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ナニモ遺せないまま死んでいくあなたへ

作者: 夢野ベル子

 わたしの話は宗教ではありません。

 ただ論理的にそうなるという類のものです。


 どういった話かというと、ほとんどの人間は何者にもなれないし、何も遺すことはできないかもしれませんが、それで問題ないという話です。

 問題ないというのは、主観的な意味において苦しまなくてよいという話です。


 わかりやすい話として、例えば生涯未婚率、子どもを遺さない人の割合を考えてみましょう。


 本邦において、子どもを遺さない人の割合はおよそ2割程度だと考えられます。

 これはどんどん増加しており、15年ほどもすれば3割程度まで増加する見込みです。


 子どもを遺さない、次代を遺さないというのはべつに特別なことでもなく、ありふれた普通のことになるということを意味します。


 ここで、子どもを遺さないというのは、個人の価値観の問題だから、自分はそれでいいと思うという人はそれでよいと思うのです。


 その人はその人で救われているし、わたしの論理は必要のないものだから。


 ただそうでない人もなかにはいるだろうと思います。


 例えば、生物としての価値は次代を遺すことにあるとか。


 あるいは、人として生まれた以上、なんらかのレジェンドを遺したいとか。


 ナニモノかになりたいとか。


 歴史のエクソンになりたいとか。


 そういう価値観を抱いている場合です。


 そういう価値観は、何も遺せず、ナニモノにもなれないというのは苦しみであると推測できます。


 わたしにはわたしの苦しみがありますし、あなたにはあなたの苦しみがあるのでしょうから、


 一概に共感することも、わかるともいえないのですが、


 しかし、論理的に"言葉"を展開することによって、あなたの苦しみはわずかながらも癒やすことができるかもしれません。


 そういった類のお話だとお考えください。




 ひとまず、人というものを分析してみましょう。


 人には、魂なるものがあるでしょうか。あるいは無いのでしょうか。

 人は単なる物質的な塊で、精神やこころというのは物質的な原子の衝突に過ぎないか否か。


 すなわち、物質的存在に依拠しない精神的なものが存在するでしょうか。

 ですが、ここで注意しておくべきなのは、人に限らず、すべての存在が唯物的か否かは二者択一的なものになるでしょう。

 ここでは中間項は否定され、すなわち排中律が確定します。


 あるいは中間項を肯定し、あるとも言えるし、無いとも言えるというような回答もあるのですが、これは色即是空と呼ばれ、回答無き世界へと至るものです。

 色即是空の世界とは「それでもと言い続ける」ことであり、これは苦しみ続けるということですから、一般人にとっては辛い世界だといえます。

 中間項を残すというのは、この世に真理などなく、真理などないという真理すら否定することですから。


 ひとまず、色即是空的な曖昧な世界は置いておきましょう。

 まずはハッキリとしている、魂があるか無いかの世界です。


 あなたがどちらのお考えかは、わたしにはわかりません。


 しかし、ひとまず魂なるものがあるとすれば、あなたが何も遺さないとしても問題ないというのはハッキリとしているはずです。


 人に魂的ななにかがあるとして、あなたが死んだとしても、あなたの魂的ななにかは存続するとする。


 であれば、輪廻転生にしろなんにしろ、あなたが物質的に滅びたとしても、魂は滅ばないはずなのです。


 したがって、あなたが今世において、何も遺せずとも、あなたの魂は不滅であるといえます。


 要するにコンティニューができる。


 その可能性がある。来世に期待しましょう。




 逆に人はただの物質にすぎないとしましょう。


 あなたはそういった考え方を信望しているとします。


 人は死ねば終わりである。

 なぜなら、人は物質の配列情報に過ぎず、その配列が崩れたことを死と定義するのだから。


 しかし、そうであるとするならば、この宇宙が存続する限り、同一の原子配列状態は永遠の時間の中で存在しうると考えるべきです。


 宇宙が無限の時間存続するのであれば、あなたはいつか再生されます。

 あなたがただの物質に過ぎないのであるならば、無限の時間の中で、まったく同一の配列状態がなぜ存在しないと言い切れるでしょうか。

 可能性が極小であるとしても、無限の時間です。無限大の可能性があれば、必ずいつかは達成しうる。

 あなたは物質的に永遠であると考えられるわけです。


 では、宇宙は無限ではないとしたら?


 たしかにその可能性はあるかもしれませんね。

 でも、それはあなただけではなく全存在が消えるということ意味します。


 ここで、あなたがなにかを遺せないことに苦しみを抱く原因が、誰かは遺せているのに自分は遺せていないという『差異』にあるとしたら、上記のようにその差異は無意味ですから、つまりいずれにしろすべて寂滅するので、問題はないと言えます。


 そうではなくて、他人との差異ではなく自分が遺らないという事実そのものが苦しみの原因だとすればどうでしょうか。

 

 しかし、宇宙が永遠不滅でないということを措定するならば、自分が遺らないというのは必然です。


 そもそも宇宙が永遠不滅でないと勝手に条件設定したのは自分自身であって、それを理由に勝手に絶望しているとも言えます。


 自分の妄想に押しつぶされているに過ぎないのです。


 もっと楽しい妄想をしましょう。




 以上、おおざっぱに考えまして、人は何も遺せなくても問題ないのです。

 あなたが遺したいと心の底から願っていれば、たとえあなたが死んだとしても、必ずその願いは達成しうるのですから。


色即是空か……、あれは呪文としては反則級でな

空は空すら空なのだから、つまり魔法を否定する魔法なのじゃ

魔幼女の末裔たるわたしの手にも余る……

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔は偉人とかになりたいとも思っていましたが(^_^;) 最近はこのまま、大多数の人間と同じように生きていって終わるのかなと思っております。 幸運にもそういう相手がいたので、 普通にブサイク…
[一言] 最後は肩の荷がすとんと落ちるような結論でホッとしました。 自分が何を残したいのか、素直な気持ちで考えたいと思います。
[一言] ありがとうございました
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