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森の入り口まで着くと馬車は来た道を帰って行った。

大きな木を背中に感じながらイリアーゼは馬車が遠くに見えるのを目で追っていた。他にすることがないからだ。


(私、結局馬車で死ななかったな、馬車に乗り込んだ時に覚悟決めてたのに、でも結局死ぬしあの時決めた覚悟は無駄じゃないわね)


そんなことを考えながら馬車を見てると落ち葉を踏みつけて来る足音が聞こえたので首を動かして顔をそちらに向ける。


「お待たせしました。…ああ、馬車があんなに遠くに行ってますね。すみません。今、縄をほどきます。」


そう、私が背中に木を感じているのも遠くに動く馬車を大人しく見るしかなかったのも首しか動かないのも全部、目の前の女装を解き男兵士の格好をしたアレックスに縛り付けられたからだった。


そもそもアレックスを危険な目にあわせたくないというイリアーゼの思いで、森の入り口についても何故か目を合わせてくれないアレックスより先に馬車を降りて馬車の鍵を外から閉めて逃げた事が原因だが…あのあと直ぐに捕まり縄で縛られたこと死ぬときまで忘れない。


「…化粧を落としても顔がいいのが腹が立つわ」


自分が原因とはいえアレックスを思っての行動、恩を仇で返された気分のイリアーゼは令嬢の時には絶対にしなかった表情でアレックスを睨み付ける。


「ありがとうございます。イリアーゼ様も素敵な顔をされてますよ」


「元の顔立ちが?それとも感情のまま出ている今の表情が?」


「元の顔立ちあってのその表情かと、…ああ、縄で擦れてしまいましたね。僕は魔法が使えるので回復しましょう。」


この世界には魔法が存在する。基本的には王族と血縁関係がある貴族が大半だが稀に平民にも魔法を使えるものがいる。といっても簡単なすり傷を直したりする程度だがヒロインは格が違った。王族並みに使えたのだ。だから平民だった親が貴族と再婚出来て養女としてあの学園に入れた。


「いいわ、そのままで」


「傷が残るかもしれません。」


「かすり傷ならすぐ治るわ、それに傷ならもうあるわ」


髪で隠していた追放される前に取り巻きだった者につけられた顔の傷に触って見せるとアレックスはイリアーゼの顔の傷に触れていた指に唇を寄せてきた。


「え!、アレックス、ちょっと!?」


不意打ちに驚きイリアーゼは手を引っ込めようとするとその手を掴まれてアレックスの空いている片方の腕で抱き寄せられてしまった。


「あ、アレックス!傷、治すわ!だから…」


離して、と言う言葉はイリアーゼは出すことが出来なかった。アレックスの耳元から伝わる話し声によって


「イリアーゼ様、木の上に人がいます。2人」


その言葉にイリアーゼは抵抗をやめてアレックスに身を委ねるとアレックスは恋人達の戯れのようにイリアーゼの腰に手を回してきた。


「いつ気づいたの?」


「縄をほどいている辺りからこちらに近づいているな、とは」


「そう…アレックス今から貴方だけでも…っ」


逃げて欲しいと、伝えようとすると強く手を握られて痛みが走った。


「なにするのよ…!」


抗議するためにアレックスの顔を見ると目を合わせられた。馬車を降りてもずっと目を合わせてくれなかったのに


「僕は仕事の放棄は絶対にしません。イリアーゼ様も僕から離れないでください。」


「この仕事で死ぬかもしれないのよ!」


「その事ですが、確認したいことがあります。」


「いつ襲われるのかわからないこの状況で?!」


「ええ、夢で見た話ではイリアーゼ様は行方不明となっていたんですよね?死んでいないのでは?」


「盗賊に遭遇した後なんて殺されるか、強姦されて捨てられるか、売られるかでしょう?殺される以外の事をされても運が悪ければ全部死ぬわ」


「強姦、売られるって、公爵令嬢として生きてきて何故そのような発想が…いや、そうではなくて木の上にいる人たちは本当に盗賊なのでしょうか?」


「え?どうしてそう思うの?」


イリアーゼは目線だけを上にして盗賊?の姿を確認するがイリアーゼの見える範囲に写ることはなかった。


「盗賊ならわざわざ上から確認なんてしないでこちらを襲いに来そうなのに彼らは何か観察しているような…」


「相手を観察して危険がないかとか荷物とか人を確かめて確実に捕まえるためじゃないの?」


「そんなに慎重な盗賊ならまずこの森を拠点にはしませんよ。イリアーゼ様は王都からあまり出る機会がないので知らないかもしれませんが、この森は不定期で兵士達の訓練場になっているんです。不定期で兵士が訓練する場所に盗賊が現れるなんてあり得ません。…馬鹿なら別ですが上にいる彼らは違うような気がします。気配の消し方、行動力を見ても護衛のような…」


動かないままでは怪しまれると思ったのかアレックスはイリアーゼの腰から手を離して髪に触れてきた。イリアーゼはなすがままにされながらアレックスの肩に視線を移動し考える。


(盗賊じゃなくて護衛?確かに襲ってこないわね。今なんて恋人が戯れているようにしか見えない絶好の機会なのに…って、演技とはいえ2、3時間前に会った男と私もなにしてるのかしら?軽い女だと思われてたら嫌…違う違う!なに考えてるの私!…例え上にいるのが盗賊じゃなかったとしても私は今日死ぬかもしれないのよ!)


余計なことを考えてしまったことを反省しながらイリアーゼはアレックスの顔を見た。


(それにこの綺麗な顔といい恋人の振りが上手なことといい恋人がいるか結婚しているに違いないわ。…最後に私好みの顔の男といれるだけで十分ね)


「イリアーゼ様?」


見られていることに気付いたアレックスが名前を呼んできた。


「あ、ごめんなさいちょっと考え事をしていて、アレックス上にいる人たちが何者か調べましょう。」


「そうですね。こちらから動かないと彼方も動かなそうですし、取り合えず教会方面に向かいながら考えましょう。」






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