新課題
「よくも裏切ったわね! 呪ってやる! その娘、呪ってやるよ! お前たちに災いを振り撒く、災厄の子となるように! あらゆる幸運を破壊して、寄せつけぬように! お前たちの子は生きているだけで人を不幸にする呪われた災の子だ!」
黒い髪を振り乱し、頭を掻きむしり、魔女が叫ぶ。
赤子の私を指差して、父と母を非難している。
父のしたことを思えば、それは当たり前の怒り。
ああ、いつもの……夢だ。
「呪ってやる!!」
私が“呪厄令嬢”であることを忘れないように、魔女は何度も叫んでいた。
夢だ。これは。いつもの夢。
けれど、紛れもない真実でもある。
——私は呪われている。
自分だけでなく、周りの人間にさえも不幸を振り撒く災いの塊。
父の罪。
でも父は一年、私と母と過ごしたら、魔女の夫になるつもりだった。
魔女が待ちきれずに父を探しに来なければ。
魔女の怒りは正しいと思うし、私に呪いをかけて父を諦めてくれたのは彼女なりのけじめと優しさだと思う。
「……お……様……お嬢…………」
懐かしい声がする。
誰かを呼ぶ声。
きっと朝になったのだろう。
起こしてくれる誰かの声まで再現するなんて、なんて都合のいい夢。
「エーテルお嬢様! 朝ですよ!」
「っ!」
リリィとノリガとエマ。
久しぶりに見た夢は、今まで見た夢の中では特に鮮明で胸が張り裂けそう。
魔女の、悲しみに満ちた表情。
こんなにはっきり見えたのは、初めて……。
「エーテル嬢、おはようございます」
「っ——! おは! おはようございます! イングリスト殿下……!」
壁の向こう側からコンコン、と音がして、イングリスト殿下の優しい声。
悪夢に魘されていたのが嘘のように、胸が高鳴る。
「今日はダンスのレッスンでしたよね? 頑張りましょうね」
「あ! ……あ、は、はい。あの……お手数をおかけして、申し訳ありません……」
「とんでもない。エーテル嬢のダンスに自分が関われるのは嬉しいです」
「ですが……」
私の王妃教育は、それなりに進んでいる。
しかし、令嬢ならば成長過程で学んでいることを今習っているので弊害も多い。
その上、イングリスト殿下と私は物理的な距離があまり取れないのだ。
ダンスのレッスンを行う時は、イングリスト殿下に政務をお休みいただかなければならない。
非常に、非常に申し訳ない!
せめて私が政務のお手伝いをできるようになればいいのだが、私の知識がそこまで追いついていないのだ。
もっと頑張らなければ……!
「そういえば、一週間後にピーナシア侯爵家主催の夜会があるのだけれど……聞きましたか?」
「は、はい。アンラージュ様に『必ず出席するように、間に合わせなさい』と言われました」
ダンスを。
無理無理!って思ったけど、ピーナシア侯爵家はこの国の四侯爵家の一画。
招待状を無視するのは、相手の宣戦布告を無視するのに等しい——らしい。
一応私の実家も四侯爵家の一画なので、同じ侯爵家の夜会には必ず出席して牽制しなければいけないのだそうだ。
……アンラージュ様の血の気の問題ではないのだろうか?
ちょっとそう思っていたのだけれど、イングリスト殿下からもこの話が出るとは思わなかった。
「ふむ……実はですね」
「はい」
「次の夜会に……オージェ国の、マリージア姫が出席なさるそうなんです」
「……オージェ国の……マリージア……姫」
どこかで聞いたことがあるような。
「それって、イングリスト殿下がエーテルお嬢様との婚約を急いだ理由になった、隣国のお姫様ですよね? 隣国にお帰りになったのでは、なかったのですか?」
リリィの言葉に私の間抜けな脳みそも思い出した!
イングリスト殿下のお誕生日パーティー翌日に、陛下から聞かされた、本来イングリスト殿下と婚約するはずだった方。
え? その方がその夜会に、い、いらっしゃると?
壁隔てた向こう側で、イングリスト殿下がどんな顔をしているのかわからない。
ただ、困っているお顔をしていそうだな、と思った。
「そのはずなのですが、どうやら貴族街の宿に滞在してピーナシア侯爵家と秘密裏に接触して、夜会の準備を進めていたようです。無理に婚約などせずとも、両国の貿易になんら問題はないはずなのですが……」
「他にもイングリスト殿下と婚約する理由が、オージェ国にはある、ということですか?」
ノリガが私の髪を梳かしながら声をかけると、小さな声で「おそらく」と答えが返ってきた。
隣国オージェが、どうしてもイングリスト殿下とマリージア姫を婚約させたい理由……?
考えつく理由は、イングリスト殿下の『祝福』を都合よく勘違いしている可能性だ。
でも、陛下は書面できちんと理由を説明したと言っていたし……マリージア姫が勘違いしている?
うーん、よくわからない。
勉強不足だわ。
けれど、イングリスト殿下も理由がわからないような口調だし……となると、ただ単にマリージア姫が、イングリスト殿下を——好き……と、いう可能性も……。
「考えてもわからないので、やはり夜会に参加するしかないと思います。エーテル嬢には負担をかけてしまうのですが、同行していただいてもいいでしょうか?」
「は、はい。頑張りますっ」





