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呪厄令嬢は幸運王子の【お守り】です!〜外堀陥没で溺愛ルートのできあがり〜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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対峙

 

「初めまして。どうぞよろしくお願いします」


 私からは名乗らない。

 名乗らなくて大丈夫。うん。

 にこりと笑って返事をして、姿勢を正したまま笑顔を貼りつける。

 なんとなくジュリア様が舌打ちしたように感じたけど、私と違って育ちのいいジュリア様が舌打ちなんてするわけないわよね。

 イングリスト様の御前だし。


「殿下、もう一人、殿下にご紹介したい方がいるのですがよろしいですかな?」

「——それは、君たちの後ろにいる“彼女”のことですか?」

「ええ」


 ゾクっと背筋に怖気が走る。

 なんだろう、この感じ……今朝見た夢の中で感じた、魔女の怒りに近い。

 白銀の長い髪の美しい女性が、ゆっくりとピーナシア侯爵親子の間から歩み寄ってくる。

 恐怖感が増していく。

 これはいったい、なに?

 怖い……怖い、怖い……怖い!


「イ、イングリスト様……」

「エーテル……? どうしたんですか?」

「お久しぶりですわ、イングリスト殿下。そして、婚約者の方。わたくしはオージェ国のマリージア。どうぞお見知り置きくださいませ」

「あ、ああ。エーテル、紹介しますね。彼女は——」

「嘘! 違う!」

「え?」


 どうしてみんなわからないの?

 彼女が隣国のお姫様?

 違う。絶対に違うわ。

 イングリスト様まで——どうして?


「ど、どうしたんだ?」

「隣国の姫に向かってなんて口の聞き方だ。失礼すぎるだろう」

「所詮は付け焼き刃だったということでしょう? やはり“呪厄令嬢”がイングリスト殿下の婚約者だなんて、土台無理だったんだわ」

「いくら祝福の力が強すぎるから、それを抑え込むためとは言ってもね」

「そうよ、別に婚約する必要はないはずよ。王妃には王妃に相応しい教養を身につけた者がなるべきだわ」


 周りの声が、ひどく耳に通る。

 痛い。痛い。耳が、頭が、胸が。

 どうしてみんなわからないの?


「エーテル——」

「それはお姫様なんかじゃない! 魔女よ!」


 イングリスト様の手からも逃げてしまった。

 だって、すごく怖かった。

 夢の中で私にいつも現実を突きつけてくる。

 私は呪われているのだ。

 だからこそわかる。

 私に呪いをかけた本人だもの!


「きゃっ」

「あ、なにするのよ! ドレスが汚れたじゃない!」


 一番側にいたご令嬢の一人が後ろによろめいた瞬間、手にしていたワインを隣の夫人のドレスにこぼしてしまう。

 それを合図に、似たようなことがホール中で起こり始めた。

 すでに異様な空間だが、それは序章にすぎない。

 違和感を覚えているはずなのに、ピーナシア侯爵は私に視線を戻すと指差す。


「き、貴様! なんという無礼な! この方は隣国のマリージア姫ご本人だぞ!」

「そうですわ。いきなり魔女扱いするなんて! イングリスト殿下、このような無礼者を、本当に婚約者にしておくつもりですの!?」

「イングリスト殿下……ひどいですわ、初めてお会いしたのに……。その婚約者様はわたくしに挨拶もしてくださらないばかりか、魔女だなんて」

「っ……エーテル、落ち着いてください。マリージア姫が魔女だなんて、なにかの間違いでは」

「間違いじゃありません! だって私に呪いをかけているのは魔女なんです! その、魔女なんですよ! わからないわけがないんです、私に! 呪いの力が濃い……ダメ……イングリスト様……今の私に近づかないでください……! 今の私……あなたの『祝福』よりも、呪いの力が強い!」

「!?」


 私がそう叫んだ瞬間、シャンデリアが突然落下した。

 凄まじい音がホールに鳴り響き、真下にいた貴族たちの悲鳴が聞こえる。

 幸い、下敷きになった人はいなかったが、近くにいて尻餅をついた貴族が震えながら私の方を見た。


「ダメ……いけない……この程度じゃ、収まらない……」

「エーテル!」

「近づかないでください!」


 ギャア、ギャアと突然窓の外から鴉の群れが窓ガラスを割って入ってくる。

 鴉たちはフンを落とし、人を襲い、食事やデザートを突き始めた。

 これにはピーナシア侯爵親子もさすがに異常を感じたのだろう、「まさか!」と慌ててマリージア姫を名乗る女から離れていく。

 でも、鳥のフンに滑り、尻餅をついてしまう。

 ぎゃあ、という侯爵の悲痛な声。続けて「腰がぁ!」という痛ましい言葉。

 やってしまったのですね、腰を。


「や、やめて……やめて、どうしてこんなことをするの!」


 ダンスホールが瞬く間に悲鳴の渦に陥る。

 私が彼女へ向かって叫ぶと、白銀の髪の彼女はニタリ……と気味の悪い笑みを浮かべた。

 あれほど美しく輝いた白銀の髪は一瞬で黒に染まり、慎ましいドレスは豊満な体を強調するかのような露出の高い姿に変わる。

 長い木の杖を手に持ち、品のない高笑いが響き渡った。


「まさか! 本当に魔女だと!?」

「きゃああああああっ!」

「魔女だ! 魔女が現れた!」

「誰か助けて! 助けてぇー!」

「あっはははははははははは! あーっはっはっはっはっはっはっ! なんてザマだ、お貴族様よ! あたしが現れただけで逃げようとする全員腰抜け! 誰一人主君である王子を守ろうとしない! この国の未来は明るいねぇ! あーーーっははははは!」

「っ!」


 扉は開かない。

 窓の側には魔女の使い魔、鴉の群れ。

 ダンスホールは阿鼻叫喚の嵐。

 先ほどまで、あれほど穏やかで煌びやかだった場所と同じとは思えない。

 魔女が床に降り立つ。


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