お茶会で(1)
……令嬢たちの視線が冷たい。
緊張の中、際どい笑顔を浮かべたまま、王妃様のテーブルへと着席する。
「ローズレッグは今日も体調が優れないため欠席となります。しかし、喜ばしい報告もあります! 起き上がることも困難だったローズレッグが、最近テーブルの前の椅子に腰かけ、自分の力で食事が摂れるようになったのです! 着実に回復しています! それもこれも、イングリストの側にエーテル嬢がいてくださるお陰でしょう……! わたくしも本日はとても体調がいい。本当にありがとう、エーテル嬢」
「え、あ、い、いいえ! 私などが、お役に立てたのでしたら、光栄です」
いや、本当に。
だって私の、これ、呪いですよ?
しかも私一人が苦しむようなものでなく、私の周りにも不幸を振り撒くという性格の悪いもの。
それが人に求められ、役に立つのだから不思議なものだ。
「ローズレッグも、来年にはお茶会に参加できるようになるでしょう。それまではどうか、イングリストとエーテル嬢の婚約を祝福してくださいな」
王妃様が口上を述べたあと、拍手が起こる。
最初は私に対して畏怖や敵視の眼差しを向けていた人々の一部は、表情が和らいた。
王妃様のお言葉は、かなり効果があったみたい。
はっ! 油断してはいけないわ。
私を睨むご令嬢は、まだたくさんいる。
「では楽しんでね、エーテル嬢。噂話もよい教科書となりますよ」
「は、はい」
これは噂話をチェックして、敵と味方を見分けるように、という意味でしょう。
とはいえ、私とイングリスト殿下はあまり離れられないので、席の移動は最低限にしなければ。
「失礼。婚約おめでとうございます、イングリスト殿下!」
「ああ、ありがとう、アンラージュ嬢」
あ、この方……覚えている。
イングリスト殿下の誕生日パーティーで、声を荒げた侯爵令嬢。
あのあと色々教えてもらったけれど、彼女は家の力で話題の中心に居座る、かなり強烈な性格の女性らしい。
リリィたちがお城の侍女たちに情報収集した結果、あらゆる夜会とお茶会で「わたくしこそ、次期王妃に相応しい」と豪語してイングリスト殿下の婚約者のように振る舞う。
イングリスト殿下も「彼女から手紙は届くのですが……」と言葉を濁すほど。
こ、婚約者でない方へお手紙を頻繁に送るのは、普通なことではないそう。
まあ、ですよね。
案の定彼女は私を強く睨みつけている。
あからさますぎてイングリスト殿下まで虚無の表情……!
「しかし、納得はいきませんわ!」
「えぇ……」
思い切り直球でおっしゃった!
えぇ!?
王妃様の前でそんな、はっきり……逆にすごい!
「わたくしは王妃教育を幼い頃から受けてまいりましたのよ! すべては次期王妃となるために! それなのにそんな呪厄令嬢に横からその地位を掻っ攫われて、納得できるはずもございませんわ!」
「つまり?」
「わたくしを正妃とし、その呪厄令嬢を側室にしてくださいませ!」
あ、空いた口が塞がらなくなってしまった。
イングリスト殿下もすごく困った顔。
お、王妃様は——もはや呆れ果てている!
「はぁ」
そうして大きな溜息を吐き出したのは王妃様だ。
周りの貴族たち、その令息や令嬢たちは、揃って顔を青くしたり信じられないものを見る目で見ていたり、またはあまりの非常識ぶりににやにや笑う者まで様々。
笑ってらっしゃるのは、令息の方が多いわね。
「オーフル侯爵! 本日はいらしておられませんの!」
「はっ! も、申し訳ございません! アンラージュ、下がりなさい!」
「な! 嫌よ、お母様! この呪厄令嬢にビシッと言って差し上げなければ! 次期王妃として!」
「!」
なるほど……次期王妃として、ここはビシッと言って差し上げるものなのね。
手を叩いて侯爵を呼び出した王妃様も、母親の言うことを聞こうとしないアンラージュ様に顔を顰めておられる。
これ以上は彼女のためにならない。
なるほど、こういうのを注意するのが“王妃”の役目なのね……。
でも、私に注意できるかしら?
あ、そうだ!
「あの!」
「なによ!」
ひぇー! 切り返しが速い!
声をかけておきながら、私の方が後ずさってしまう。
い、いいえ、負けてはいけない!
「貴族の婚約というのは、様々な事情を鑑みて、当事者だけでなく多くの関係者がお互いの利益になるよう調整して行われるものだと思います。アンラージュ様のおっしゃっていることは、子どもの我儘のように聞こえます」
「は!? なっ!」
あら?
周りの方々の「言っちゃったなぁ」という表情。
あ、あら?
言ってはいけなかった?
「なんですって! うちのアンラージュがお前のような呪い持ちに劣るというの!? ふざけたことを言うんじゃないわ!」
お、おわー!
まさかの奥様の方が反論してこられたぁー!
びっくりしましたけど、なるほど……。
「アンラージュ様のお母様は、アンラージュ様のことが大好きで自慢の娘なのですね」
「は!? そんなの当たり前でしょう!? よくご覧なさいよ! この子は小さな頃から王妃になりたいと言って、努力を重ねてきたのよ! それなのに、お前みたいな呪い持ちが突然王妃になるですって!? そんなの誰が納得するのよ!」





