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第7話 レアクエゲット! これが噂のテンプレ展開?

「ふえ〜、はーちゃん、まるでバーゲンセール見たいだね」


「リン、むしろバーゲンセールより殺伐としてるわ」



 広場を後にしたリンとハルカは、レベル上げのついでにクエストを受注すべく、冒険者ギルドへやって来た。


 リン達が入り口の扉を開けて中に入ると、そこではプレイヤー同士の激しいクエスト受注争奪戦が繰り広げられていた。



「てめえ、そのクエストは俺のだ。手を離せ!」


「俺の方が先に手に取った! お前こそ離せ」


「その美味しいクエストは私達のよ。お願い手を離して」



 そこには様々なプレイヤーが、クエストを受けるべく、壁に貼られたクエスト依頼の紙を奪い合う地獄絵図が描かれていた。


 まるで某デパート内にある、婦人服売り場の戦場を彷彿とさせる光景に、リンはタジタジになる。



「はーちゃん、あれって?」


「ん? ああ、実入りがいい、美味しいクエストの取り合いでもしているみたいね」


「はえ〜、なんかスゴイね。みんな壁の前で待ってるのは、クエスト待ちなのかな?」


「だね。壁の掲示板にはクエストが書かれた依頼書が自動的に出現するみたい。掲示板の前に張り付いて、少しでも好条件のクエスト依頼書が湧くのを待っているんだと思うわ」


「わ、私、クエスト受けられるかな……」


「よっぽど好条件でない限り、普通に受けられるはずよ。良さそうなクエストがあったら、剥がしてみよう」


「うん! どんなクエストがあるのかな〜」


「最初は簡単なクエストからだね。レベルによって受けられるクエストが決まってるみたい。たしか自分のレベル+5までだったかな?」


「はーちゃん、詳しいね。このゲームやったことあるの?」


「ん? ないよ。リンと同じはじめて。ゲームをプレイする前に、情報を集めといたの」


「流石、はーちゃん、頼りなる」


「リンよ、もっと頼るがよい♪」


「わ〜い♪ 高校の勉強も頼りにするね」



 サラッとリアル世界も頼ろうとするリンに、ハルカが困り顔になる。



「リン、勉強は頑張ろうね。高校は中学と違って義務教育じゃないから、成績悪かったら留年しちゃうよ。そしたらリンは同い年なのに、私を『はーちゃん先輩』と呼ぶことになっちゃうからね」


「え……留年? た、助けてはーちゃん! 留年するなら一緒だよ」


「いやいやいや、リン……いくら私でも、親友のために留年はしないから! 留年するならリン、1人だからね」


「はーちゃん様、見捨てないで〜、留年はイヤ〜」



 リンが泣きながらハルカの腰にすがり付くと――



「クックックッ、リン……お馬鹿なとこも愛い奴め、ゲームも勉強もしっかりと面倒を見てやろう! 感謝するがよい♪」


「ハハーッ! はーちゃん大明神様、ありがたや、ありがたや……」



――両手を合わせたリンは、ハルカを拝みだした。



「ぷっ! あははははは、ありがたやって、さてはリン、昨日は時代劇映画でも見たわね」


「クスクスクス、実は大江戸サイバー捜査網って、昔の映画を見たんだ。面白かった。今度一緒に観よ」



 リンとハルカは互いに笑い出す。二人のいつもの掛け合いに、今日も花が咲いていた。


「時代劇にサイバーッて……ある意味ありかも!」


「でしょ。ネットで見た時、ビビッて来たの! これは名作の予感がするって」



 リンとハルカ、性格も趣味も違う二人だが、変な所で気が合う。



「よし、今度のお泊まり勉強会のとき、二人で観よう!」


「シリーズで十作あるから、見応えたっぷりだよ〜」


「おお! これは気合を入れて鑑賞に望まないと、でも勉強会だから勉強もしっかりやるよ」


「う、うん……勉強も……だね」



 リンに勉強をよく教えるハルカは、お泊まり勉強会を二人でよく開催している。無論、勉強はしっかりやるのだが、メインはパジャマに着替えてからのガールズトークであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はーちゃん、はーちゃん! この青いの可愛い! どう思う?」



 ベットに寝っ転がって、ファッション雑誌のページをめくっていたリンは、ハルカに開いていた記事を見せる。



「おっ! 可愛いわね。この赤いのコタロウに似合うんじゃない?」


「この首輪も可愛い♪ コタロウに似合いそう。こっちもいいかも!」


 リンが見ていたのは女性向けのファッション雑誌かと思いきや……犬用の専門誌だった。


「でも高い……ブランド物は手が出せないなあ。あっ、ドッグフード新味が出てる! ゴーヤチャンプルー味? 健康志向でコタロウにいいかも」



 自分よりもコタロウ優先のリンと……。



「あっ! リン、この子見て! この子、カッコいい! プロポーションも私の好みだわ。このスタイルの良さ……たまらないわ〜。リンどう思う?」



 今度はハルカが読んでいた雑誌をリンに見せる。



「ん〜、ドラグノフ狙撃銃? 繊細そうな子だね〜」


「そこがわかるなんて流石リン! シャープで綺麗なボディーでありながら、軽量化のためにストック部分に大きな穴を開け、力強さと繊細さを併せ持った名銃よ」



 ハルカが見ていたのは、アイドル雑誌ではなく……世界の銃器名鑑だった。



「こっちの子は? IMI-ガリル?」


「リン、この子に目を止めるなんて……恐ろしい子! この子はアサルトライフルって突撃銃なんだけど、世にも珍しい栓抜きが付いた銃なのよ!」


「へ〜、便利そうだね。お父さんのビール瓶の蓋を開けるのによさそう」


「便利、便利♪ 一家にひとつあっても、いいくらい便利よ」



 どちらかが眠りに着くまで行われる深夜のガールズトーク……しかし、リンとハルカが恋やファッションの話をするワケがない。


 人とは違う感性の二人が出会ったとき、深夜のガールズトークからガールの文字は消え失せていた。


 ほんの少し何かがズレた二人だったが、出会った頃から常に一緒におり、ケンカらしいケンカをしたこともない。仲良しな二人のお泊まり勉強会は、いまでも月二回ペースで開催されているのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「リ、リン……留年は本当にダメだからね?」


「分かったよ、はーちゃん……出来るだけ頑張るね」


「そこは全力で頑張るって言う所だから」


 ボケ役のリンに、ツッコミ役のハルカ……互いを信頼しあう親友だった。


「一人三件までクエストを受けられるみたい。時間がもったいないし、手分けして探そっか? リンは手前から探してみて。私は奥から探してみるわ。面白そうなクエストがあったら取りあえずキープね」


「うん、分かった。頑張るよ〜」


 さっそく二人は、二手に分かれて掲示板に貼られたクエストを吟味し始めた。



【求む薬草】

 レベル1

 町のそばに生える薬草の採取

 報酬 200ゴル

 必要薬草数 10束

 期限 無し


【害獣ネズミ退治】

 レベル1

 町のそばに現れた害獣ネズミの退治

 報酬 1匹につき30ゴル

 必要討伐数 5匹

 期限 無し



「はえ〜、たくさんあるな〜」



 チラリとリンは奥に向かったハルカを見る。人垣のせいで見通せず、奥までどのくらいの距離があるのかわからない。150cmも身長がない小柄のリンには、この掲示板が途方もない長さのものに思えてしまった。



「とりあえず、順番に見ていこうかな?」



 小柄な体を武器に、人と人の間にできた狭い空間へ身体を滑り込ませ、クエスト内容を確認しながら横に移動するリン。


 大抵のクエストは、アイテム採取か魔物退治のどちらかで、報酬も同じようなものだった。十分もすると代わり映えしないクエスト依頼に、リンも飽きはじめる。



「ん〜、レベル7までのクエストだと、大体同じみたい。悩んでもしょうがないし、適当なクエストでいいかな?」



 リンが掲示板に貼られたクエスト依頼表を適当に手にしようとしたとき、リンの目の前にクエスト依頼表が出現した。

 

 一瞬だけ光り、出現したクエスト表の内容を見ると……。



【特別クエスト 子竜討伐】

 レベル 7

 初心者の洞窟に現れた子竜を退治せよ!

 報酬 1万ゴル

 必要討伐数 1匹

 期限 なし



 リンは思わずクエスト依頼表を手にする。



「やった! 報酬が段違いだよ。きっと美味しいクエストだね。はーちゃん喜びそう♪」



 偶然、目の前に沸いた美味しいクエストに、リンの心がホクホクになる。だがそんなリンを他所に、周りにいたプレイヤー達は騒ぎ出していた。



「お、おい、今の?」


「嘘でしょう?」


「イヤ、確かに一瞬光っていたぞ」


「ねえ、君?」


 

 喜ぶリンの前に、The剣士と言うにピッタリな装備をしたイケメン男が近づき声を掛けてきた。



「はい? 私ですか?」


「そう。見たところ一人みたいだけど、初心者?」



 さっきのこともあり、リンは少し警戒する。



「ああ、警戒しないで大丈夫。君がそのレアクエストを手に取ったのが見えてね」


「レアクエスト?」


「そう。クエスト掲示板に、低い確率で沸くクエストなんだ。達成すれば特別な報酬や称号が貰える、レアなクエストなんだよ」


「へ〜、そうなんだ」


「ここにいるみんなはレアクエスト狙いで、張り込んでいるんだが……お願いだ、そのクエストを僕らに売ってくれないか?」


「え? クエストッて売れるの?」


「そのクエスト依頼表を、あそこのカウンターに座るNPCに渡す前なら、譲渡が可能なんだ。報酬ゴルの二倍払うから頼む!」


「そうすると2万ゴル?」



 リンはどうすればいいか判断に困ってしまうが、ハルカの笑顔が頭に浮かぶと――



「えと、せっかくですが、友達と二人でやりたいので、売るのはお断りします。ゴメンなさい」



――リンはペコンと頭を下げていた。



「そうか……じゃあ、俺たちをパーティーに加えてくれないか? 聞いたところ、友達と二人でレアクエストに挑むみたいだけど、たった二人じゃクリアーは難しいと思う」



 食い下がるイケメン剣士。何がなんでもレアクエストに参加しようとリンに喰らいついてくる。



「せめて最大の六人パーティーじゃないと難しいよ。ウチのパーティーはバランス良くパーティーを組んでいるから、君達二人と被る職のメンバーと交代できる。護衛として参加させてくれ」


「護衛か〜、それならいいかも? 友達に相談して決めても良いですか?」


「モチロン。やった、ついにレアクエストが受けられるかも知れないぞ」



 イケメン剣士が仲間のパーティーメンバー達と喜んでいると……。



「ちょっと待ったあぁぁぁぁぁぁぁ!」


「待って〜」


「待てーい!」



 次々と人垣から、次々とちょっと待ったコールが掛かりまくる。



「そいつらより、俺のパーティーの方がレベルは高い! 護衛ならウチらをパーティーに加えないか?」


「無彩男のパーティーなんて止めて、ウチはどう? 女の子限定パーティーだから、安心よ」


「力こそ正義、筋肉こそ最高のパートナー、最強の盾はこの筋肉! ウチのパーティーなら物理攻撃に強い。ぜひ君の盾に使ってくれ!」



 イケメン剣士とのやりとりを見た他のプレイヤーが、次々とパーティーに加えてくれと声を上げる。



「いや、ウチが一番に交渉したんだから、ウチにパーティーへ入る権利があるはずだ。そうだろう君?」



 イケメン剣士がリンに同意を求め、リンに詰め寄る。



「あ、あの、待ってください。友達に聞いてみてからでないと」


「そうだったな。じゃあ友達が来る前に、君と友達の職業を教えてくれ。パーティーを組むとなった際に、すぐにパーティーを組めるようにしておくから」


「はい。えと……私の職業は召喚士で、友達はガンナーです」


「え? しょ、召喚士か……う〜ん」



 イケメン剣士がリンの職業を聞いて困った顔をしていた。

 リンが不思議に思い、イケメン剣士に聞き返そうとすると、周りの野次馬が答えを喋りだした。



「うわ、あいつ召喚士なのかよ。終わってんな」


「召喚士って、一番のハズレ職だろ? よく選べるな」


「ブッチギリのクソ職業のだろ? いくらレアクエストといえど、お荷物がいたんじゃ成功率も低いな」


「召喚士にレアクエストなんて、豚に真珠だわ……もったいない」


「友達の職業はガンナー? 聞いたことない職業だな?」


「そっちはレア職業か? 最悪レアクエストは諦めて、そっちの友達だけでもパーティーに誘いたいな……召喚士はいらないからなあ」


「召喚士なんてペット召喚しか出来なくて、なんの役にも立たないからな。なんであんな職業が存在するんだか……」


「召喚士をやる奴、初めて見たぜ。アイツ頭、大丈夫か? 普通、選ばないだろうアレは?」


「召喚士って、普通どんな馬鹿でも選ばないぜ?」



 召喚士と分かった途端、周りのプレイヤーから召喚士を否定する声が次々と上がり、それを選んだリンを非難する声まで上がりだした。



「まあ初心者なら分からなくても仕方ない。キャラをデリートすれば良いんだし、そのレアクエストは売った方が得策だろう。ウチが高値で買い取るよ」


「レアクエストを売るなら、ぜひウチに売ってくれ」


「無謀にレアクエストに挑んで無駄にするような馬鹿なことしないで、レアクエストを売ってキャラを消すのが正解よ」



 召喚士ではレアクエストをクリアーできない。キャラをリセットするなら自分たちに売ってくれと、声を大にする野次馬たち……。


 リンに追い討ちを掛けるが如く、目の前のイケメン剣士は言い放つ。



「すまない。召喚士ではレアクエストをクリアーできない可能性がある。六人パーティー中、ひとりが初心者でもギリギリなのに、職業が召喚士ではクエスト達成は絶望的だ。すまないけどパーティーを組むのは難しい。なので、レアクエストを売ってくれるとありがたい」



 さっきまで、パーティーに入れてくれと言っていた人達も、リンが召喚士とわかった途端、役に立たないお荷物と否定する。それを選んだリンも無能と罵り、馬鹿にした声を浴びせてくる。


 せっかく死んだ愛犬コタロウと再会したリン……できればキャラを消すなんてしたくはなかった。だが周りのプレイヤーたちは、召喚士と言うだけでリンを否定する。


 急に心細くなり、泣き出しそうになるリンは心の中で叫ぶ。



(はーちゃん! コタロウ!)



 心の中で二人に助けを求めた時だった。リンの足元に魔法陣が突如浮かび上がり、輝きがギルドの中を満たしていく。

 

 まぶしい光が爆発し、ギルドにいた全員が目を思わず閉じていた。


 そして光が収まり、全員が目を開けたとき、リンを守るかの如く二人の騎士(ナイト)が並び立っていた。



「私のリンを泣かしたな!」


「グゥゥゥゥゥ、ワン!」



 リンの前に二丁拳銃を構えたガンナーハルカと、鋼鉄ボディーの愛犬コタロウが立ちはだかった!



 …… To be continued 『ある日、あるギルドの片隅で』

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