バラの花の庭園で
学園にたどり着いた私は、侍女のユーリナと別れて入学式が行われるという会場へ向かった。会場の入口では、入学許可証の提示を行っていて、提示をして入場が出来るようだった。受付の人に提示をして、名前を名乗れば入場できるようなので、
「リーナ・カナリスです。」
と、まだ慣れない苗字を名前と共に名乗る。この苗字もクリス様が、入学の時などに困るだろうと、つけてくださった名前だ。名前を名乗ったので、入場しようとすると声をかけられた。
「リーナ・カナリス様ですか.......。」
「どうしたのですか?」
「いえ.......なんでもないです。どうぞご入場ください。」
不思議に思ったが、気にしないことにして会場に入ろうとすると、受付の人の独り言が聞こえてきた。
「リーナ様って.......。クリス第一王子殿下が言っていた.......」
あまり意味がわからなかったが、私のことを言っていることはわかった。だが、あまり聞き取れなかったし、気にしても仕方が無いと思ったので、そのことについて何も考えない事にした。前の人が会場に入ったあと、私も入る。はずが、前の人には着いていなかった案内の人が何故か私の方に付いていて、さらに私が案内されたのは本来王族のみが入ることを許されるはずの会場を見下ろせる部屋に案内された。訳が分からず困惑して、部屋の扉の前で扉を開くか躊躇していると、後ろから懐かしい聞いたことのあるような声が聞こえた。
「リーナ?」
「え?」
驚いて振り返ると、そこには金色の髪に青い瞳の男の子。クリスが立っていた。
「入らないの?」
「え?だって.......。」
すると、なぜ困惑しているか気づいたのか、クリスがあぁ。と言って、
「君にお礼を言いたかったんだ。お礼を送るくらいしか、出来なかったからね。忙しくて直接お礼を言うことが出来なかったから.......。」
「そうなんですか」
「だから、入っても問題ないよ。」
「は、はい。」
そこまで会話してやっと気づいた。前世の記憶を思い出してから時間が経ってしまってすっかり忘れていたが、ここで主人公は王子様と再度話すというイベントがあった。だが、そこからはすっかり忘れてしまっていたので、前世の記憶は、この学園ではさほど役には立たなさそうだ。だが、このイベントを思い出せたおかげであまり躊躇しないで部屋に入れそうだ。深呼吸して部屋の扉を開ける。部屋に入ると椅子の番号が付いていて、私の伝えられた番号もあった。番号の着いた椅子に座ると、隣にクリスがいた。その隣には国王陛下と女王陛下がいて、驚いて頭を下げると、クリスが面白そうに微笑んでいた。、すると丁度式が始まった。まずは代表の一般貴族の生徒が挨拶をする。それが終わると、気づいたら隣のクリスがいなくなっていた。どうしたのだろうと周囲を探すと、ステージにクリスがたっていて、挨拶をしていた。移動の速さに驚いていると、あっという間に挨拶は終わっていた。そして式はあっという間に終わり、各自今日は寮に戻る事になっていた。寮に戻る道で、白い綺麗な髪に、青いリボンをつけた、黄金色の綺麗な瞳の私と同じくらいのどこか見覚えのある女の子が、こちらを睨んできていた。
「ああ!」
そして、少し歩いたあと、思い出したのはあの女の子のことだ。あの女の子は確か.......。シアリカ・メリーグ。メリーグ公爵家の長女だ。確か義理の弟もいて、義弟、アデースは、主人公との関係により、ゲームでは、攻略対象者との関係を手伝ったり、邪魔したりすることもある割と重要なキャラだ。そんなアデースを、シアリスは義弟が来るまでは、溺愛されていたが、アデースが来たことで自分のために何もしてくれなくなったと、両親に隠れ、義弟をいじめてゆくのだ。そんな中、主人公と会う前、第一王子、クリスとの婚約を結ぶ、そして、学園を入学をし、クリスと仲良さそうに話している、主人公をよく思わず、主人公もいじめていく、主人公はそんないじめに耐え、攻略対象者と結ばれていくのだ。そして後ほど、主人公と結ばれた攻略対象者にアデースと主人公がいじめられていた事実を公にする。その事実が公になったシアリカは、国外へ永遠追放とされてしまう。というのがこの物語の大まかなシナリオである。小説や漫画では、ひとつのルートを書いていて、ここがどのルートが分からないこの世界では、ゲームの情報が役立つ。
私がゲームの情報を歩きながら考え、部屋に戻るとすぐに優秀な侍女ユーリナが荷解きを終え、適当な場所に配置してくれ、さらには紅茶の準備までしてくれた。
「ありがとう。ユーリナ。」
いつも私の身の回りの世話をしてくれて、学園にも進んで着いてきてくれる、優しくて気のきける、私が姉のように慕っているユーリナにお礼を言う。すると、ユーリナは、可愛く笑って、侍女用の部屋に戻って行った。ユーリナが出ていったあと、私は寮のふかふかのソファに座ってくつろぎながら、紅茶を飲み、読書を楽しんでいた。
するとあっという間に時間はすぎ、今日は食堂が用意が出来ていなくて、空いていないとの事で、部屋で昼食を済ませ、夜食も部屋で済ませた。前世も含めて初めての寮生活の一日を思い出しながら眠りについたのだった。
「おはようございます。リーナ様。」
眠い目をこすりながらまだ慣れないベットの上から、体を起こす。
「おはよう.......。」
そして、昨日の入学式以来初めて着る、ゲーム通りの制服を身につけ、部屋を出て、寮棟から、教えられた教室へと向かう。
少し歩くと、教えられた教室へと、足を踏み入れる。
そこには、クリスや、ほかの攻略対象者たち、そして、悪役令嬢、シアリスがいた。指定された席に向かう、そこはクリスの横で、その周りにはほかの攻略対象者たちもいた。いかにも主人公の席だなと思った。昨日と変わらず、シアリスが睨んできていたので、余り関わらないようにと、クリス様には今日はあまり話しかけないでおこうと思ったその時、
「同じクラスだったね!リーナ!」
と、明るくクリス様が話しかけてきていた。
「はい。そうですね!クリス様。」
何も答えないのは良くないと思ったので明るく答えると、先程までもきつかった視線がさらにきつくなった。気がした.......。その後、クリス様と、世間話を交わしたあとで、ミーティング開始の合図がなった。
綺麗な緑色の髪を高くポニーテールに結んだ、スーツ姿の女性が入ってきた。
「では、これから学園の説明を始める。」
どうやら、このクラスの担任のようだ。そして、一通り、図とともに校内紹介を受けたあと、
「質問はないか?では次に入る。」
と、言った。
「まず、このクラスの交友を深めるため、自己紹介から始める。私の名前はグリー・ディバーだ。ディバーとでも呼んでくれ。」
そして、次は名前の順に自己紹介をして行った。自己紹介を終わると、次は授業が始まっていく。今回は始めての授業のため午前授業で終わるそうだ。
「終わったねー。」
「そうですね!午前だけですけど長く感じてしまいます.......。」
授業終わり、クリスと昼食をとるため食堂へ向かっていた。
だが.......。後ろからすごく視線を感じる.......。恐くシアリカからの視線だろう。もう既にクリスと婚約者になっているだろう。婚約者と他の女生徒が話しているのが気に入らず、クリスとよく話していた主人公をいじめるのだ。
そして、シアリカの視線を受けながらやっと食堂に着いた。
「リーナは何食べる?」
「うーん。そうですね〜。」
すると、前に並んでいた同じ教室の女の子が頼んでいた定食の名前が聞こえてきた。
「私も同じので!」
「それじゃあ僕が頼んでくるから待ってて。」
「はい!」
前の女の子と同じ定食がいいと言うことを言おうとしたのだけれど、主語が抜けてしまった.......。だけれど、きっとクリスなら分かってくれる.......。わよね。
椅子が4つずつ並んでいる席に座って待っていると、クリスが、前の女の子と同じ定食を持ってきてくれ.......。ではなく、クリスが頼もうと言っていた、定食が2つあった。やっぱり主語抜きでは分からなかったわよね.......。
まぁ。そっちも美味しいし!と思い直し、
「ありがとうございます!クリス。」
と、お礼を言うとクリスはニコッと笑った。クリスの笑顔が素敵で見とれていると椅子の引く音が聞こえ、驚いて、椅子の引く音が聞こえてきた方を見てみると、シアリカが正面の席に座っていた。.......??何故かわからずアタフタしていると、
「どうしたのよ?」
とシアリカに言われてしまった。
「い.......いえ。何でもないですわ。」
びっくりしたー!と思いながら、急いで返すと、シアリス様はそっぽを向いてしまった。
そして3人で定食を食べ終えると、クリスが、
「学園の教室の位置とかはさっき教えて貰ったし、散歩にでも行かない?ミーティングでは教えて貰えなかったけれど、綺麗な庭園があるんだ!」
と言った。すると、シアリカは一瞬顔を輝かせたが、すぐにいつもの不機嫌顔に戻してしまった。ゲームなどでもいつもこの不機嫌顔だったシアリカの見たことの無い顔に驚いたけれど、いつもの顔に戻ってしまったので気のせいだったかなと思い、庭園へ歩き始めた。庭園にはバラが咲き誇っていて、とても綺麗だった。
「綺麗ですね。」
「そうだね。」
バラが沢山咲いているアーチをくぐり、アーチの中にある、様々な色のバラが咲いている所へ行く。
「僕はこっちも見てくるね。」
と言って、クリスは別の花のアーチをくぐりぬけて行った。シアリカと2人、綺麗だなと思ってバラを見ていると、バラの中に1輪青いバラがあった。
すると、聞いたことの無い、弾んだ声が聞こえてきた。
「綺麗!素敵!」
驚いて声の方向を見ると、シアリカが弾んだの声で、私が先程見つけていた青いバラを見つめていた。あまりに、喜んでいたので、
「欲しいのですか?」
聞いてみるとシアリカは今までに無いくらい弾んだ声で、
「ええ!とっても素敵で.......。」
と、そこまで喋って凄くはしゃいでしまっていたのに気づいて恥ずかしくなってしまったのか、頬を赤くしていた。
「ご、ごめんなさい。話しすぎちゃって.......。」
クリスといた時と、全然違う反応に驚きながらも、
「いえ。いいのです。むしろ、シアリカ様の好きなものを知れてよかったです。」
冷静を保って答えることが出来た。
「あの。もし良かったら友達になってくれませんか?」
もしかして、物語の悪役令嬢、シアリカでは無いんじゃないのかと、この世界でのシアリカは優しいのではないかと思い、友達になろうと思った、私は思い切って伝えてみることにした。
「ええ!もちろんよ。その.......。私もね。あなたと友達になりたかったの。」
そして予想外に断られると思っていたけれど、友達になってもらえた。しかも.......。友達になりたかったとまで言われてしまった。私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
私はクリスが戻ってきたあと、庭園で用があるといって、庭園で2人と別れた。
「またね!」
帰り際、2人に挨拶をすると、
「またね!」
とクリスはいつものように返してくれて、
「ま、またね!」
とシアリカは、まだ慣れないのかたどたどしくそう返してくれた。それを見たクリスが一瞬眉をしかめたような気がしたが、私は気のせいだと思い、あまり気にしていなかった。
2人が寮へ向かっていったのを見送って、私はクリスとわかれる前に聞いていた庭師が庭園の奥にいるという情報をもとに、庭園の奥に向かった。庭園の奥には道具などが入っているであろう小さな小屋があった。その小屋の扉にノックをすると、中から優しい声が聞こえてきた。
「どうしましたでしょうか。」
と声が聞こえて、優しそうな初老の男性が出てきた。
「あの.......。」
目的のものを貰った私はさっそく、シアリカの部屋に向かっていた。
扉にノックをしてすぐに、ガチャりとドアの開く音が聞こえてきた。
「リーナですのね!どうしましたの?」
と少しはしゃいだ様子で、部屋に向かい入れてくれた。
「シアリカ様。私、プレゼントを私に来たのです。」
「なにかしら?」
そして私は、持ってきていたカバンから、綺麗な一輪の青いバラを取り出した。
「どうぞ!」
「え!?」
私がバラを差し出すと、シアリカはとても驚いた顔をして、あたふたしていた。
「なんで!?このバラは庭園にあったはず.......。」
「シアリカ様たちとわかれたあと、庭園に残って庭師のマーデンさんから貰ってきたの!」
そう、私は庭園の奥の小屋に行き、庭師のマーデンさんにあの花、青いバラが気に入ったからくれないだろうかと聞きに行っていたのだ。無理だと思っていたが、快く受け入れてくれたのだ。しかも、包装までしてくれたので、今渡した青いバラは包装されていてより綺麗だ。そのバラを嬉しそうに持ちながら、シアリカは花が咲くような可愛い笑顔を向けた。
「ありがとう!リーナ!あなたは私の大切な友達よ。」
翌日。シアリカとクリスと共に制服姿で、教室へと向かう。そして、午前の講義を終え、私は食堂へ向かった。シアリカとクリスはお互い別々の用事があるようで、本当は一緒に食べたかったけれど.......。と、言っていた。
1人で食堂へ向かっていると、
「リーナ・カナリス。」
と、後ろから聞いたことの無い声が聞こえてきた。
黒い髪を下ろしたつり目の女生徒だ。その子の後ろにも、女生徒がいて、みんないかにも悪役という感じだった。
「あなた。クリス様やシアリカ様になんて口を聞いているのかしら?」
「何も出来ない成り上がり公爵令嬢なのね。」
クスクスと笑い声が起きる。
「あなたのような分際にこんなもの。似合わないわ。」
と、私の髪に着いていた子供の頃別れ際にクリスが渡してくれた、宝物の髪飾りを取られてしまった。
「やめてください!」
どんな罵倒よりも髪飾りを取られてしまったことが悔しかった。なのに、何も言い返せないなんて.......。
「あなたには、泥の方がお似合いよ。」
「っ.......。」
「何も言い返せないのね。」
何とか抵抗しようと、なにか返せないかと、考えているとよく聞き慣れてきていた声が聞こえてきた。
「何をしているんだ?」
「ひっ。」
彼女たちは驚きに声を漏らしていた。
「君たち、今リーナが何をされていたか、見ていたかな?」
廊下で、事の成り行きをみていた他の生徒たちにクリスは低い声で問いかけた。
生徒たちはこくこく頷くと、先程の出来事を語った。
「君たちには罰を与えないとね。」
「うっ。」
「何もしていないリーナを傷つけるのは許さない。それに.......。君が持っているのはリーナに僕があげたものだ。」
そしてより低く声のトーンを下げて、クリスは
「リーナに返せ。命令だ。」
と言った。
そして私の手に髪飾りを戻すと、女生徒たちは逃げていった。
「大丈夫だった?リーナ。」
私は助けてくれたことが嬉しくて、何も言い返せず、罵倒されていたのが悲しくて、泣いてしまった。
そんな私をクリスは優しく慰めてくれた。
「ありがとうございます。クリス。」
その後も影で陰口を言われた私を毎回助けてくれた。
ゲームなどで好きだったからではなく、私はこの世界でクリスを好きになっていた。
クリスとも、仲良くなったとしてもシアリカは虐めて来なかった。だが、それどころか、だんだん元気がなくなって行った。
ある日。私を虐めていた女生徒が正面玄関に張っていたので、私は近くにあった建物の角に隠れて、見つからないように待とうとしていると、建物の空いている窓から、誰かの話し声が聞こえてきた。
「ーーーーー。」
その会話は.......。