ローズレッグ殿下に会いに行こう
一波乱のあった、王妃様のお茶会から一ヶ月後。
「エーテル嬢、ローズレッグに会ってみてはくれないかしら?」
「はえ……!?」
次期王太子妃として必要な教養——今はシンプルに計算の勉強を教わっていた時、突如部屋に現れた王妃様にそう言われて変な声が出た。
アンラージュ様が「あら」と扇で口許をかくしているけれど、間違いなく獲物を狙う目だ。
というか、ローズレッグ様って……。
「母上、急に現れてなにを……」
「聞いて。最近ローズレッグが歩けるようになってきたのよ!」
「そうなのですか!? 手紙と報告で聞いておりましたが……、……そうですか、よかった……」
執務机から立ち上がって私の側へ来たイングリスト殿下が、心の底から安堵する。
ローズレッグ殿下は第一王子殿下。
ローズレッグ殿下がお持ちの『祝福』は身体強化の魔術。
そう、ローズレッグ殿下はこの国でも数少ない魔術師なのだ。
その中でも[身体強化]の魔術は極めて珍しく、魔術でありながらその名の通り体を強くして魔獣を討伐した実績があるほど。
……ちなみに、魔獣は魔力を持つ獣。
魔女が作り出し、女神の試練を手伝うと言われている。
つまり、ローズレッグ殿下はすでに女神の試練を乗り越えておられるのだ。
私はよく知らなかったけど、ローズレッグ殿下は武勇に事欠かない王子様。
ローズレッグ殿下が剣を振るうと、剣の方が壊れてしまうという。
……そんな方が体調を崩していき、最近までほぼ寝たきりになってしまっていたのだから、イングリスト殿下の祝福による影響の強さがわかる。
イングリスト殿下はローズレッグ殿下をよく気にしておられたけれど、ローズレッグ殿下はイングリスト殿下をどう思っているのだろう?
イングリスト殿下にとっては——意図していないとはいえ、祝福の影響で兄君の体調が悪くなったことをとてもつらかったはず。
特に、お兄様から恨まれているのではないか、と思ってしまうわよね。
イングリスト殿下を見ると、安堵と同じくらい不安が滲んでいる。
「……わ、私……ローズレッグ殿下と、お会いします……!」
「だ、大丈夫なのですか、エーテル嬢」
「いえ、あの……私だけでは、私の呪いが発動してしまうので……イングリスト殿下にも、お側に、いていただきたい、です」
「っ!」
きっとイングリスト殿下はローズレッグ殿下の体調が悪化してから、お会いしていないのだろう。
お手紙や人伝てに聞いた状況だけでは、不安に決まっている。
祝福の影響だけでなく、第一王子ですでに試練も終えているローズレッグ殿下を差し置き、第二王子のイングリスト殿下が王太子になったのもきっと心に重くのしかかっておられるはず。
会いたい。
でも、嫌われていたら……。
そう思って、会うのが怖いのだろう。
だったら、私が架け橋になれないだろうか?
「イングリスト殿下……私がお側にいるので、ローズレッグ殿下とお会いしましょう。会うのが恐ろしいと思う気持ちは、わかります」
「あ……っ、……あなたには、すぐわかってしまうのですね」
「私も同じことを思いますから」
きっととても、とても不安だと思うけれど……私では、なんのお力にもなれないかもしれないけれど……。
「やはりエーテル嬢とイングリストを婚約させたのは正解ね……」
「え?」
「母上? 今なんと?」
「いいえ、なんでもないわ。では今から行きましょうか!」
「「今から!?」」
「時間を置くと覚悟が鈍るかもしれないでしょう。どうせローズレッグはまだ政務をやる気があまりないから、予定など関係ないわ。行くわよ」
王妃様にグイグイと連れられ、中央棟の五階へと連れて行かれる。
こ、ここは——五階より上は王族の住居として、近衛騎士と上級女官しか入れないはず!
そして、王家の寝所がある……イングリスト殿下も、元々はこちらにお部屋があったのだ。
つ、つまり、待って、この先は、本来であれば、け、結婚後に……!
「イングリストと結婚したあとは、あなたもここに住むことになるのだから、見学も兼ねてゆっくり見て回ってもいいのよ」
「ひえ! い、いいえ!」
「そ、それは後日日を改めてやりましょう。自分もしばらく王族の寝所には戻っていないので」
「えええ、ほ、本当にやるのですかっ」
王妃様に「あら、次期王太子妃として必要よ。迷ったら困るでしょう?」と言われてしまう。
確かに寝所が近くなると、道が入り組んで迷子になりそうだ。
……というか、絶対迷子になるわ、これ。
「!」
「慣れるまでは、自分がエーテル嬢をご案内しますよ」
「あっ、あっ、あっ……あっ、あり、あっーーー」
ありがとうございますもまともに言えない。
だって、イングリスト殿下が私の手に指を絡めてきたのだもの。
手が引き寄せられて、体温が近づいて……そんなことされたら、私の顔だって燃えてるみたいになってしまう。
だ、だめ、無理、顔を見られない!
でも、離してくださいなんて言えないし!
それは不敬になるかもしれないし、イングリスト殿下を傷つけてしまうかもしれないし、あと、別に嫌というわけではなくて、ただ、ものすごく恥ずかしくて死にそうっていうだけで!





