第20話 リンとおかしな変形スキル
「いくよ、せ〜の!」
「くぅぅ、早く抜けて〜」
「くま〜」
初心者の洞窟で、召喚士リンとガンナーハルカそして召喚獣のクマ吉は、壁から生えている何かを掴み引き抜こうとしていた。
「くう〜ん」
壁の中から聞こえる悲しみの声の主……それはリンの召喚した愛犬コタロウの声に間違いなかった。
モンスターの群れを引き連れて爆走していたコタロウは、リンのお座りの命令を忠実に実行した結果……慣性の法則に逆らえず、頭からダンジョンの壁にメリ込んでしまったのだ。
上半身が完全に洞窟の岩壁に埋もれてしまい、下半身だけを壁からプラプラさせる、情けない姿を晒けだしていた。
「も……もう、ちょっとだよ〜」
「なんで、こんなガッチリとハマっちゃったのよ」
「くま〜!」
そんな壁に突き刺さった愛犬を引き抜こうと、皆が足を踏ん張り、まるで運動会の綱引きのように力を込めてコタロウの下半身を引っ張っていた。
「みんな、頑張って〜」
少しずつ壁から引き抜かれていくコタロウ……踏ん張る足が地面を滑る。何度も足の位置を戻し、リン達は愛犬を引っ張る。
コタロウを引っ張りはじめてから、かれこれ五分が経過し、もういい加減に抜けてと皆が思いはじめたとき――『スポッ!』とコタロウが壁から引き抜かれた。
「きゃっ!」
「わっ!」
「くまっ!」
「わう〜ん!」
突然のことに、バランスを崩したリンとハルカは仲良く尻餅を突く。痛覚レベルを最低にしているふたりのお尻に、軽い衝撃が走る。
「やった! 抜けたよ♪」
「ふ〜、召喚キャンセルして、ムダなMPを使わずに済んでよかったわ」
ハルカが素早く立ち上がると、尻餅を突いたままの少女に手を差し伸べる。リンは目の前に出された手を躊躇いもなく掴むと、『グイッ』と引っ張られて立ち上がった。
「ありがとうはーちゃん」
「どういたしまして。さて、コタロウも引っこ抜けたことだし、レベルアップのステータス振りをチャッチャッとやって、レアクエストに挑戦するわよ♪」
「だね、どんなクエストなのかな〜、コタロウとクマ吉も楽しみにして……えぇ⁈」
「どうしたのリンって!」
リンが二匹の召喚獣に話しかけようと、後ろを振り向くとそこには……
「いやいやいやいやいやいや! ないから! それはないから! なんでクマ吉がプロレス技のジャーマンスープレックを決めているのよ! コタロウはコタロウで、今度は地面に頭を埋めてるし! しかもなんで某探偵映画のズケギヨみたく、足だけピンと地面から生やしているの!」
「あっ、はーちゃん、前にお父さん達と一緒に見た昔の映画『犬神家の人たち』だね。あれ、すごかったね。畑に足だけ出して殺された姿が印象過ぎてストーリーが思い出せないけど……」
「まあ、あの足が、すべてを持っていっちゃったからね。まあ、そんな話はどうでもいいの。問題はコタロウよ。クマ吉、いつまでもフィニッシュホールド決めてないで、コタロウから離れなさい」
「くまくま〜」
『ごめんごめん』と、見事なアーチを描いていたクマ吉は、フィニッシュホールドを解き立ち上がる。
すると、そこには見事なまでにピンと伸ばされたコタロウの足が、天に向かってそびえ立っていた。
「今度は横じゃなくて縦だね。コタロウ、もう少し我慢してね」
「わう〜」
リンの声に『ご迷惑をお掛けします』と、コタロウが申し訳なさそうに鳴くと、リン達は再び地面に埋まってしまったコタロウの下半身を掴み、引っこ抜こうと力を込める。
「か、固い! はーちゃん、これ……前よりしっかり埋まっているみたいだよ」
「ぐぬぬ、これはもう召喚キャンセルした方がいいかも」
「くま〜!」
「あっ! でも少しずつ動いてる」
「よ~し、ならこのまま引き抜くわよ。いいわね?」
「うん!」
「くま!」
「せーの!」
ハルカの掛け声に合わせて、リンとクマ吉がコタロウを引っこ抜きに掛かる。
その姿はサツマイモ掘りで大物に出会い、みんなで引っこ抜こうと和気あいあいとする雰囲気に似ていた。……引き抜く対象がサツマイモではなく、ロボット犬なことを除けばであるが!
「なんかコレ、小学生の頃に行ったサツマイモ掘りみたいだね、はーちゃん」
「そうね、あの時もこんな大物をリンと二人で引っ張った記憶があるわ」
「あの時ってたしか……」
「二人でムリやり引っ張っていたら、大物のサツマイモが折れたわ」
「わう〜ん!」
ハルカの言葉にコタロウが真っぷたつになる姿を想像し、情けない声で体をガクブルしていた。
「コ、コタロウ! はーちゃんコレ大丈夫なの⁈」
「たぶん平気でしょう。コタロウの鋼鉄ボディーが折れるわけないから安心しなさい。てか、ほんとに固いわね。いい加減抜けなさい」
コタロウのガクブルが加わり、抜けるスピードがアップすると――『ズボッ!』とコタロウが地面から勢いよく引っこ抜かれた!
「抜けた〜!」
「クマ吉、手を離して!」
「クマ!」
同じを轍を踏まぬよう、ハルカがクマ吉に手を離すよう指示すると、投げっぱなしジャーマンスープレックスのようにコタロウの体が宙を舞った。
「コタロウ!」
「わう!」
壁に向かって投げ出された愛犬は、クルッと空中で体の向きを器用に変えると、岩壁に叩きつけられることなく『ズザザーッ!』と、地面に轍のような跡を残しつつ着地する。
「コタロウ、良かった〜」
「わん!」
無事に着地成功したコタロウは、素早くご主人様の足元に駆け寄り、リンは膝をつきじゃれついてくるコタロウのカッチカチな頭を撫でる。
「あっはっはっはっ、コタロウがんばったね。いい子、いい子♪」
「わん♪」
鋼鉄ボディーのせいで手触りは楽しめないが、愛犬とのスキンシップをリンは楽しむ。
「さて、コタロウも引っこ抜けたことだし、さっそくレアクエストをやりたいとこだけど……その前にレベルアップしているから、先にステータスポイントを振っちゃいましょう」
「うん。私はここまできたら、やっぱりLUKに振っちゃおうかな」
「わん」
「くま」
リンの発言に、二匹の召喚獣が首を縦に振り『そうそう』とLUK極振りに同意していた。
「まあリンの場合、防御はコタロウが、攻撃は私とクマ吉がいるから、問題ないわね。私はAGIに振っとこうかな〜♪」
名前 リン
職業 召喚士 LV10
HP 83/83
MP 55/105
STR 1
VIT 1 (+240)
AGI 1
DEX 1
INT 1
LUK 121 → 126
ステータスポイント残り0
所持スキル ペット召喚【犬】
機獣召喚 【ファイヤーベアー】
機獣変形 NEW
名前 ハルカ
職業 ガンナー LV10
HP 165/165
MP 25/30
STR 45(+10)
VIT 1
AGI 80 → 85
DEX 13(+15)
INT 1
LUK 1
ステータスポイント残り0
所持スキル 銃打
弾丸作成
精密射撃
チェインアタック NEW
「お! 新しいスキルを覚えているわね。どれどれ〜♪」
ハルカはステータスを振り終えると、新たなるスキルの詳細を表示すべく、スキル名をタップしていた。
【チェインアタック】
ガンナー専用パッシブスキル
銃弾が敵に連続でヒットする毎に、ダメージに+1%のポーナス発生
連続で当て続ければ最大200%まで上昇可能
攻撃を外した場合、ボーナスはすべてリセットされ、ゼロから再スタート
このスキルは連続で命中する限り、同じ敵に当て続けなくても効果は継続する
「ふむふむ、パッシブってことは、とくに意識しなくても常に効果を発揮するスキルね。銃弾が命中し続ければ攻撃力がアップか……攻撃力二倍は魅力的だけど、弾丸百発消費はな〜。弾の調達をなんとかしないと気軽に使えないわね」
「はーちゃん! 私も新しいスキル覚えたよ♪」
「おお、リンはどんなスキルを覚えたの?」
「え〜と〜、【機獣変形】だって」
「機獣ってことはクマ吉に使えるのかな? リン、スキルの説明を見せて」
するとハルカはリンの隣に立ち並び、肩越しにステータス画面を覗き込む。
【機獣変形】
自らが召喚した機獣に使用することで、機獣の形態が変更される。
変形により特性が大きく変わる
変形を使用した際のMP消費はなし
変形は機獣のメニュー画面から選択が可能
機獣は自らの意思で変形を選択できる
「ん〜、機獣に使えるスキル?」
「コタロウはペット召喚だけど、機械の獣だし使えそうね。人型に任意に変形できるのかも? ちょっと試してみましょう」
「だね、えーと……あ、二匹とも召喚メニューに変形のボタンがあったよ」
「お? じゃあさっそく変形してみましょう。どんな姿になるのかしらね」
「よし。じゃあ、コタロウ、クマ吉、いくよ〜♪」
「わん!」
「くま〜!」
リンは躊躇うことなく二匹の変形ボタンをタップすると、コタロウとクマ吉の各部が変形し、姿が変わっていく。
二秒にも満たないわずかな時間で、リンとハルカの前に変形を終えた二匹が新たなる姿を現した。
コタロウは首が引っ込み、手足を折りたたんだ四角い形状へと変わっていた。手足の肉球があった部分に、タイヤが現れる。
クマ吉もまた手足が体に収納されると四角いシルエットに変形すると、お腹の部分に取っ手がふたつ現れ、地面にドンと鎮座した。
「えと、リン……一応確認して。コタロウとクマ吉のステータス情報に、なんか書いてない?」
「ん〜、あっ! 変形後の名称が表示される。コタロウはロボット掃除機、クマ吉は冷蔵庫だって……はーちゃん、便利そうだね♪」
「いやいやいやいやいやいやいや! ないから! 絶対にないから! なんでアニマルロボットが変形コマンド使って家電製品に変形するのよ! せめてここは、戦うために人型ロボットや乗り物になったり、武器とかに変形する場面でしょうに! なんで家電製品に変形しているの! ファンタジーだから! このゲームはファンタジーVRMMOなんだから! せめてファンタジーっぽいものに変形しなさいよ!」
「ええ、私はいいと思うけどな、可愛いし」
「ワン」
「クマ」
二台の家電製品が返事をすると、それぞれが稼働をはじめる。コタロウはロボット掃除機としてダンジョンの中に落ちたチリを吸い込み、クマ吉はお腹の中を冷やしはじめた。
それを見たリンはトコトコとクマ吉のそばに寄ると、冷蔵庫の扉が透明になり、扉を開けなくても中身が見えるようになる。
『ほえ〜便利〜』と感心しながら、ガチャとお腹に備え付けられた鋼鉄の扉を開け中を確認する。
「はーちゃん、はーちゃん、結構大きいよ。私とはーちゃんなら、二人で入っても余裕かも、あっ! 保冷と保温もできる最新のだ。お母さん欲しがってたな〜」
「コタロウは、なんかすごい勢いで地面を掃除しているわね。ラジコンカー並みのスピードよアレ……あんなのが狭い部屋の中を走り回って、ぶつかったりでもしたら、痛いじゃ済まなさそうね」
二匹の機能を確認する二人……最終的に下した結論は――
「戦闘では、まったく役に立たないわ」
――ハルカがバッサリと変形後の二匹を切り捨てた。
「わう〜ん」
「くま〜」
ハルカの言葉に、二匹は寂しそうに鳴いた。
「ん〜、でも、家にあったら便利そうだよ」
「まあ、家があればなんだけど、拠点となる家をまだ持てない私たちには、残念だけど意味ないわ」
「このゲーム、家もあるの?」
「あることはあるけど、家をもつには五人以上の仲間を集めて、クランを結成しないといけないのよね」
「はい! はーちゃん先生! クランってなんですか?」
リンは手を上げ元気よく質問すると、ハルカはいつもの先生モードへと口調を変えた。
「フォッフォッフォッ、教えて進ぜよう。クランとは同じ目的や思想をもつ者同士が集まり、協力してゲームをプレイする団体のことじゃな。この神器オンラインでは、五人以上のプレイヤーが集まり結成アイテムを使用するとクランを組めるのじゃよ」
「クランを組むと何かあるの?」
「うむ。クランを組めば限定イベントへの参加と、クラン特有のスキルや拠点が使えようになるのじゃ。スキルはクランメンバー全員に経験値増加やスキルの成功率上昇の恩恵があるようじゃ。拠点があればアイテム売買で資金調達が出来たり、内装設備をカスタマイズすれば、生産スキルによるアイテム生成が楽になるそうじゃよ」
「じゃあ、クランを結成して拠点を手に入れれば、コタロウとクマ吉の変形も役立ちそうだね」
「わん♪」
「くま〜♪」
リンの言葉に二匹は喜び、コタロウは猛スピードで二人の周りを掃除し、クマ吉は冷蔵庫の中を冷やしまくる。
「まあ、いつかは拠点をもつにしても、まだ先の話ね。いつになることやら……とりあえずはこのレアクエストをクリアーしてお金を貯めないと、クランを結成するにも、お金がいるからね」
「お金か……はーちゃん、いくらくらい必要なの?」
「ネットの情報だと百万ゴルは掛かるみたいね」
「えっと私の所持金……一万ゴルしかないよ⁈」
「まあ、一日や二日で貯まる金額じゃないから、気長にやりましょう。とりあえずは、レアクエストをクリアーしてお金を稼ぐわよ」
「よ〜し、みんな、がんばろうね」
「おー!」
「わん!」
「くまー!」
かくして二人と二台の家電製品は、クラン結成に向け、決意を新たにレアクエストへ挑むのであった。
…… To be continued 『リンと開運パック⁈』




