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第38話 リンと獣を超え、人を超え、神をも超える者 前編

表紙絵ver.2


   挿絵(By みてみん)

 ディスプレイに浮かび上がった虹色に輝く二つの文字……リンは躊躇(ためら)うことなく、目の前に浮かぶ文字に手を伸ばし――



「コタロウ! クマ吉!」


 

――二匹の召喚獣の名を叫びながら、【合体】の文字を力強くタップした。




「ワオーン!」


「クマー!」



 召喚獣たちの吠え声が洞窟の広間に響き渡り、二匹の姿が変わっていく。


 クマ吉のズングリとした体の中心から装甲がパックリと左右に開き、上半身に何かを収める空間が空く。

 短かった手足も変形し、人の手足に似たフォルムへ変形する。

 背筋を真っすぐにしながら立ち上がる姿は、紅に染まる騎士鎧のような出立ちをしていた。


 それに続けとばかりにコタロウもまた、体の各部を変形させながら立ち上がる。



「ちょっ!」



 急に足場が動き、コタロウの丸い尻尾に手を置き立っていたハルカは、バランスを崩して振り落とされそうになる。



「はーちゃん!」


「リン!」



 重力に逆らえず地面に落ちようとするハルカ、それに気づいたリンは身を乗り出し、親友に手を伸ばすが届かない。


 するとそれを手助けするかのように、コタロウの尻尾がシールドに変形し、ハルカを受け止めながらコタロウの背にスッポリと覆いかぶさった。


 胴体の長さに反し、手足を収縮させアンバランスな人型へと変形していくコタロウは、クマ吉だったものへ跳び上がり、パックリと開いたクマ吉の中へとガッチガチなボディーを滑り込ませる。


 まるで最初からそう作り出されていたかのように、ピッタリとクマ吉の中にコタロウは収まり、左右に開いていた赤い装甲が閉じていく。


 犬の頭に人の体、それはまるで古代エジプトの壁画に描かれた冥府の神アヌビスを彷彿とさせる姿をしていた。


 すると口に当たる部分が上下に大きく開き、中から人に似たロボットの顔がせり出すと、真紅の鎧を着た人型のロボットが洞窟の広間に現われた。



「いたたた……」


「はーちゃん、大丈夫?」


「頭を軽くぶつけたくらいだからなんとか、リンは?」


「私はなんともないよ」


「そう、良かった」



 テイルシールドにより密閉されたコックピット内に放り込まれたハルカは、リンに受け止められていた。


 その衝撃は決して軽いものではなかったはずだが、彼女は何事もなかったかのように自分の無事を伝え、互いに安否を確認し合っていると――



【コアユニット・コタロウとアームドフレーム・クマ吉の合体……完了】


【全バイパスの接続……完了】


【神気コンバーターへの神気充填を開始…… 充填(チャージ)率1%】



――暗いコックピット内に備え付けられたディスプレイ画面に、システムメッセージが表示される。



「が、合体? コタロウとクマ吉が⁈」


「あ〜、ん〜、なるほど、今度はそうきたか〜……うん! もう深く考えるのはやめよう。考えるだけ無駄だから」



 驚くリンとは対照的に、ハルカは何かを悟ったように力なく頭を垂れると考えることを放棄する。

 もはや二匹の突拍子のない行動に慣らされたハルカは、何が起ころうと受け入れてしまうほど感覚はマヒしていた。



「リン、神気とやらをコンバーターに充填しているみたいだから、操縦桿から手を離さないでね。にしても暗いわね」


「うん、わかった。でも外の様子は見えないし……いったいどうなったのかな? あっ!」



 するとリンの願いに応えるように、コックピット内の壁が明るく光り、外の景色が三百六十度、全方位に映し出される。



「外の景色が見えた」


「全天周ディスプレイって、昔見たロボットアニメのコックピットみたいねって⁈ ブレスがくる!」


「GぅgYaaaぁaa」



 両目を潰され、目の見えないカオスドラゴンゾンビ(混沌の死竜)は、狙いも定めず目の前に向かって、広範囲に腐食ブレスを吐き出していた。



「コタロウ、逃げて!」



 だがリンの叫びはコタロウには届かず、ブレスがモニター画面を紫色に染め上げていく。すると――



「ぬおぉぉ! な、なんだこのシャワーの温度を間違えて、熱湯を浴びせかけられたような熱さと痛みは⁈」



――渋い男の声が、閉じられたコックピット内に響き渡った。



「熱湯って、リン……コタロウに浴びせたことあるの?」


「あ……うん。昔一緒にお風呂へ入った時に、水をかけてビックリさせようとしたら……高温のお湯だったの」


「いやリン、浴びせる前に温度は確認しようね」


「いまの瞬間湯沸かし器は、一秒も待たずに六十度にまで温度が上がるから、あはは……それよりコタロウ大丈夫?」



 暴露された恥ずかしい失敗談を誤魔化すように、リンは愛犬に声を掛ける。



「む、この声はご主人様とハルカか? なぜ頭の中に二人の声が? 視界は紫色に染まり体が動かない上、熱い風呂に入れさせられているような……熱い湯は好きだから我慢できない熱さではないが、一体どうなっているんだ⁈」



 腐食ブレスによるダメージで覚醒したが、イマイチ状況が飲み込めないコタロウは戸惑っていた。



「コタロウ覚えてないの? いま私たちコタロウとクマ吉の中にいるんだよ」


「我とクマ吉の? う〜む、どうにも状況が飲み込めん。カオスドラゴンに胸を貫かれ、敗れたとこまでの記憶はあるのだが……」


「え? 私と一緒に戦った記憶がないの?」


「なに? ご主人様と?」


「うん。神獣召喚で復活したコタロウに私が乗って、一緒に戦ったんだけど……」


「ご主人様よ、すまない。記憶にない」


「ううん。大丈夫だよ」



 謝るコタロウを心配させまいとリンは答える。



「で……そのあと倒したカオスドラゴンがゾンビ化して、いま戦っている最中なのよ」



 ハルカはリンに後ろから抱きつきながら、続きの状況を口にする。



「や〜、はーちゃん離れて〜」


「ダメ、さっき聖域(ゾーン)に入ったせいでリン成分が不足しているの。チャージさせて」



 リンは身をよじりハルカから逃れようとするが、狭いコックピットシートの上では、それは叶わなかった。


「もう……少しだけだからね」



 たまに意味不明なことを口走る親友にリンは諦めの表情を浮かべ、なすがままになる。


 

「相変わらず仲がいいな。それにしてもゾンビ化? また厄介な状況だ。命なき者を倒すのは骨だというのに……」


「再生という、ただでさえ厄介な能力に、コタロウ達の装甲も腐食させる攻撃までしてくるもんだから、苦戦しているのよ」


「するとこの紫色に染まった視界と熱さは?」



 その言葉に答えるように、洞窟の中に一陣の強い風が吹き抜け、紫色に染まっていた視界がサッとクリアーになり――



「クマ吉と合体したアンタが、腐食のブレスをモロに浴びて溶かされているとこよ」



――目の前に、両目を失ったカオスドラゴンゾンビの姿があらわになった。



「つまり、この体に感じるヒリつくような熱さは……ぬぉぉ、マズイではないか⁈」



 大好きな熱い風呂に浸かっているような懐かしさを感じていたコタロウは、自分の体が腐食し危険な状況にその身を置いていることにようやく気付いた。

 

 まさに天国から地獄! コタロウは声を張り上げながら、その場から逃げようとするが……。



「クッ、か、体が動かんぞぉぉぉぉ!」



 合体した体は、直立不動のままピクリともしない。


 すると両目の光を失ったカオスドラゴンゾンビは、おもむろに左腕を上げ……潰された左目をくり抜くと地面に投げ捨てた。


 『ドチャ!』と、潰された左目とハルカの愛銃であるデザートイーグルが地面に転がると、カオスドラゴンゾンビの左目は再生し、再び光を取り戻す。



「Guぅぅ……」


「時間稼ぎはもう終わり。このままじゃ間に合わないか……」



【神気コンバータへの充填率……20%…………30%】



「はーちゃん、なにが?」


「ん〜多分、リンの神気がこの神気コンバーターってやつに、チャージされないとコタロウは動けないみたいなのよね」


「なに? ハルカ、それはいつ終わる⁈」


「このチャージスピードからして、あと二分ってとこかな。アイツがコッチを警戒して様子見をしてくれれば、時間は稼げると思うけど……」

 

「GウgYああぁぁぁ!」


 リンに抱きつき、肩越しにカオスドラゴンゾンビを見ていたハルカの目に、吠え声を上げ再び腐食のブレスを吐き出さんと、息を大きく吸い込む姿が見えた。



「やっぱり、そうなるわよね。……コタロウ、あんた熱いお風呂が好きなんでしょ? チャージが終わるまで、気合いでブレスに耐えられない?」


「無茶をいうな! いくら私が熱い風呂好きと言っても、そう何度もアレには耐えられんぞ」


 体に感じる熱さと痛みから、ダメージ量を予想したコタロウは、次にブレスを受ければタダでは済まないことを二人に告げる。

 それは騎士として、長い戦いの中で身につけた直感からくるものだった。



「ど、どうすれば……」



 声に焦りの色が混じるコタロウ、それに気付いたリンは、どうにか動かせないかとコックピットに備わった操縦桿を動かすが、コタロウの体はなんの反応も示さない。



【充填率……40%…………50%】



 ハルカはディスプレイに表示されたコンバート率をチラ見する。ブレスのチャージ終了までの残り時間四十秒――



「何か手は……チャージを早く終わらす方法はない? 私にも神気とかいうのを持っているなら、それをチャージに充てるとか、もしくはリンのチャージするバイパスをもう一本増やしてチャージ量を倍にするとか……」



――どう考えてもコンバーが終了するよりも、ブレスチャージの方が早い。もはや万策の尽きたハルカは、諦めの言葉を吐いてしまう。しかし……。



「何か、何かあるはずだよ」



 リンは諦めない。いや、諦めるワケにはいかなかった。


 コタロウが死んだとき、リンは泣いて泣いて泣きまくり、心にポッカリと大きな穴が空いてしまった。


 寂しさと悲しみに胸が締め付けられる苦しみ……生まれて十六年しか生きていないリンにとって、はじめて感じた死の悲しみ。


 数か月掛けて、徐々に苦しみから解放はされたが、心に空いた穴はいつまでも埋まらない。


 そんな折、なぜかゲームの中で蘇ったコタロウ……外観はかなり変わったが、中身は昔と変わらぬ愛犬を見て、心にポッカリと空いた穴は再び埋められた。


 そして訪れたのは、親友ハルカとクマ吉を交えたゲームの日々……はじめて、まだ一か月も経っていないのに、それはリンにとってかけがいのないものに変わっていた。


 楽しい日々がずっと続いて欲しいと願うリンに、見えない悪意が嘲笑う。


 執拗に何度もリンたちを襲う悪意に、さすがのリンも気づいた。


 何者かが、自分たちの仲を引き裂こうとしていることを……、その悪意を明確に感じたとき、リンの中で怒りが湧き上がる。



「絶対に諦めてなんかやるもんか!」



 理不尽な悪意に抗うかのように、リンは感情を爆発させながら叫んだとき――



【コアユニット・コタロウ()ての記憶データを受信。開封しますか? YES / NO】



――ディスプレイに、おかしなシステムメッセージが表示される。



「な、なに? コタロウ宛ての記憶データ? こんな時に⁈」


「私にか?……ご主人様、開けてくれないか」


「うん」



 リンの指がYESに触れると、記憶データがコタロウの脳内で再生される。



「コタロウ、誰の記憶データなの?」


「……」



 リンの問いに、いつもならすぐに答えてくれるコタロウなのだが返事はない。


【充填率……60%…………70%】



 時間だけが静かに過ぎていく中、充填率がついに半分に達するが、狂える死竜はすでに限界近くにまで息を吸い終えていた。



「ブレスがくる。コタロウ! リンを守るナイトなら耐えて見せなさい!」


「コタロウ!」


 もはや万策尽きたリンとハルカは、ただコタロウの無事を願うしかなかった。


 そしてカオスドラゴンゾンビはゆっくり天に顔を向け、鎌首をもたれていく中、リン達のいるコックピット内に渋い声がスピーカーから流れた。



「そうか、そういうことだったのか。コタロウ……お前の思いは、たしかに受け取ったぞ。たとえ魂がなくなろうと、その志は私が受け継ごう。神よ、キサマの好きにはさせん! ハルカ、お前の力を貸してもらうぞ」




【コアユニット・コタロウからのデータ送信を確認……受信完了】



「コタロウ?」


「私の力って?」



【受信データより、ツインドライブシステムの構築を開始……完了】



「やるぞ!」



【アームドフレーム・クマ吉とアニマドライブHの接続を開始……】



 リンとハルカの返事を待たずに、全天周モニターに次々とシステムメッセージが表示されていく。



「なにがって……うっあぁぁぁ⁈」


「はーちゃん!」


「何これ、私の中に何かが入って……え⁈」


【アニマドライブHの接続……完了】



 親友に抱きついていたハルカが、苦しみに似た声を出しながら、リンを強く抱きしめる。


 いままで見たことがないハルカの声と表情……それを見たリンは親友を心配する。



「ちょっと……まっ、 なにこれ……なんでこんなに……き、きもち……い……」


【アニマドライブHからの神気供給を開始……】


 顔を赤く上気させ、荒い息をハルカは吐く。



「え、えと……はーちゃん……」



 涙目のハルカの表情を見て、思わず『ドキリ』とするリン……なぜか自分の顔も『カー』と赤くなっていく。



【アニマドライブRとの同調……開始】



「リ、リン……」


「はーちゃん……」



 二人の気分がドンドンおかしくなる。



【各アニマドライブとの同調……完了】



 互いに潤んだ瞳を見つめ合い、熱い吐息が聞こえるくらいにまで、顔が近づいていく。唇が触れ合いそうになる……その時、ついにカオスドラゴンゾンビの口から、腐食のブレスが吐き出された。



 先ほどのブレスは、広範囲に撃つため拡散し威力が弱まってしまっていた。しかし今度のは、範囲を絞った威力重視のブレス……動かないコタロウを見てカオスドラゴンゾンビは勝利を確信する。



【ツインドライブ・フルコンタクト……点火(イグニッション)!】



 その時、怒り・悲しみ・諦め・驚き・嫌悪・恐怖・喜び、さまざまな感情がコタロウの中で爆発した。



「神よ、見るがいい! これこそ、貴様が弱きモノと侮った者の力だ!」


「コタロウ! はーちゃん!」


「リン!」



【ツインドライブ正常稼働、コンバーターへの神気充填率……100%】


【神気から神火へのコンバートを開始】



 二人と一匹が同時に叫び、すべての意識が混ぜこぜに溶け合うと――



「ウォォォォォ!」



――世界に新たなる神の咆哮が響き渡った。



【警告、ツインドライブによる過剰な神気生成により、機体破損の可能性あり……生成した神火を機体外部へ強制排出】



 コタロウの新たなる体に設けられた吸排熱口から、生成された神火が勢いよく噴き出し、体を覆っていく。

 それと同時に、カオスドラゴンゾンビの放った腐食ブレスがコタロウに直撃した。


 コタロウのガッチガチな無敵ボディーすら腐食させる必殺のブレス、だがそれがコタロウに届くことはなかった。


 それはコタロウの体を覆い尽くす炎が、腐食のブレスをすべて燃やし尽くし、瞬時に蒸発させてしまっていたからだった。



「……」



 ブレスを吐き終わえた狂える死竜は、体を『ガタガタ』と震わせ声を失っていた。


 それはブレスが防がれたことに対する震えなどではなく……本能の恐れからくる震えだった。


 虹色に染まるリンの瞳を見た時、いや……それ以上の力を感じ取ったがゆえの震えであり、死したドラゴンゾンビすら恐怖する存在がそこに立っていた。


 絶えず噴き出す炎が体を覆い、まるで赤いマントのように全身を包み込む。

 騎士の鎧兜を被ったような、スラリとした八頭身のロボットが、カオスドラゴンを睨みつけていた。



「もう一匹の私よ、お前の忠義……見事なり! 私はここに誓おう。お前の分までも、必ずご主人様を守ってみせると! もう二度と誰にも負けないと! だから、いまは安らかに……いや、我らは今こそひとつとなりて、真なるコタロウとなろう!」



 コタロウは体に覆うマントを払い、背中に背負う巨大な剣をスラリと引き抜くと、切先をカオスドラゴンゾンビへと向けた。



「我らがご主人様に仇なすものよ。今までの狼藉の数々……許しがたし。我らが怒りの炎で断罪してくれる。覚悟するがいい!」



 大剣が紅蓮の炎に包まれ、それはコタロウの怒りを体現したかのように、熱く激しく燃え上がる。


 いま、獣を超え、機械(メカ)を超え、神も超えし者……(ちょう)(じゅう)()(しん)コタロウが降臨する。



……To be continued『リンと獣を超え、機械を超え、神をも超える者 中編』

お読みいただき、ありがとうございました。


もしよろしければ、簡単にこの展開はイイ、ダメの一言でもいいので、教えて頂けたら幸いです。


この作品は月に1話ペースで投稿しており、次回更新は1月を予定しています。


最後までお付き合い頂けたら幸いです。


少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、

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