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浮気された令嬢、束の間の自由を謳歌する

作者: 下菊みこと

「リエット・ルイーズ!貴様は公爵令嬢でありながら男爵令嬢であるアンに姑息な虐めを行なったな!貴様は王太子妃に相応しくない!よってここに貴様との婚約を破棄し、アンとの新たな婚約を宣言する!」


ご機嫌よう。私、リエット・ルイーズと申します。このディオール王国の筆頭公爵家の娘ですの。優しい両親と、その後を継ぐしっかり者のお兄様、そんなお兄様を支える心優しいお義姉様に囲まれて愛されて育って参りました。


けれども甘やかされたわけではなく、幼い頃からルイーズ公爵家の娘としてセラフィン・ディオール王太子殿下との政略結婚が定められておりました。そのため早い段階から厳しい王太子妃教育を受けて参りました。王太子妃として相応しい教養を身につけて、外交の場にも連れて行かれました。毒を少量ずつ摂取して身体を慣らし、また王太子殿下に何かあればすぐに盾になるよう教え込まれました。


そんな私に対して、セラフィン殿下はあまり良い感情をお持ちではないようでした。私の誕生日パーティーへの参加なんて一度もなく、プレゼントどころかバースデーカードすらも無し。婚約者同士の交流をと定期的に行われる二人きりのお茶会では来て早々にお茶を飲み干してさっさと席を立つ始末。二人で出席しなければならないパーティーなどでもエスコートは最低限。私、この結婚が心配で仕方がなかったのです。


ですがそこに救世主が!セラフィン殿下が仰ったアン様…男爵令嬢ジョアンヌ・トリスタン様がどんな手を使ったのか、いつのまにかセラフィン殿下と良い仲になってくださったのです!


しかも、王家主催のパーティーの場で婚約破棄宣言!ええ、ええ。もちろん身を引きますとも!


「虐めの件についてはやっていません。正式に王家の方で調べてください。本当にやってないので」


「シラを切る気か!」


「いえいえ、本当にやってないだけです。ですが、婚約破棄、承りました!」


「え?」


「むしろ破棄してくださってありがとうございます!」


「は?」


「でもですね、えーっと、何から話そうかな。とりあえず虐めはやっていませんが、公爵令嬢がたかだか男爵令嬢を虐めてもなんの罪にも問えませんからね、アンさん」


「は!?」


「だってこの国、貴族社会ですもの。階級が全てですわ。むしろ男爵令嬢風情が公爵令嬢の婚約者に手を出した時点で貴女の身を保証出来ない事態になってますのよ?ねえ?」


ちらっと野次馬している皆様に同意を求めるとみんなうんうんと頷きます。アンさんの顔色が土気色に変わりました。


「あと、私とセラフィン殿下の婚約なのですが…可哀想なので説明して差し上げますが、セラフィン殿下のための婚約でしたのよ?」


「…何を言っている?」


「セラフィン殿下は第二王子で側妃様のお子。平民出身の側妃様は、如何に国王陛下からの寵愛を受けようとも後ろ盾がない。そもそも平民出身の側妃様が妾ではなく側妃にという時点で反発されていましたもの。だから、王妃陛下のお子で第一王子で在られるイヴァン殿下を退けセラフィン殿下を王太子にと国王陛下が決断なされた時、我が公爵家を後ろ盾にとこの婚約が成立しましたの。つまり、私と婚約破棄した今この瞬間からセラフィン殿下のお立場は非常に危ういのです」


「な、なんだと!?」


「イヴァン殿下はその優秀さから何度も改革派の貴族から狙われて、暗殺されかけて来ましたわ。セラフィン殿下は良い傀儡になりそうだと、改革派の貴族から大切に大切に甘やかされて参りましたわよね。貴方様はそれに胡座をかいておいででしたけれど。そんな貴方様を守るため、私は必要以上に厳しい王太子妃教育を受けたのですわ。そして私は何度も改革派の貴族とは距離をおけと言ったのに聞き入れても貰えませんでしたわね」


「…お、俺は…将来を期待されてちやほやされていたわけではなく、傀儡にするために…?」


「ああ、話が逸れましたわ。そんなイヴァン殿下を生かすため、病弱という設定にしたのでイヴァン殿下は実はピンピンしております。むしろ私と同じように毒を少量ずつ含み身体を慣らしているくらいです。セラフィン殿下よりも武術を鍛えておられますよ。そんなイヴァン殿下はまだ王位継承権がありますから、セラフィン殿下のお立場はますます悪くなりますわね。こっそりと執務などを王宮の奥でこなし、セラフィン殿下を陰ながら支えて来られたイヴァン殿下も、ほら、このようにお怒りですわ」


「え…」


「見損なったぞ、バカ弟。そんなたかだか男爵令嬢風情にいいようにされるとはな」


「兄…上…」


突然のイヴァン殿下の登場に久々に兄に会うセラフィン殿下は顔色を青くし、野次馬がざわつきます。が、イヴァン殿下が私の隣に並ぶと、しん…と静まり返ります。


「父上…国王陛下からのお言葉だ。よく聞け。セラフィンとリエット嬢の婚約は白紙に戻す。セラフィンは王太子位を剥奪。中央教会への出家を命じる。神に祈りを捧げ、残りの人生を全うするように。そこの男爵令嬢は王太子を籠絡しようとした内乱罪で処刑が決まった。衛兵、二人を連れて行け!」


「な、あ、兄上っ!俺はただ何も知らなかったんだ!許してくれ!リエット、婚約破棄は撤回する、だから!」


「あら?さっき婚約は白紙に戻すと聞きましたでしょう?それが全てですわ」


「そんな…」


「わ、私が内乱罪…処刑…?い、いやよ!やだやだ!離してっ!」


そんなこんなでお騒がせ二人組みが退場すると、イヴァン殿下が私に傅きました。


「リエット嬢。こんな状況で申し訳ないが、どうか私と婚約してくださいませんか?貴女以上に王太子妃に相応しい方は他にいない」


「光栄ですわ。もちろんお受け致します」


「そうか…!」


「ただ、お願いがあるのです」


「可能な限り叶えよう」


「そうですか。では…」


ー…


畑でジャガイモを収穫する。ああ、とても楽しい!じゃがバターにしていただきましょう。ポテトチップスもいいわね。この束の間の自由を謳歌できるのも残り三日。早いものだと思う。


あの後イヴァン殿下に、少しの間でいいから片田舎の飛び地にある領地で農業をやってみたいと駄々を捏ね、見事に農業ライフを勝ち得たのだ。ただし期間は一年半。それももうすぐ終わる。


あー、牛のムムとリーシャの搾りたての牛乳を飲めなくなるのは悲しいな。手作りチーズやヨーグルトもまだまだ堪能し足りない。


畑の野菜達もとても愛おしい。丹精込めて育て上げたこの子達を食べきることなく王宮に向かわなければならないのはかなり寂しい。


「リエ。また会いに来たぞ」


「イヴァン殿下!もう、後三日で王宮に向かいますのに」


「だが、そこではリエのヨーグルトが食べられない」


「ふふ、正直な殿下」


この農業ライフのもう一つの楽しみは、こうしてイヴァン殿下が事あるごとに押し掛けてきて私の丹精込めて作ったヨーグルトやチーズ、野菜達を食べて、感想をくれること。今や私は、正直な感想をくれるイヴァン殿下にメロメロだ。


「リエ。私はリエとなら穏やかな結婚生活を営めると信じている。君からこの自由な暮らしを奪うのは忍びないが…私と共に生きてくれ」


「ふふ。私でよろしければ、是非」


私が答えると、イヴァン殿下は私を抱きしめる。


「イヴァン殿下?」


「愛してる。いつか、君からも気持ちが欲しい」


「…おバカさん。私、とっくにイヴァン殿下に心を寄せていましてよ?」


「…!?本当に!?」


「ええ、本当に。ここで嘘を吐いてどうするんですの?」


「リエ、愛してる!大好きだ!」


「うふふ、私もですわ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] そして王宮内に農園と牧場が誕生する訳ですね… うん。奥が深い(笑) テンポ良く読ませて戴きました! 投稿有難う御座いました!
[一言] >公爵令嬢がたかだか男爵令嬢を虐めてもなんの罪にも問えませんからね 上の者が下の者殺るのに理由は要らないなんて時代と地域も そんな体制は当たり前のように長持ちしないけど まあイジメ程度じゃ…
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