘薬を求めたのだから、ある意味良し悪し。

 このクレプディター王国だけでなく、各国の王族は皆、女神の試練に挑み子へ祝福を残すのが習わしだというから王族って大変。

 主に、雲より高い女神花の塔への登頂だというけれど、あんな高い塔に一人で登らなければいけないなんてゾッとする。

 試練にしては厳しすぎるようなきがするわ。


「確かに、お体が弱ければ女神の試練にも挑めぬだろうからな。王太子はイングリスト殿下に決まりだろう」

「…………」


 体調がよくなく、試練に挑めないローズレッグ王子も、祝福があるからと王太子になることが決められているイングリスト王子もなんだか可哀想。

 なんて、私如きが勝手にそう思っているだけで、本人たちは微塵もそんなこと思ってないだろうけれど。

 それにしても祝福を与えられた王子様だなんて、魔女に呪いを与えられた私とは真逆の存在ね。

 …………説明を聞いても、私が招待された謎が深まるばかりのような?


「ま! 考えてもわからんことは今は考えずともよかろう!」

「は、はい……」


 ポジティブ~~~。

 さすがお父様。

 その考え方で娘が不幸を吸い寄せる呪いにかかったというのに、まったく気にしない!

 でも、まあ、こうして娘が呪われていても気にしないのだから、この人はすごいんでしょうけれど。

 実際、考えたところでどうにもできないのだ。

 城は目の前。

 馬車から降りる前に、扉を開くとリリィが地面の小石を箒で掃き、ノリガが鳥のフン避けの傘を開き、エマが私のドレスのスカートを綺麗に整えて素早く持ち上げる。

 ジャンはガッチリ私とお父様を警護して、お父様が私が転ばないように支えて下ろしてくれた。

 この厳重すぎる降車に、周りにいた貴族たちはざわざわと狼狽え始める。

 そうでしょうね……こんな仰々しい登場をしては、「隣国の姫君?」と言われても仕方ない。

 傘で顔はよく見えない上、社交界デビューもしていない私は国内貴族の知り合いもいないのだから。


「やはりあの噂は本当らしいな」

「そりゃそうよ、国中の年頃の令嬢が集められたのよ。イングリスト王子の婚約者が、今夜決まるのだわ」

「まさか隣国の姫まで呼んでいるとは。しかしどこの姫だ? あのような銀髪の姫がいる話は聞いたことがない」

「隣にいるのは没落したフローティア侯爵じゃあないか。まだパーティーに顔を出せる服は持っていたのだな」

「おやめなさい、あなた。フローティア侯爵は鉱山持ちよ。鉱山から金が出たというじゃない。またすぐに上がってきますわ。元々能力の高い方ですもの」

「まあ、ではお隣の方は奥方? まさか“呪厄令嬢”ではないわよね?」

「まさか」


 通るだけでヒソヒソ話が耳に入る。

 もはやコチラに聞こえるのが、前提であるかのような声量。

 品定めされている視線がビシバシ肌に突き刺さる。

 ダンスホールに入り、ノリガが傘を閉じるとホール内の貴族たちが「ほお」と息を漏らしたのが聞こえた。

 確かに侍女を三人、護衛を一人つけた貴族は珍しい。

 さすがに会場の中にまで、これ見よがしに使用人を連れ込む者はいないもの。

 けれど、この四人を連れてくる許可はお父様がもらっている。

 なぜなら、なにが起こるか誰にもわからないから。

 私がいるだけで、天井のシャンデリアが落ちやしないか心臓がキュッとなるわ。


「フローティア侯爵家、ジルドレッド・フローティア様とエーテル・フローティア様、ご到着!」


 さあ、ここからが本番。

 私の名前が叫ばれた瞬間、ダンスホールに今まで聞いたことのないざわめきが起こる。


「馬鹿な! “呪厄令嬢”じゃないか!」

「冗談でしょ! 魔女に呪いを受けたというあの!? 近づくだけで侯爵家みたいに没落する!」

「ひいぃ! なぜ連れてきたのだ! フローティア侯爵! すぐ連れ帰りたまえ!」

「申し訳ない、皆の衆。エーテルを連れてくるようお命じになったのは国王陛下と王妃殿下なのだ」

「な、なんだとぉ!」


 お父様が困った顔で離れていく周りに手を振り、俯く私の手を引いて中央の奥——玉座の方へと連れていく。

 そこに鎮座している金髪碧眼の美男美女ご一家。

 ひぇぇえ、こ、この方々が……!


「よく来た、フローティア侯爵。無理を言ってすまないな」

「誠でございますなぁ。娘の事情は既に許可をいただいておりますのに、此度はいったいどうなされたのか。……いえ、しかしまあ、イングリスト王子殿下、本日はお誕生日おめでとうございます」


 そう言って跪き、王家に頭を下げるお父様。

 私も同じく膝をついてスカートを摘む。

 あ、あれ? 順番が逆だったかしら?

 え、えーい、所作なんて覚えてないんだから仕方ない。

 とにかくお父様に恥をかかせないように、挨拶だけはちゃんとしなければ!


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