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密着していたアレックスと離れるがやはり襲われることはなかった。
仕方がないので追放先の教会を目指すため荷物を整理しているとアレックスに話しかけられた。
「イリアーゼ様、何ですかこの小さな鞄は」
アレックスが馬車から卸されていた私の荷物を指差してくる。
「何って私の荷物よ」
「教会でこれから過ごすというのにこの鞄1つだけですか?僕の資料と先程の服を入れている鞄の半分もないじゃないですか」
確かに重ね合わせると大きさにだいぶ差がある。
「死ぬだけなんだもの荷物は要らないと思ったのよ」
イリアーゼは鞄を持ち上げると中身を確認する。
「…中身は一体何が?」
「縄とナイフと睡眠薬よ」
「……………」
(どうしましょう、アレックスに無表情で物凄く見られているわ、美形だから無表情でいられると怖い。…男の人にこんなに見られるなんて初めて…なんて冗談言える雰囲気じゃないわね)
「えと、取り合えず二人でいるときは出さないわ」
「……取り合えず?」
(あ、違った。ならば!)
「ふ、二人でいるときは出さないわ!」
(こ、これが正解ね!)
そう言うとアレックスはイリアーゼに近寄って来てイリアーゼの顔に手を添えて顔を近づけ耳元に囁いた。
「一人でいるときでもダメですよ。これは僕がもらいます。」
アレックスはイリアーゼの顔に添えていた手を首に滑らせるとくすぐったさで力が抜けたイリアーゼの手から鞄を奪う。
「あっ、て…アレックス!」
「無事に教会についたらお返ししますよ。要らないものを返されるのを楽しみに待っててください。」
「でも使うかもしれないでしょう?ナイフは調理に使ったりとか睡眠薬は眠れないときとか縄は…えっと」
(あ、あれ?縄を使うときのことなんて言うんだっけ?くっ付けるじゃなくて…あ、そうか!)
「アレックスが私にしたのと同じことに使うとか!」
「え!?」
こう言えばいいのね!と、自信満々に言ったイリアーゼの発言にアレックスが驚いて声をあげるのと同時くらいにザザザザッと木の上から枝が揺れる音と葉っぱが落ちてきた。
(ん?盗賊?護衛?移動したのかしら?)
イリアーゼが木の上を見上げるがやはり姿は見えない。
「イリアーゼ様…今の発言はどういう?…いえ言いたいことはわかりますが念のため」
考え事をしているイリアーゼにアレックスは話しかけるが木の上にいた人物たちが気になって仕方ないイリアーゼは見上げたまま自分の言葉をよく考えずに話した。
「え?そのままの意味よ。私を掴まえて縄で動けないようにしたでしょ?同じことに使うのよ…言わせないで恥ずかしいわ」
イリアーゼの後半の言葉は縛るという言葉が出なかった事をアレックスにバレてしまったと思って負け惜しみで出た言葉だった。
しかし、その発言を聴いてアレックスは持っていた鞄を落とした。そして上からも盗賊だか護衛だかわからない二人が落ちてきた。
ドサッ!
「うっ!」
バサッ!
「イテッ!」
「え!?落ちてきた!!」
イリアーゼは驚いてアレックスにしがみついた。アレックスは固まっている。
落ちてきた二人はろくに受け身もとれなかったためか呻いている。
(なんで落ちてきたのかわからないけど、これって二人を調べるチャンスよね)
イリアーゼはアレックスが落とした自分の鞄から縄を取り出し、アレックスに向き直る。
「アレックス!今のうちにこれを使って!私も頑張るから!あ、でもあまり痛くしないでね」
(心配する必要はないけど上から落ちてきたばかりで縛られたら痛そうだものね…あ!そうよ縛るって言うんだった!)
今になってやっと縛るという言葉を思い出したイリアーゼだったが遅すぎた。
アレックスは驚きすぎてイリアーゼを見て固まったままだ。
そんなアレックスが動かないのを不思議に思ったイリアーゼは心配しながらも
「ねぇ?アレックス、早く縛って?ほら…私一人じゃ出来ないわ」
と、自分より背の高いアレックスを見上げて縄を両手で差し出した。
「い、いやあぁーー!!!私どものお嬢様になにさせているんですか!!?」
「おい!ふざけるなよ!馬車に乗ってた短時間でお嬢に何をした!?」
イリアーゼが縛ろうとしていた二人から悲鳴と怒声が上がった。
(ん?お嬢様?お嬢?)
イリアーゼが振り返ると盗賊か護衛かよくわからなかった二人が立ち上り今にも斬りかかってきそうな形相で武器を構えていた。
そして、その二人にはイリアーゼは見覚えがあった。
(私の専属のメイド、ミリヤと護衛、ゼンだ。…なんでここに?)
「アレックス!説明しろ!お嬢がどうして、んなことを!?」
「事と次第によってはゼンと私が相手になるわよアレックス!」
まさに一触即発の状況だ。
この状況にアレックスがやっと動いた。
「待ってください!誤解です!ゼン!剣を納めてください。ミリヤ!小型爆弾をしまってください。イリアーゼ様が危ないでしょう!」
どうやら三人は知り合いのようだ。名前を呼びあっている。
(き、危険はないってことなの?でもどうしてこんなに二人が殺気だっているの?…えっと、ミリヤとゼンとアレックスと私の話を合わせて考えると…………あ)
イリアーゼはやっとわかった。自分の発言がこの状況を招いたのだと
気が付いたらイリアーゼは地面にしゃがみこんでいた。もちろん恥ずかしくてだ。そんなイリアーゼに三人は
「イリアーゼ様!」
「お嬢様!」
「お嬢!」
と、心配して声をかける。
三人が自分に近寄るのがわかるとイリアーゼは顔を真っ赤にして
「ご、ごめんなさい!私が誤魔化したのが原因なのアレックスは悪くないわ!!!」
イリアーゼの声は大きく響き渡った。




