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第25話 リンとハルカのカオスドラゴン攻略戦 挿絵あり


「……という感じでいくわよ」



 銃を片手に、ポニーテイルの少女はウィンクすると――



「はーちゃん待って、アレはダメ!」



――にこやかに笑う少女とは対照的に、小柄な黒髪の少女は普段とは違う真剣な眼差しで親友を止めていた。



「いや、リン、そんなに深く潜らないから大丈夫よ」


「絶対にダメ! なにが起こるかわからない。もし使ったら、いくらはーちゃんでも本気で怒るからね!」


「リン、だけど確実にアレを倒すなら……」


「……」



 無言で親友に訴えるリン……長年、親友のポジションにいるハルカは、その目が真剣に自分を心配してなのだと知っていた。


 この目をしたリンは、何があろうとやり通す。自分ではない……他人の為に、真剣に怒れる親友の言葉にハルカは――



「わかったわ。あの状態(モード)にはならない。約束」



――仕方なしと、右手の小指をリンの前に差し出す。



「……約束だよ」



 リンもまた、小指を差し出し、指切りで約束を交わす。リンとハルカ……二人だけの秘密の約束。



「ん〜、とすると、作戦を変えないとならないわね。アレが使えないとなると、あの弱点っポイ場所を正確に撃ち抜けるか微妙なとこね」



 チラリと切り裂かれた左目の痛みに、苦しみの声を上げながら、ハルカ達を警戒し、様子をうかがうカオスドラゴンの首元をハルカは遠目で見る。



「スキル【チェインアタック】で、うまく撃ち抜ければいいけど……」



 ハルカはアゴに手を置き考える。



「はーちゃん、【チェインアタック】って?」


「新しいスキルよ。さっき覚えたヤツ。銃の攻撃を連続で当て続けると、攻撃力が上がるスキルなの。ただ発動中に攻撃が外れると、スキルはリセットされちゃう……ん〜、やっぱり最初に話した作戦でいきましょう。リンがちょっと危ないけど、これしかないわ」


「うん。それなら大丈夫。私、がんばるよ!」



 真剣な眼差しはどこへやら、『ニパッ』と笑顔で拳を握り、リンはやる気をアピールする。



「ふむ。ご主人、安心されよ。あやつのタゲは絶対に維持して見せる」


「くま〜」



 鋼鉄の鎧をまとった騎士、コタロウはご主人に誓いを立て、真っ赤な鋼鉄のクマ、クマ吉はお腹を叩いて『任せて〜』と答えていた。



「それじゃあ、みんな手はず通りにお願いね」


「任されよ」


「くっま〜」


「うん。みんな、がんばろうね。えい、えい、おー!」


「「おー!」


「クマー!」



 握った右拳を上に突き上げ、やる気マンマンの少女に合わせ、皆が天に向かって拳を突き出す。



「よし、じゃあ、やるわよ。コタロウ!」


「任されよ」



 ハルカの声と共に、事前に策を聞いていた騎士は、すでに走り出していた。



「コタロウ〜、頑張ってね♪」


「ご主人の願い、必ず叶えてみせる。さあ、狂える竜よ、全力で挑まねば我は倒せんぞ! 掛かってこい!」



 コタロウは左目を潰され、痛みで悶える混沌の竜(カオスドラゴン)の注意を引くため、騎士剣を地面に擦りつけながら疾走していた。


 初心者の洞窟の硬い地面と鋼鉄の騎士剣は、摩擦で派手な火花を散らす。線香花火のような淡い火花が咲き乱れ、殺風景な洞窟の中を華やかに彩る。


 コタロウの声と不快な金属音に反応したカオスドラゴンは、健在な右目で睨みつける。その目は怒りに満ち溢れていた。



「グォーン!」



 コタロウの姿を捉えるや否や、激情に駆られたドラゴンが動き出す。三メートルを超える巨体にもかかわらず、現実(リアル)世界(ワールド)の物理法則ではありえない加速と動きで、コタロウに襲い掛かる。



「いくら動きが速かろうと、所詮はトカゲだ!」



 口をいっぱいに開き、矮小な物を噛み砕こうとするドラゴンの口撃を、コタロウはタイミングを測り跳躍して避ける。

 それは洗練された騎士の動きであり、長い修練の果てに身につけた熟練の体捌きであった。



「喰らえ!」


 ドラゴンの顔を横にすり抜けたコタロウは、手にする鋼鉄の剣をすれ違いざま、右目へ走らせる。



「むう⁈」



 右目に剣線が走り、瞳は切り裂かれ血が吹き出す。しかしそんなことはお構いなしに、カオスドラゴンは首を横に振り、自らの頭をコタロウへ叩きつけた。


 洞窟の壁へ叩きつけられコタロウは、地面に倒れ伏してしまう。


 カオスドラゴンは、コタロウに右目を切り裂かれ、一瞬視界がブラックアウトする。だが、すぐに右目の傷跡がブクブクと泡立ち再生してしまう。



「グォー!」



 取り戻した視界に、倒れ伏しピクリとも動かないコタロウの姿を捉え、勝利の雄叫びを上げる混沌の竜――



「覚えておきなさい。勝利を確信した時こそ、最大の油断を生むってことを!」



――右手から響く少女の声に、カオスドラゴンは体の向きを変え、瞬時に反応する。右目は、いつの間にか近づいていたハルカを捉える。だがドラゴンの目に映ったのは、両手に構えた二丁のデザートイーグル(愛銃)引き金(トリガー)を引く寸前の姿だった。



【チェイントリガー発動】



 銃口から火薬の燃焼によりマズルフラッシュが瞬き、.50AE(マグナム)弾が、音速のスピードで打ち出され、轟音が鳴り響く。

 音は一発だけでなく、両手に持った二丁の銃から矢継ぎ早に鳴り響いた。


 史上最大の大きさである弾丸を、音速で撃ち出すために作られたデザートイーグル(砂漠の鷲)


 ハンドガンの中で、最強の破壊力を誇ると同時に、弾丸を撃ち出しために内包する火薬の量も尋常ではない。爆発による銃の反動も強く、本来ならば両手で撃つことすら難しい銃をハルカは片手で連射する。


 STR()を上げた恩恵が、現実(リアル)ではあり得ない光景を映し出していた。



 強大な力を秘めた弾丸は、カオスドラゴンの首元に……リンがもたらした弱点へと撃ち込まれる。一発目が弱点付近に着弾し、リアクティブアーマーの特性を持つウロコが爆発して攻撃を無効化してしまう。


 しかし次々と撃ちだされた弾丸は、ウロコを失い、顔を覗かせた肌へと飛び込み――鮮血が飛んだ!


 次々と撃ち込まれた弾丸は、カオスドラゴンの肉をエグり、()れた弾は周囲のウロコに当たり、爆発することで穴をさらに広げていく。



「グオォォォォ!」



 しかし、それがどうしたと言わんばかりに、カオスドラゴンは声を上げ吼える。たとえ傷を負ったとしても、再生能力ですぐに元通りだと……無駄だと、馬鹿にしたような視線を投げかけた時だった。


 カオスドラゴンの目に、先ほどとは違うハルカの姿が映り込む。それは左手の銃を投げ捨て、右手に持つ銃を両手でしっかりと構える姿だった。



「これだけ近づけば!」



 片目をつぶり、銃口の上についた凸型のフロントサイト(照星)と、銃身の後部にある凹型のリアサイト(照門)で少女は狙いを定める。獲物を狙う鷹のように鋭く細めた目とサイト、そしてカオスドラゴンの胸に空いた穴が一直線に重なった時、ハルカの目に一筋の射線が浮かび上がる。



【スキル精密射撃】



「これでラスト!」



 トリガーを引いた瞬間、銃口から今までとは違う赤い弾丸が吐き出され、カオスドラゴンの首元へ赤い軌跡を残して飛んでいく。


 浮かび上がった射線を、赤い……火属性を付与された弾丸が寸分の狂いなく追跡(トレース)し、首元に開けられた傷口へ吸い込まれるように着弾した。次の瞬間――



「ギュァァァァァー!」



――内包された衝撃と炎により、カオスドラゴンの肉は深くエグれ燃え盛った。


 顔を吹き飛ばしても、すぐに再生するカオスドラゴンは不意に襲った痛みと熱さから、悲鳴にも近い声を上げる。



「よし! 思った通り」



 ハルカはクマ吉のファイヤーボールで焼かれた左目と、リアクティブアーマーに撃ち込んだ火の属性弾で開けた傷口を見て、火属性の攻撃は再生できないんじゃないかと予想していた。


 長年ゲームをやり込み続けた経験則は、見事に的中し、カオスドラゴンに再生できない傷をつける。



「グオォォ!」



 火の属性弾が肉を焼き、傷口を燃え上がらせる。生きたまま体を焼かれる痛みに、カオスドラゴンは苦しむ。

 だが、すぐに痛みよりも自分を傷付けた者への怒りが勝り、目の前にいるハルカへと襲い掛かろうとする。



「そのくらいの傷で怯むわけないわよね。さあ、ここからが正念場よ、コタロウ!」


「任せろ! ワオーン!」



 ハルカの声に呼応するかのように、ピクリともしなかったコタロウが『ガバッ』と立ち上がり、ドラゴンに向かって吠えた!



「グウ!」



 吠え声がヘイト(敵視)を稼ぎ、ターゲットをハルカから無理やりコタロウへと移す。だが……カオスドラゴンの怒りと視線はハルカに向けられ、ゲームシステムに縛られた身体は、ヘイトの一番高いコタロウの元へ向かおうとする。


 ふたつの目標に混沌の竜は揺れ動き、意識はコタロウとハルカに向けられ、周りが見えなくなる。すると……。



「いいの? 私たちに構っていて?」


「我ら二人でお前と戦っているわけではないぞ?」


「グォ⁈」



 突然の言葉に一瞬、カオスドラゴンの動きが止まった瞬間――



「クマー!」



――左目の死角から聞こえる可愛らしい声に、狂える竜は『ギョッ!』としながら振り向く。


 するとそこには、いつの間にか音もなく近づいたクマ吉が、炎をまとった右腕で今まさに殴り掛かろうとしていた。



「グギャァァァァァ!」



 腰の入った強烈な右ストレートが、ハルカの開けた傷口へと叩き込まれ、クマ吉の赤い鋼鉄の腕が体の中へと沈みこむ。


 『ジュッ』と肉が焼ける音と臭いが放たれ、再生できない攻撃の痛みから逃がれるため、カオスドラゴンは腰を落とし、一気に後ろへ飛ぼうとする。



「クッマー!」


 しかし、逃がさんとばかりにクマ吉は、空いた左腕をさらに抜き手で突き刺し踏ん張る。



「グオ?」



 後ろに飛ぼうとしたタイミングで踏ん張られ、後退に失敗したカオスドラゴン……すかさずクマ吉は、二の腕辺りまで突き入れた両腕に力を込める。


 『ミチッ』という肉を引き裂く音が鳴ったと思った瞬間、傷口が観音開きのように勢いよく左右へ開き、鮮血が飛んだ。



「グギャァァァァァァァァァ!」



 あまりの痛みに、狂ったように悲鳴をあげるカオスドラゴン、苦し紛れに左腕を振るう。


 だがクマ吉は、襲いくる腕を身体全体でガッチリと受け止めると四肢に力を入れ、その場にカオスドラゴンを釘付けにする。


 暴れて逃げようとするドラゴン、しかしクマ吉の全身全霊を掛けたベアーハッグはそれを許さない。ガッチリと地面に根を張ったかのように微動だにしないクマ吉、暴れるごとに首元に開けられた傷口が開いていく。


 やがて傷口の中から……巨大な黒い物体が現れた。


 硬質な殻に覆われた30センチ大の真っ黒な結晶体(コア)のような物を、遠目でハルカは確認する。



「いかにも弱点ッポイわね。よし、リン出番よ!」


「任せて!」



 少女の声が……クマ吉の背中から聞こえてきた。


 それと同時に小柄な少女がしがみ付いていた鋼鉄の背から立ち上がる。それは死角となるカオスドラゴンの左目から接近し、コタロウとハルカ、そしてクマ吉すら囮に使い、最後のトドメをリンに討たせる策だった。


 ハルカの策は労を奏し、足の遅いリンをカオスドラゴンに気付かれることなく、足元にまで送り届けることに成功した。あとは……。



「クマ吉、ゴメンね」


「くま〜♪」



 リンは背から肩、首から頭へとクマ吉の体を駆け上がる。最後にクマ吉の頭を踏み台にしてカオスドラゴンへと跳んだ。


 初心者の短剣を両手に持ち振りかぶった少女の狙いは、弱点であるであろう黒い結晶体……硬質な輝きを放つ結晶体にリンは狙いを定める。



「いくよー! グサッ!」



 挿絵(By みてみん)



 力いっぱい短剣を振り下ろし、必殺のクリティカル攻撃『グサッ!』を繰り出していた。


 リンの短剣は、硬質な結晶体に安易に突き立てられ、剣の根本まで埋まってしまう。



「グオォォ!」


「あわわわわ!」



 リンのLUK(幸運)極振りによる攻撃は、防御力を無視するクリティカルヒットとして、カオスドラゴンにダメージを与える。


 痛みから逃れるため、身体を大きく仰け反らす狂える竜、その動きに合わせ、小柄な少女の体も大きく揺れる。しかしリンは短剣をしっかりと握り締め、決して離さない。



「絶対に離さないからね!」



 振り落とそうとしても落ちないリンを見て、カオスドラゴンは空いている右腕を、蚊を潰すかの如く振り下ろす。



「させると思うなよ」



 しかし、いつの間にか走り寄っていたコタロウによって阻まれる。ウロコを傷付けてリアクティブアーマーが反応しないよう、騎士は剣の側面を盾代わりに受け止めていた。



「コタロウ!」


「安心されよ。我らがいる限り、ご主人には指一本触れさせん」


「クマー!」



 左腕をクマ吉に抑えられ、その場に縫いとめられる狂える竜……痛みの元凶であるリンに右腕を振るうが、すべての攻撃をコタロウに受け止められてしまう。


 カオスドラゴンは、痛みから逃げ出そうと必死に暴れまくる。しかし無情にも、突き立てた短剣を中心に結晶体はどんどんヒビ割れ、頭上に表示されたHPバーは、凄まじい勢いで減っていく。


 このままいけば、HPが0になるのは時間の問題と思われた時、逃げられないと悟った狂える竜は、息を大きく吸い込もうとする。



「まずい、ブレスがくる! リン、短剣をシュッと捻って、シュッ!とよ」


「え? こ、こうかな⁈ シュ!」



 ハルカのアドバイスに、短剣を力一杯『シュッ!』と捻るリン……すると結晶体に、一際大きなヒビが入りHPバーに表示された残りHPは、ガクッと減る。



 苦しみの表情をカオスドラゴンは上げるが、息を吸い込む動作は止まらない。



「リン、もっと捻って! 短剣の柄に手を押し当てて、グイグイ押し込みながらシュ!」



「え〜と、グイグイ押し込みながらシュ!」



 渾身の力を込めて短剣の押し込み捻るリン……黒い結晶体のヒビ割れが全体に走ったと思った瞬間、結晶体が内部から破裂するように砕け散った。




「グオォォォォォ……」



 天に向かって苦しみの断末魔の声を上げるカオスドラゴン……次の瞬間、真っ赤だったHPバーが灰色になり、その巨体が『ズシーン!』と大きな音を立て倒れ込んでいく。


「きゃっ!」


「あっ、リン!」


「クマー!」


 短剣を結晶に深く刺し、両手でぶら下っていたリンは、結晶体が弾けた際に生じた衝撃に吹き飛ばされ、地面へと落下していく。


 目をつぶり落下に備えるリン……だが、いつまで経ってもやってこない衝撃を不思議に思い、閉じた目を開けるとそこには――



「大事はないか、ご主人よ」



――騎士コタロウの顔があった。


 落下するご主人様を空中で受け止めたコタロウは、リン抱き着地していたのだ。



「コ、コタロウ……」


「うむ。ケガはなさそうだな。無事でなにより」



 そっとご主人様を下ろすコタロウは微笑む。女の子なら誰しも一度は夢見るイベント……ヘタしたら、コロッと惚れてしまいそうなシチュエーションだったが、ロボット相手では台無しだった。



「助けてくれたんだね。ありがとうコタロウ♪」


「ご主人を守るは騎士の役目、気になさるな。む!」



 いつの間にかリンは、当たり前のようにコタロウの頭を撫でていた。



「あ? ごめん、つい前の癖で……コタロウ嫌だった?」



 リンは、生前のコタロウを誉めるとき、よくしていた頭撫でを無意識にしてしまう。



「フッ……ご主人がそう望むのなら、甘んじて受けるのも騎士の務め、気の済むまで撫でるといい」



 などと言いつつも、成すがままに頭を撫でられ嬉しそうな騎士……やはり犬だった!



……To be continued『リンと可愛い戦利品』

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