悪役令嬢を救うまで~
夕食近くの駅の中、電車を待つため、人混みをかき分け、進んでゆく。駅の中は仲良く並んでいる親子や、会社帰りの人など様々だ。「今日のご飯なにー?」
人の声が常に行き交うこの駅はいつも混んでいる。電車を待ちながら、気に入っている本を開く。しばらく読んでいると、電車の近づいてくる音が聞こえてくる。読んでいた本を閉じた時、
「電車!!」
と、子供のはしゃいだような声が聞こえてきた。
「危ない!」
次に大人の叫ぶような、慌てたような声が聞こえた。只事ではないその声に、驚いてその声の聞こえた方向を向く。
すると、向かってきている電車に目を取られ、線路に落ちてしまっている男の子がいた。膝に擦り傷を作り、泣いていた。
その光景を見た瞬間、咄嗟に体が動いていた。線路へ飛び込み、着地する。足が少し痛んだが、気にせず、進む。
あと少し。急がなければ。焦る気持ちを抑えて、男の子を安全な場所へ移動させる。と、同時に酷い激痛が走った。薄れゆく意識の中。 もう一度生きれたら.......。と思った。そこで、私の意識は消えていった。
次に目が覚めたのは、知らない部屋でだった。少し古びた木でできた家だった。ぼんやりとそう考えていると、私が寝ていたベットの近くの壁に少し小さい鏡が目に入った。
「えっ...」
鏡を見て、驚き思わず声が出てしまった。鏡に映ったのは、黄金色の短い髪に、青い瞳の優しい印象の少女だった。その少女が目を見開き驚いていた。
声が出るほど、驚いた衝撃で、ぼんやりとしていた頭が覚めて、あの日のことを鮮明に思い出せるようになってきた。そうだった。私は、あの時死んで.......
鏡に映った少女は、あの日、読んでいた本の主人公の、姿そのものだった。
どうやら、私は転生してしまったようだ。
乱れた呼吸を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。しばらくして落ち着いた頃にもう一度自分について思い出す。
私は高校生で、ゲームにもなっているという「あの星の灯火を」という、小説にハマっていた。
小説から、ゲームや、漫画まで全て読み、プレイし尽くした。そして、ついにゲームの続編が
出ることになり、小説を読み返しているところで電車に引かれてしまったという。大体まとめるとそういうことになる。
そして、私が主人公の設定のこの世界は、「あの星の灯火を」と、同じ世界だということになる。
「あの星の灯火を」は、中世ヨーロッパ風の世界を舞台に主人公と攻略対象者たちとの恋を育む物語だ。悪役令嬢に邪魔はされつつも、恋を育んでいく。王道の物語だが、高校生や、大人までに、人気の作品だった。小説は、王子と結ばれるが、ゲームは、他の攻略対象者とも結ばれる。
この世界が小説の世界なのか、ゲームの世界なのかは不明だ。転生できたのは嬉しかったが、主人公はどの、物語でも悪役令嬢に虐められていた。5年後必ず来る未来に私は頭を抱えたのだった。